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    聖なるガンガーに抱かれて。インド・バラナシ、生と死が溶け合う河で僕が見たもの

    デリーの空港に降り立った瞬間に全身を包む、スパイスと熱気と、そして得体の知れないなにかが混じり合った匂い。クラクションが鳴り止まない喧騒。それが僕にとってのインドの原風景だ。全国を飲み歩く旅ライターなんて肩書きを名乗っているけれど、僕が本当に求めているのは、その土地の魂に触れるような一杯と、そこに生きる人々の剥き出しの営みなのかもしれない。そして、その渇望が極まる場所が、ここバラナシにはある。

    ヒンドゥー教徒にとって最大の聖地。母なる大河ガンガー(ガンジス川)が、街のすぐ脇を悠々と流れる。人々はここで生まれ、ここで祈り、そして最期の時を迎える。生と死が、まるで日常のグラデーションのように溶け合っている街。そんな噂はかねてから聞いていた。だが、噂は所詮噂だ。自分の目で見て、肌で感じなければ、なにも始まらない。ウィスキーグラスを片手に地図を眺める夜を幾度も繰り返し、僕はついに、この混沌の聖地へと向かう列車に飛び乗ったのだ。

    この街の心臓部は、ガンジス川沿いに連なる「ガート」と呼ばれる沐浴場にある。人々が集い、祈り、別れを告げる、すべての物語が生まれる場所。この記事を読んでいるあなたも、きっとこの場所に惹かれているはずだ。だから、僕が体験したすべてを、包み隠さずお伝えしようと思う。準備するもの、心構え、そして、この聖なる河が僕に教えてくれたこと。さあ、一緒にバラナシの旅を始めようじゃないか。

    また、日常に溶け込む祈りの光景に惹かれる方は、ラオス・ルアンパバーンの神聖な朝の托鉢も、きっと心を揺さぶられる体験となるだろう。

    目次

    夜明け前のガート、祈りの声が響き始める

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    バラナシの朝は、驚くほど早く訪れる。そして、その朝の神聖な雰囲気をいちばん強く実感できる場所が、ガンジス川だ。僕は宿の主人に起こされ、まだ星が瞬く午前4時半にガートへ向かった。ひんやりとした空気が肌を包み込み、昼間の喧噪を忘れさせる静けさが街を支配している。迷路のような細い路地を抜けると、目の前に雄大なガンジス川が広がっていた。

    川岸には無数の小舟が客を待ち構えている。朝日の昇る様子を川上から眺めるボートトリップは、バラナシ観光の大きな魅力の一つだ。料金は交渉制で、提示された金額はあってないようなものだが、おおよそ1時間半程度のツアーで一人あたり300〜500ルピー(約540〜900円)が相場だろう。グループで乗ればさらに安くなる。僕は同じ宿の旅行者たちと相乗りし、ゆっくりと岸を離れた。

    櫓を漕ぐ音だけが「ギーコ、ギーコ」と静かに響く。まだ薄暗い水面は鏡のように穏やかで、対岸のシルエットがくっきりと映し出されている。岸辺のガートでは、すでに人々が動き出していた。体を清める人、ヨガに励む人、静かに祈りを捧げる人。それぞれの朝が、ガンジス川とともに始まっていくのだ。

    やがて東の空がオレンジから紫のグラデーションに染まりだす。その光景は言葉を失うほどの美しさだった。太陽がゆっくりと顔をのぞかせると、岸辺の寺院からは鐘の音やマントラ(真言)が響き渡る。まるで街全体が太陽の誕生を祝福しているかのようだった。船頭が指差す先には、次々と川に浸かる人々の姿が見える。彼らにとって、このガンジス川での沐浴は一日の始まりを告げる神聖な儀式であり、罪を洗い流し、魂を清めるための欠かせない習慣である。

    この早朝のボートトリップは、所要時間にして約1時間半から2時間だ。しかし、その短い時間のなかにバラナシの生活と信仰が凝縮されていると感じられた。ただ美しい景色を眺めるだけにとどまらず、ここに暮らす人々の息づかいや祈りを身近に感じられる体験だ。この体験なしにバラナシを語ることはできないだろう。

