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    地球がシェフ!ブルガリア・サパレヴァ・バニャで味わう、103℃の間欠泉グルメ紀行

    コンクリートジャングルでの日常は、時として僕の野生を鈍らせる。サバイバルゲームでアドレナリンを放出し、アマゾンの奥地で極限を味わった経験を持つ僕にとって、制御された安全な環境は少しばかり退屈に感じることがあるのだ。求めているのは、予測不能な自然の力。人工的ではない、本物の熱源。そんな渇望が、僕を東欧の小国ブルガリアへと向かわせた。目的地は、首都ソフィアからほど近い温泉郷、サパレヴァ・バニャ。ここには、ヨーロッパで最も熱いとされる103℃の間欠泉が、太古から変わらず地球の息吹を噴き上げているという。そして、その大地のエネルギーを直接利用した「グルメ」が存在すると聞いたのだ。間欠泉の蒸気で調理する料理。それは、どんな最新鋭の調理器具も敵わない、究極のフィールドキッチンではないか。想像しただけで、胸が高鳴る。アスファルトに囲まれた日常を抜け出し、地球の鼓動を直接味わう旅が、今始まる。

    この温泉郷での大地の恵みを活かした料理に続き、アドリア海の宝石・コルチュラ島で味わう白ワインとシーフードの美食の旅もまた、自然と調和した食体験としておすすめです。

    目次

    ソフィアの喧騒を抜け、大地の息吹が待つ場所へ

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    ブルガリアの首都ソフィア。その歴史ある街並みは魅力的だが、僕の心はすでにリラ山脈のふもとに位置するサパレヴァ・バニャへと向かっていた。旅の出発点は、ソフィアの「オフチャ・クペル・バスターミナル(Avtogara Ovcha Kupel)」。ここからサパレヴァ・バニャ行きのバスが発着している。事前にオンラインで時刻表をチェックするのが賢明だが、ターミナルの窓口で直接チケットを購入するのも旅の楽しみの一つだ。片道の料金は約8レフ(およそ650円)で、所要時間は約1時間半から2時間程度だ。バスの車窓から眺める風景は、都会の景色から徐々にのどかな田園地帯へと変わっていく。遠くに望むリラ山脈の雄大な稜線が、目的地が近いことを知らせてくれる。

    バスを降りるとすぐに、空気の違いを感じた。ソフィアとは明らかに異なる濃度で、どこか硫黄の香りが混ざった湿った空気が肌を優しく包み込む。これこそ温泉地特有の香りだ。小さな町は落ち着いていて、ゆったりとした時間が流れている。観光客向けの派手な看板はほとんどなく、地元の人々の日常が垣間見える素朴な雰囲気が心地よい。

    町の中心部へ歩みを進めると、遠くからも聞こえてくる。シャーッという力強い水蒸気の音。そして立ち上る白い湯気。僕の目的地は、もうすぐ目の前にあった。

    103℃の咆哮。ヨーロッパ一熱い間欠泉との対峙

    町の中心部にある公園にそれはあった。まるで地球が咆哮しているかのように、天へ向かって熱水を噴き上げる間欠泉。これこそがサパレヴァ・バニャの象徴であり、私が探し求めていた「本物の熱源」だった。約20秒ごとに、ゴボゴボと地鳴りのような音を立てながら、高さ18メートルもの熱水の柱が空高く突き上がる。その温度は摂氏103度という驚異的な数値で、沸点を大きく越えた加圧された地下熱水が地上に放出される瞬間の力強いエネルギーを感じさせる。

    その光景はまさに圧巻だった。自然が持つ荒々しくも美しいエネルギーの噴出。周囲には立ち込める湯気がもうもうと宙を舞い、硫黄の匂いが辺りに漂っている。風向きによっては熱い水しぶきが飛んでくることもあるため、あまり間近に近づくのは避けたほうがよい。特に電子機器への影響には十分注意が必要だ。しかし、この圧倒的な存在感の前では、そういった小さな注意点など忘れてしまいそうになる。私はしばらく、その力強い地球の営みをただ呆然と見つめていた。アマゾンの密林で感じた生命の力強さとは異なり、地下深くから湧き上がる無機的でありながらも根源的なエネルギーがここには存在していた。

    この間欠泉は、1957年に掘削作業中の偶然の発見によるものだという。それ以来、町の暖房や温室栽培、そしてもちろん温泉として、人々の生活を支え続けてきた。大地の恵みを人々が敬意をもって巧みに利用し、その共存の形がこの町に息づいているのだ。

    地球の蒸気釜で作る、素朴で滋味深いごちそう

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    さて、いよいよ本題の間欠泉グルメに迫ろう。この圧倒的な熱エネルギーを料理に活かさない手はない。間欠泉のすぐそばには、その蒸気を利用した調理用の特別な設備、言わば「地球の蒸気釜」が設置されている。観光客が気軽に利用できるこの場所は、僕が目指してきた究極のフィールドキッチンそのものだ。

