ハワイ州マウイ郡議会は、深刻化する住宅危機への対策として、数千軒に上る短期賃貸物件(STR: Short-Term Rental)を段階的に廃止する法案を可決しました。この歴史的な決定は、マウイ島を訪れる旅行者の宿泊先の選択肢や、島の観光業全体に大きな変化をもたらす可能性があります。
法案可決の背景にある深刻な住宅危機
今回の法案可決の背景には、マウイ島が長年抱えてきた深刻な住宅不足と、それに伴う家賃の高騰があります。特に、2023年8月に発生した大規模な山火事でラハイナの町が壊滅的な被害を受け、数千人の住民が住まいを失ったことで、住宅危機はさらに深刻化しました。
多くの住宅が観光客向けの短期賃貸として運営される一方、地元の住民、特に山火事の被災者が手頃な価格で住める長期賃貸住宅が極端に不足している状況が問題視されていました。地元コミュニティからは、住民の生活基盤を守るために、短期賃貸を規制すべきだという声が強まっていました。
廃止の対象となる物件と今後のスケジュール
この法案が主に影響を与えるのは、アパートメントとして区画されたエリアにある約7,000軒の短期賃貸物件です。これらの物件は、これまで観光客向けのバケーションレンタルとして合法的に運営されてきましたが、法案の施行後は長期賃貸住宅への転換が促されることになります。
リゾート区画やホテル区画にある短期賃貸物件は、今回の法案の対象外です。
廃止は段階的に進められる計画で、南マウイでは2025年半ば、山火事で甚大な被害を受けた西マウイでは2026年初頭からの施行が予定されています。
旅行者と観光業界に予測される影響
宿泊先の選択肢と料金への影響
この決定は、マウイ島への旅行を計画する人々にとって無視できない影響を及ぼします。
- 宿泊施設の供給減: 約7,000軒という大規模な短期賃貸物件が市場からなくなることで、宿泊施設の総数が大幅に減少します。特に、キッチン付きのコンドミニアムなど、家族連れや長期滞在者に人気のあるタイプの宿泊施設の選択肢が狭まる可能性があります。
- ホテル料金の高騰: 短期賃貸という選択肢が減ることで、旅行者の需要は既存のホテルやリゾートに集中することが予想されます。その結果、ホテルの予約が取りにくくなったり、宿泊料金が全体的に上昇したりする可能性があります。
観光業界へのインパクト
ホテル業界にとっては、競合となる短期賃貸が減少するため、追い風となる可能性があります。一方で、AirbnbやVrboといったオンライン旅行代理店(OTA)は、主要な取り扱い物件を失うことになり、ビジネスモデルの転換を迫られるかもしれません。
島全体の宿泊収容能力が低下することで、観光客の受け入れ数そのものに上限が生まれ、マウイ島の観光のあり方が変わっていく可能性も指摘されています。
地域経済と観光のバランスを巡る議論
この法案は、地元住民の生活環境を保護し、持続可能な観光を目指す上で重要な一歩と評価する声がある一方で、観光収入に依存する地域経済への打撃を懸念する声も上がっています。
短期賃貸のオーナーや不動産業界からは、財産権の侵害であるとして法的な対抗措置も示唆されており、今後も議論は続く見通しです。
マウイ島は今、住民の生活と観光業という2つの重要な要素のバランスをどのように取っていくのか、大きな岐路に立たされています。この決定が今後、マウイ島のコミュニティと観光にどのような未来をもたらすのか、引き続き注目していく必要があります。