    生と死の境界線、マニカルニカー・ガートの煙

    ボートは川をさかのぼり、やがて異様な熱気と煙が立ち上る一帯に差し掛かった。マニカルニカー・ガートだ。ここでは、365日24時間、火葬の煙が絶えることがない。ヒンドゥー教徒たちは、このバラナシで命を終え、ガンジス川に灰を流すことで輪廻の苦しみから解放されると信じている。その信仰の最終地点が、まさにこの場所なのだ。

    川岸には薪が山積みされ、何体もの遺体が鮮やかなオレンジ色の布にくるまれて横たわっている。そして、いくつもの火葬の炎が激しく燃え盛り、火花が舞い上がっていた。独特の匂いが風に乗り鼻を突くが、それは決して快いものではない。しかし、不思議なことに嫌な感じはせず、むしろ圧倒的な現実感に引き込まれてしまった。

    船頭は穏やかに語った。「ここでは悲しみを表に出さないんだ。魂が解脱する祝福の時だからね」。その通り、遺族たちは静かに儀式を見守るだけで、泣き叫ぶ者はいない。死は「終焉」ではなく「新たな旅立ち」として受け入れられている。その事実が、私の死生観を深く揺るがした。

    ここには絶対に守らなければならないルールがある。それは、写真撮影の禁止だ。ここは観光の見世物ではなく、最も神聖で個人的な儀式の場である。カメラを向ける行為は、彼らの尊厳を著しく傷つけることになる。もし写真を撮ろうとすれば、突然現れる男性たちから厳しく注意され、トラブルに発展しかねない。ここはファインダー越しに見るのではなく、自分の目と心にしっかりと焼き付けるべき場所なのだ。

    ボートの上から遠く眺めるだけでも、その場の空気は十分伝わってくる。立ち上る煙の彼方には、人々の祈りと数千年にわたる営みの重みが感じられた。生者が沐浴するそのすぐ隣で、死者は煙となって天へと還っていく。この強烈な対比こそが、バラナシという街の真髄なのだろう。私たちはただ静かにその光景を見つめ、ゆっくりとその場を後にした。

    いざ、聖なる流れへ。沐浴という名の対話

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    朝日を浴び、火葬の煙を見つめたその瞬間、僕の中で決心が固まった。「沐浴をしてみよう」と。旅に出る前は、正直なところためらいがあった。ガンジス川の衛生状態については、良い話をほとんど聞かない。大腸菌が基準値の何百倍も検出されるとか、上流からさまざまな汚れが流れ込んでいるとか。旅ライターとして各地を訪れ、胃腸の丈夫さには自信があったが、それでも危険は避けたかった。

    それでも、目の前で老若男女がためらいなく聖なる川へ身を浸している姿はあまりに自然で、穏やかだった。彼らにとって、この川は科学的な水質検査の対象ではなく、母なる女神そのものなのだ。その信仰の前に、僕のちっぽけな不安はただの傲慢な考えに思えてきた。この街の魂に触れたいと思ったなら、彼らと同じようにこの河に身を預けてみるべきではないか。

    僕は比較的静かで観光客も少ないアッシー・ガートを選んだ。メインのダシャーシュワメード・ガート周辺は人通りが多く、少し気おくれしたためだ。沐浴自体に料金はかからない。ガートは誰にでも開かれている。ただし、親切を装って近づき、マッサージや祈祷を施した後に法外な料金を請求する者もいるので注意が必要だ。毅然とした態度で「ノー、サンキュー」と断る勇気も時には必要になる。