    食材はシンプルに。持ち込みで楽しむ間欠泉クッキング

    体験は非常にシンプルだ。町のスーパーや市場で自分の好きな食材を買って持ち込むスタイルが基本だ。定番は卵とジャガイモ。これは温泉グルメの王道とも言えるだろう。僕は近所の小さなお店で、新鮮そうな卵を数個と泥付きのジャガイモ、そしてブルガリア名物のソーセージ「ルカンカ」を手に入れた。これらを網袋に入れて準備完了だ。

    調理施設の周囲では、地元の人や他の観光客が思い思いの食材を蒸している。漂うのはジャガイモの甘い香りと硫黄の匂いが混ざり合った、独特で食欲をそそる芳香だ。地元のおじいさんが僕の様子を見て「卵は10分、ジャガイモは30分くらいかな」と暖かく教えてくれた。こうした何気ない交流が旅の思い出をより豊かにしてくれる。シャイな僕でも、「食」という共通のテーマがあれば自然と会話が生まれるのが不思議だ。

    蒸気釜の蓋を開けると、100℃を超える蒸気が勢いよく噴き出してくる。火傷しないよう慎重に網袋をフックにかけて、再び蓋を閉める。あとは大地の力が魔法を施してくれるのを待つだけ。この待ち時間もまた、格別だ。最新のキッチンタイマーなどなく、ただ時計を見ながらゆっくりとサパレヴァ・バニャの穏やかな時間を楽しむ。

    卵とジャガイモ、その究極の姿

    10分が経ち、まず卵を取り出してみる。熱々の殻を慎重に割ると、つるりと滑らかな白身がお目見えした。一口かじると、その違いに驚愕する。白身はぷるんとしっかり固まっているのに、黄身はとろりとした絶妙な半熟加減だ。そして何より味が濃厚である。温泉のミネラルを含んだ蒸気が、卵が持つ本来の甘みとコクを最大限に引き出しているのだ。ただの茹で卵とは全く違う。これは大地が調理した「芸術品」と言える。

    続いてジャガイモ。30分ほど蒸したそれは、竹串がスムーズに通るほどほくほくに仕上がっている。皮ごと口に運ぶと、香ばしい皮の風味と驚くほど甘い中身が口いっぱいに広がった。バターも塩も今は不要だ。このままで完璧だ。素材の味をこれほどストレートに感じられる調理法はほかにないだろう。シンプルだからこそ誤魔化しが効かない。大地の熱が最高のシェフであることを証明している。

    ソーセージのルカンカも蒸されることで余分な脂が落ち、肉の旨味が凝縮されている。スパイスの香りが一層際立ち、こちらも絶品だ。周りを見渡せば、トウモロコシを蒸している家族やカボチャを調理しているカップルの姿もある。皆が笑顔を浮かべている。この場所は単なる調理場ではなく、食を通じて人と自然、そして人同士が繋がるコミュニティスペースなのだ。

    レストランで味わう、伝統の間欠泉料理「カヴァルマ」

    自分で調理する体験も素晴らしいが、地元のレストランで本格的な間欠泉料理を味わうのもまた格別だ。間欠泉公園の周辺には、この地域の恵みを生かしたレストランがいくつか点在している。僕が訪れたのは地元でも評判の店で、メニューには間欠泉の蒸気で調理されたことを示すマークが付いている。

    僕が注文したのはブルガリア伝統の土鍋料理「カヴァルマ」。豚肉や鶏肉、玉ねぎ、パプリカ、トマトなどの野菜をスパイスと共に土鍋に入れ、長時間じっくりと煮込む料理だ。普段はオーブン調理だが、ここでは間欠泉の蒸気で何時間もかけて火を通すという。料金は一皿20レフ(約1600円)前後。決して安くはないが、その手間と時間を考えれば納得の価格だ。

    運ばれてきた土鍋の蓋を開けると、湯気とともに芳醇な香りが立ちのぼる。スプーンですくうと、肉は繊維がほろりと崩れるほどに柔らかい。野菜は形を保ちながらも旨味が凝縮され、とろけるようだ。低温でじっくり熱を加えることで、素材の細胞を壊さず旨味を内側に閉じ込めているのだろう。過激な直火ではなく、優しく包み込むような大地の熱だからこそ生み出せる、究極の煮込み料理。その深く優しい味わいは、旅の疲れを芯から癒してくれた。

    グルメの後は、大地の恵みを全身で浴びる

    サパレヴァ・バニャの魅力は、間欠泉グルメだけにとどまらない。もちろん、ここはブルガリアを代表する温泉地のひとつである。大地の恵みを味わい尽くしたあとは、その恩恵を全身で感じる温泉浴こそが最高の贅沢と言えるだろう。

