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    東南アジアでビザ緩和競争が激化!タイとマレーシア、富裕層・デジタルノマド誘致合戦の行方

    東南アジアの観光大国、タイとマレーシアが、外国人観光客と長期滞在者を呼び込むためのビザ緩和競争を加速させています。パンデミック後の経済回復の切り札として観光業に期待を寄せる両国は、特に消費額の大きい富裕層や、場所を選ばずに働ける「デジタルノマド」の誘致に力を入れています。この動きは、東南アジア全体の観光地図を塗り替える可能性を秘めています。

    目次

    背景:パンデミックからの経済回復への一手

    新型コロナウイルスのパンデミックは、世界の観光業に壊滅的な打撃を与えました。特に、国内総生産(GDP)に占める観光業の割合が高いタイのような国では、経済への影響は深刻でした。

    パンデミック前、2019年に約4,000万人の外国人観光客を受け入れたタイですが、その後の渡航制限で観光客は激減。経済回復が急務となる中、各国は単に観光客の「数」を追うだけでなく、一人当たりの消費額が大きい「質」の高い旅行者をいかに呼び込むかという課題に直面しています。

    そこで白羽の矢が立ったのが、長期滞在を希望する富裕層、退職者、そしてリモートで高収入を得るデジタルノマドたちです。彼らは一般的な観光客よりも滞在期間が長く、地域経済への貢献度も高いと期待されています。この新たなターゲット層を獲得するため、各国は魅力的なビザ制度を打ち出し始めたのです。

    タイとマレーシアの戦略:長期滞在ビザで火花

    この競争をリードしているのが、タイとマレーシアです。両国は相次いで新しい長期滞在ビザを発表し、しのぎを削っています。

    タイ:最大10年の「LTRビザ」と大規模なビザ緩和

    タイ政府は、経済回復の柱として2024年に4,000万人の外国人観光客を誘致し、3.5兆バーツ(約15兆円)の観光収入を目指すという野心的な目標を掲げています。

    その目玉政策が、2022年に導入された「LTR(Long-Term Resident)ビザ」です。これは最長10年間滞在可能なビザで、主に4つのカテゴリーの外国人を対象としています。

    • 富裕層: 100万米ドル以上の資産を持つ個人
    • 富裕年金生活者: 安定した年金収入がある50歳以上の退職者
    • リモートワーカー(デジタルノマド): タイ国外の企業で働くリモートワーカー
    • 高度専門家: 特定の分野で高い専門性を持つ人材

    このLTRビザは、税制上の優遇措置や、タイの空港での専用レーン利用、90日ごとの入国管理局への出頭義務免除など、多くの特典が付与されており、富裕層や専門人材にとって非常に魅力的な内容となっています。

    さらにタイは最近、ビザ免除で入国できる国・地域を93へと大幅に拡大し、滞在可能期間も60日に延長するなど、短期旅行者向けの規制緩和も積極的に進めています。

    マレーシア:「MM2Hプログラム」の刷新と「プレミアムビザ」

    長年、退職者向けの長期滞在プログラム「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム(MM2H)」で人気を博してきたマレーシアも、タイの動きに対抗しています。

    MM2Hは一時的に申請条件が厳格化されましたが、最近では資産や収入に応じて「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」の3段階のカテゴリーを設けるなど、より柔軟な運用へと舵を切りました。

    さらに、MM2Hを補完する形で、より富裕層に特化した「プレミアム・ビザ・プログラム(PVIP)」を導入。「居住による投資」をコンセプトに、多額の預金などを条件に最長20年の滞在を許可するもので、タイのLTRビザを強く意識した制度と言えます。

    マレーシアは2024年に2,730万人の外国人観光客を目標としており、デジタルノマド向けのビザ「DE Rantau」も導入するなど、多様な旅行者のニーズに応えることで、観光収入の最大化を図っています。

    予測される未来と旅行者への影響

    このビザ緩和競争は、旅行者、そして東南アジア地域全体にどのような影響を与えるのでしょうか。

    旅行者にとっては選択肢が広がる時代へ

    私たち旅行者にとって、この競争は歓迎すべき動きです。特に、東南アジアでの長期滞在や「ワーケーション」を考えている人々にとっては、選択肢が格段に広がります。これまでは複雑だったビザ手続きが簡素化され、より合法的に、そして安心して長期滞在できる環境が整いつつあります。

    物価が安く、気候も温暖で、文化的に豊かな東南アジアは、デジタルノマドにとって理想的な拠点の一つです。今後、タイやマレーシアに追随し、ベトナムやインドネシアなども同様のビザ緩和に踏み切る可能性が高く、東南アジア全体がリモートワーカーにとってさらに魅力的な地域となるでしょう。

    地域全体での競争と協力

    一方で、この動きは周辺国にも大きな影響を与えます。タイとマレーシアが先行することで、ベトナム、フィリピン、インドネシアといった国々も、外国人材や富裕層の獲得競争に参入せざるを得なくなるでしょう。これにより、ASEAN域内での人材や資本の流動性が一気に高まる可能性があります。

    また、航空会社やホテル業界も、この新たな需要への対応を迫られます。短期のパッケージツアー客だけでなく、数ヶ月単位で滞在する旅行者に向けた新しいサービス(コワーキングスペース付きの宿泊施設、長期滞在者向けの割引プランなど)が次々と生まれることが予想されます。

    競争がもたらす光と影

    もちろん、良いことばかりではありません。富裕層や高スキル人材の流入は、不動産価格の高騰や、一部地域での生活コストの上昇を招く可能性があります。また、国内の労働市場との兼ね合いや、インフラへの負荷といった課題も浮上してくるでしょう。

    各国政府は、外国人誘致による経済的利益と、国内社会への影響とのバランスをいかに取るか、難しい舵取りを迫られることになります。

    この東南アジアのビザ緩和競争は、まだ始まったばかりです。今後、各国がどのような新しい政策を打ち出してくるのか。旅行者として、また世界の動きに関心を持つ一人として、その動向から目が離せません。

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