    沐浴の準備と心構え

    さて、沐浴を決意したらいくつか準備を整えよう。まずは服装だ。僕は現地で購入した薄手のクルタ(インドの民族衣装)と、すぐに乾くアウトドア用パンツに着替えた。女性の場合は、サリーやパンジャビドレスでそのまま入る人が多いが、濡れても透けにくい濃い色の服や、水着の上にTシャツとレギンスを重ねるのが無難だろう。ガートには着替え用の立派な施設はほとんどない。大きな布で体を隠しながらサリーに着替える現地の女性たちの手際には感心するばかりだ。僕たちは濡れた体を拭くための速乾タオルと、着替えを入れるビニール袋、さらに宿に戻るためのサンダルを準備した。貴重品は必要最低限にし、防水ポーチに少量の現金と宿の鍵だけを入れて首から下げ、残りは宿に置いてきた。

    聖なる水と向き合う

    いよいよガートの階段をゆっくりと降り、水際に立つ。水は思っていたより冷たく、そして重みを感じた。少し濁っているが、大量のゴミが浮いているわけではない。慎重に足を水につけると、ぬるりとした泥が足の指を包み込む。一歩また一歩と進み、腰まで浸かった。周囲では人々がそれぞれの方法で祈りを捧げている。太陽に向かって手を合わせる者、口をすすぐ者(これは決して真似してはいけない)、何度も頭まで水に潜る者もいる。

    僕も彼らを真似て、両手ですくった水を静かに頭からかけた。ひんやりとした水が旅の疲れや心の淀みを洗い流すように感じられた。次に勇気を出して鼻と口をしっかり閉じ、ゆっくりと全身を水中に沈めた。ほんの数秒のことだ。水面から顔をあげた瞬間、目の前に広がるガンジス川の風景がそれまでとはまったく異なって見えた。

    これは「浄化」という言葉だけでは説明しきれない、不思議な感覚だった。清められたというより、むしろこの混沌とした大河の一部となったような一体感だ。人々の祈りも、牛の糞も、そして上流から流れてくるすべてのものも、このガンガーの前では等しく受け入れられる。僕という存在も、その大きな流れの中のほんの小さな一点に過ぎないのだと感じられた。そこには、計り知れないスケールの安らぎがあった。

    もちろん、衛生面には十分注意を払った。沐浴中は絶対に水を飲まない。顔を洗う際も目や口に水が入らないよう細心の注意を払った。そして沐浴後はすぐに宿に戻り、清潔な水で念入りにシャワーを浴びた。これが、聖なる体験と現実的なリスク管理を両立させる、旅人なりの妥協点であろう。

    ガンジス川の衛生は?旅人が知っておくべきリアルなQ&A

    ここまで読んで、多くの人が同じ疑問を抱いていることでしょう。「結局、ガンジス川の水って本当に安全なの?」「沐浴してお腹を壊したりしないの?」この問いはバラナシを訪れる際に避けて通れない、非常に現実的な疑問です。私自身の体験と現地で得た情報をもとに、旅行者が気になりやすい質問にお答えしていきます。

    Q1. ガンジス川の水で病気になることはありませんか?

    率直に申し上げると、リスクが全くないとは言えません。これは間違いありません。現地の人々は免疫を獲得している可能性がありますが、私たち旅行者はそうではありません。川の水にはさまざまな細菌が含まれている可能性が高いため、何よりも「絶対に水を飲まない」ことが鉄則です。口をすすぐのも避けるべき行為です。

    私が実践した対策は以下のとおりです。

    • 沐浴中は口をしっかり閉じる。
    • 目や耳に水が入らないように、顔は慎重に濡らすか、濡らさないようにする。
    • 体に切り傷や擦り傷がある場合は沐浴を控える。傷口から細菌が侵入するリスクがあるためです。
    • 沐浴後はなるべく早く清潔な水(シャワー)で全身を洗い流し、石鹸でしっかり洗う。
    • 濡れたタオルは他の衣類と分けて管理し、すぐに洗濯する。

    これらの注意を守ったおかげで、私自身はお腹を壊したり体調を崩したりすることはありませんでした。しかしこれはあくまで私の個人的な経験です。体質やその日の体調によっても影響は異なるでしょう。最終的には自己責任を強く意識することが必要です。

    Q2. 渡航前に準備しておくべきことはありますか?