    この町には、近代的なスパ施設から地元の人たちに親しまれている公衆浴場まで、さまざまな温泉施設が点在している。私が選んだのは、屋外プールを備えた比較的新しいスパコンプレックスだ。1日利用の入場料は約30レフ(約2400円)で、水着とタオルさえ持っていれば誰でも気軽に楽しめる。更衣室やシャワールームが清潔に保たれているのも安心して過ごせるポイントだ。

    この温泉は間欠泉から直接引いた源泉かけ流しで、硫黄やフッ素、ケイ素などの豊富なミネラルを含んでいる。神経痛や皮膚疾患に良いとされているが、専門的なことは置いておいて、湯に浸かると体の奥からじんわり温まるのが実感できる。少し低めの温度の屋外プールでリラ山脈の風景を見ながらゆったり過ごすもよし、温度の異なる数種類の屋内浴槽を巡るもよしだ。旅の予定を改めて考えたり、ただぼんやりと物思いにふけったりと、何もしない時間そのものが旅の豊かさなのかもしれない。

    さらにサウナやスチームバスも完備されており、至れり尽くせりの環境が整っている。間欠泉グルメで満たされたお腹を抱えながら、温泉で心と体をゆったりとほぐす。これ以上のデトックスはなかなかないだろう。サバイバルゲームで泥だらけになり、アドレナリンを出し切る体験とは対照的に、ここには静かで穏やかな癒しの時間が流れている。私はその「動」と「静」、両方の充実を感じた。

    旅の準備と、心に留めておきたいこと

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    この素晴らしい体験を味わうためには、特別な準備はほとんど必要ない。それこそがサパレヴァ・バニャの魅力の一つでもある。

    服装は動きやすいカジュアルなもので十分だ。町は小規模なので、歩きやすいスニーカーが一足あれば問題ない。ただし、リラ山脈のふもとに位置しているため、夏でも朝晩はやや肌寒く感じることがある。薄手の羽織りものを持っていくと安心だ。冬に訪れる場合は、しっかりとした防寒対策が欠かせない。

    持ち物リストを作るならば、温泉を楽しむための水着とタオルは欠かせない。現地のスパ施設でレンタルも可能だが、自分で持参したほうが気楽だろう。間欠泉クッキングを体験するなら、食材を入れるための網袋があると便利だ。これも現地で入手できるが、日本から一つ持って行くとスムーズかもしれない。

    予約については、ソフィア発のバスは、多くの場合予約なしで利用できる。しかし観光シーズンの週末などは混雑することもあるため、心配な方は事前にオンラインで予約状況を確認すると安心だ。レストランも、特に高級店でなければ予約なしで入れるところがほとんどだ。私が訪れた際も、平日の昼間だったせいかスムーズに席に案内された。

    最も注意すべき点は、やはり間欠泉の熱さである。噴き出す蒸気や熱湯は非常に高温なので、絶対に柵を越えたり、噴出口に手をかざしたりしないこと。調理施設を利用する際も、蒸気による火傷には十分に気をつけてほしい。自然への敬意を忘れず、節度ある態度で接することが、安全に楽しむための最低限のマナーだ。

    地球の鼓動が、日常をリセットしてくれる

    サパレヴァ・バニャで過ごした一日は、僕にとって忘れがたい体験となった。103℃もの熱水が空に向かって吹き上がる光景、その熱で調理された素朴ながらも力強い味わいの料理、そして全身を包み込むような温かな温泉。これらすべてが、地球という惑星が生命を宿していることを、まさに肌で感じさせてくれた。

    普段の生活では、私たちは加工されパッケージされたエネルギーに囲まれている。電気、ガス、ガソリン──これらは便利で効率的であるが、その根源にある自然の姿を実感する場面は少ない。しかしここでは違った。地中深くのマントルから湧き出る熱が湯を沸かし、食材を温め、人々の心と体を癒す。原始的で力強いこの循環の中に身を置くことで、僕の感覚は次第にリセットされていくのを感じた。

    極限環境への挑戦も刺激的で魅力的だが、このように自然と穏やかで建設的に関わる時間もまた、心を豊かにしてくれる。サパレヴァ・バニャは、荒々しい自然の力と人々の穏やかな暮らしが見事に調和した場所だった。

    ソフィアからわずか2時間の距離にあるこの小さな温泉地は、日帰りでも十分に楽しめる。ブルガリアを訪れるすべての人にぜひ知ってほしい、隠れた宝石のようなスポットだ。もし日常に少し疲れを感じたり、本物のエネルギーに触れたいと思ったなら、次の旅先リストにサパレヴァ・バニャを加えてみてはいかがだろうか。大地の息吹が、きっとあなたを温かく迎えてくれるだろう。

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    この記事を書いた人

    未踏の地を求める旅人、Markです。アマゾンの奥地など、極限環境でのサバイバル経験をもとに、スリリングな旅の記録をお届けします。普通の旅行では味わえない、冒険の世界へご案内します!

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