    医療面での準備としては、予防接種の検討が非常に重要です。特に破傷風のワクチンは怪我のリスクを考えると接種しておくと安心です。A型肝炎や腸チフスなども、インド旅行では推奨されることが多い予防接種です。これらは効果が現れるまでに時間がかかるため、出発の1ヶ月以上前にはトラベルクリニックなどで医師に相談することをおすすめします。

    また、日本から質の高い整腸剤や下痢止め、必要に応じて抗生物質を持参することも大切です。現地の薬局でも薬は買えますが、自分の体に合うとは限りません。日頃使い慣れた薬が最も安心できるお守りになります。

    Q3. 沐浴以外で気をつけるべき衛生面のポイントは?

    ガンジス川のみならず、バラナシ滞在中は常に衛生面には十分に気を配りましょう。

    • 飲料水は必ず未開封のミネラルウォーターを選ぶ。レストランで提供される水も慎重に見極める必要があります。
    • 食事は火がよく通っていて、清潔そうなものを選びましょう。路上で売られているカットフルーツや氷入りの飲み物は控えたほうが無難です。
    • 手洗いを徹底する。食事前や外出先から戻った後は、石鹸での手洗いやアルコール消毒を習慣にしてください。ウェットティッシュや除菌ジェルは常に携帯することをおすすめします。

    これらの基本的な注意を守ることで、ガンジス川での体験をより安全に楽しむことができます。過剰に神経質になる必要はありませんが、「ここは日本ではない」という自覚を持つことが、インド旅行を快適かつ安全に過ごすための重要な心構えと言えるでしょう。

    プージャの炎が照らす夜。ガンガー・アールティの幻想

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    バラナシの夜は、荘厳な祈りの儀式「ガンガー・アールティ」とともに静かに深まっていく。毎晩、日没後に行われるこの儀式は、母なるガンガーに感謝を捧げるヒンドゥー教のプージャ(礼拝)である。最も賑わう会場はダシャーシュワメード・ガートであり、僕もその熱気を味わうために、日没前からガートへ向かった。

    儀式開始の1時間以上も前から、ガートの階段には国内外の観光客や巡礼者がびっしりと詰めかける。良い場所を確保するのは非常に難しい。僕は少し離れた場所から観賞することにしたが、見るための選択肢は幾つかある。

    • ガートの階段に座って間近で鑑賞する。迫力は抜群だが混雑は避けられない。
    • 川上に浮かぶボートから眺める。距離はやや生まれるが、儀式全体を見渡せる絶好の席だ。料金は交渉制であり、夜間はやや高めで500〜1000ルピー(約900〜1800円)になることもある。
    • 近隣の建物の屋上にあるレストランから鑑賞する。食事を楽しみながら優雅に見ることができるが、やや離れた雰囲気になるかもしれない。

    やがて辺りが暗闇に包まれると、荘厳な音楽とともに儀式が始まった。バラモン(司祭階級)の若者たちが華やかな衣装を纏い、祭壇の前に立つ。鐘の音が響き渡り、サンスクリット語のマントラが力強く唱えられる。その声はマイクを通してガート中に響き渡り、聴くものの心を静めていくようだった。

    儀式のクライマックスは、巨大な燭台に灯された炎だ。司祭たちは重そうな燭台を手に取り、音楽に合わせてリズミカルに動かしながら、ガンジス川に向けて祈りを捧げる。炎は夜空を焦がし、その光が川面に映り幻想的に揺らめく。お香の煙が立ち上り、周囲は神秘的な香りで満たされる。それは単なる宗教儀式の域を超えた、壮大なスペクタクルであった。

    集まった人々は皆、静かにその光景を見つめている。手を合わせる者、目を閉じて祈る者、スマートフォンで動画を撮る者。それぞれの形でこの神聖な時間を心に刻んでいる。儀式の終盤には、参列者が炎の力を分けてもらい、小さな灯篭(ディーヤ)をガンジス川に流す。無数の灯りが願いを載せてゆっくりと川を下る光景は、涙がこぼれそうなほど美しかった。

    このガンガー・アールティの儀式はおよそ1時間で幕を閉じるが、その熱狂と感動は深夜までガートに残り続ける。昼の喧騒や夜明け前の静けさとは異なる、祈りと感謝に包まれたバラナシの夜の顔。これもまた、この街が持つ忘れ難い魅力のひとつなのである。

    沐浴体験をより深く、賢く旅するための手引き

    これまで僕の体験談をお伝えしてきたが、ここからはあなたの旅をより快適で充実したものにするために、具体的な情報や役立つポイントを整理して紹介しよう。バラナシは非常に魅力的な街である一方、旅行者にとっては少し扱いづらい面もある。しっかりと準備をし、事前に知識を持って臨むことが、旅の質を大きく左右するのだ。

    ボートやガイドの予約方法について

    バラナシでのボートツアーやガイドの手配は、基本的に現地での交渉が一般的だ。ガートを歩いていると、絶え間なく「ボートいかがですか?」という声がかかる。これが最も安く済む方法だが、交渉に慣れていないと相場より高値を提示されることもある。

    • 現地交渉: 事前に相場を調べ、自分の希望価格を明確に伝えることが大切だ。複数の船頭に声をかけて価格を比べるのも効果的。合意したら、後から追加料金を請求されないよう、利用時間やルートをしっかり確認しておこう。
    • ホテルやゲストハウス経由: 多少割高になるが、最も手軽で安心できる方法だ。宿のスタッフに依頼すれば、信頼できる船頭やガイドを紹介してもらえる。言葉の不安もなく、トラブルも少ないため、初めてのインド旅行や交渉が苦手な方には特におすすめだ。
    • オンライン予約: 日本から事前にオンラインで予約できるツアーもある。内容が充実していることが多い一方で、料金は現地手配に比べてかなり高くなる傾向にある。スケジュールが厳しく、確実に体験を確保したい場合には有効な選択肢だろう。

    僕のおすすめはやはり現地での交渉だ。片言の英語やジェスチャーだけでも、意外とうまくやりとりできるものだし、船頭とのコミュニケーション自体が旅の興味深い思い出になることもある。ただし、しつこい客引きには毅然とした態度で対応することも忘れずに。

    旅の必携アイテムリスト

    インド旅行全般に言えることだが、特にバラナシで重宝する持ち物をリストアップしてみた。

    • 必須アイテム:
    • パスポート、ビザ、航空券: 管理は厳重に行うこと。コピーやデータを別に保存しておくと安心だ。
    • 現金(インドルピー): クレジットカードが使えない場面が多いため、小額紙幣を多めに用意しておくと便利。
    • 常備薬: 整腸剤、下痢止め、鎮痛剤、絆創膏などは日本製のものが信頼できる。
    • 沐浴や街歩きに便利なもの:
    • 速乾タオル: 沐浴後や汗をかいたときに重宝する。薄手でかさばらないものが望ましい。
    • サンダル: 沐浴時やシャワー後、宿でのリラックスタイムに欠かせない。速乾性の素材がおすすめだ。
    • 防水ポーチやジップロック: 貴重品の防水や濡れた衣類の分別に役立つ。
    • ウェットティッシュ、アルコール除菌ジェル: インド旅行の必需品。食事前などこまめに使いたい。
    • トイレットペーパー: インドのトイレでは備え付けがないことが多い。芯を抜いて潰せばコンパクトになる。
    • 日焼け止め、帽子、サングラス: 強烈な日差し対策として特に乾季に必須。
    • 服装について:
    • 肌の露出を控えた服装: Tシャツや長ズボン、ロングスカートが基本。寺院などでは特にマナーとして重要。
    • 薄手の羽織もの: 朝晩の冷え込みや強い日差しを避けるのに役立つ。ストールやカーディガンなどが便利。
    • 汚れてもよい服装: バラナシの路地には牛の糞や土埃が多い。お気に入りの服は避けた方が賢明だ。現地で安いクルタを買うのも気分転換になって楽しい。

    現地のルールとマナー

    異文化の土地を訪れる際には、敬意を持つことが最も重要だ。

    • 左手は不浄とされる: 食事時や人に物を渡す際は右手を使うのがマナー。左手はトイレ用とみなされている。
    • 写真撮影のマナー: 人を撮影する際は必ず一声かけること。サドゥー(ヒンドゥー教の修行者)の中には、撮影後に金銭を要求する人もいる。また、火葬場の撮影は絶対に禁止だ。
    • 寺院でのしきたり: 寺院に入る時は靴を脱ぐのが基本。露出の多い服装は避けよう。
    • 神聖な牛: バラナシの路地では神聖視される牛が堂々と歩いている。邪魔をしたり無闇に触ったりしないよう注意したい。

    こうした小さな気遣いが、現地の人々との良好な関係を築き、あなたの旅をより豊かなものにしてくれるはずだ。

    バラナシの喧騒の先に見つけた、静かな時間

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    ガンジス川での沐浴やプージャといった特別な体験はもちろん印象深い。しかし、僕の心に強く刻まれたのは、そうした特別な時間と同じくらい、この街の日常の風景だった。

    午後の沐浴を終えた後、僕は目的もなくガートから続く迷路のような細い裏路地を歩き回った。すれ違うのもやっとの狭い道沿いには、小さな商店や住宅がひしめき合い、生活の息づかいが感じられる。遠くからは子供たちのはしゃぐ声が聞こえ、スパイスの香りが漂い、壁際では一匹の犬が気持ちよさそうに昼寝していた。

    小さなチャイ屋の前に置かれたベンチに腰を下ろす。店主の老人は手慣れた手つきで、小さなグラスに熱々の甘いミルクティー「チャイ」を注いでくれた。一杯10ルピー(約18円)という素朴な価格。その甘さが、歩き疲れた体にじんわりと染み渡った。言葉はほとんど交わせないが、店主の穏やかな微笑みが、何よりも温かな交流だった。

    チャイを飲みながら通り過ぎる人々を見つめる。鮮やかな色彩のサリーをまとった女性たち。額に印をつけた巡礼者たちの真摯な眼差し。学校帰りの子供たちの無邪気な笑顔。ここではすべてがゆったりと、確かなリズムで流れている。昼間のガートの縁に座り、ただ時間を忘れてゆったりと流れるガンジス川を何時間も眺めていると、不思議と心が満たされていく。対岸には何もなく、広大な砂地が広がっているだけだ。その「何もない」景色が、情報に溢れた日常に生きる僕の心に空白を与えてくれた。

    この街の魅力は、混沌と静寂が共存している点にあるのかもしれない。人や牛、バイクが入り乱れる喧騒の大通りから一歩路地に入れば、時間が止まったかのような静かな世界がひろがる。生と死が隣り合うように、喧騒と静寂も、この街を形作る切り離せない要素だ。ウィスキーやジンのような刺激的な酒も魅力的だが、バラナシの裏路地で味わう一杯のチャイは、高級な酒を超えて、僕の魂にしみわたり潤いを与えてくれた。

    河はただ流れ、僕らはまた旅に出る

    バラナシで過ごした数日間は、あっという間に過ぎ去った。デリーへ戻る夜行列車の出発時間が近づく中、僕は最後の別れを告げるため、再びガンジス川の岸辺に立っていた。夕陽が川面を黄金色に染めながら、対岸のほうへと沈んでいく。昼間の喧騒はすでに去り、夜の儀式を待つ静かな時間が流れていた。

    この河は、僕が生まれるずっと前からここにあり、そして僕がこの世を去ったあとも変わることなく流れ続けるだろう。人々の歓びや悲しみ、祈り、そして生命の終焉までもすべてを受け入れて。その永遠にも思える流れの前に立つと、自分の悩みや葛藤がいかに小さなものであるかが知らされる。

    ガンジス川での沐浴が、何かを洗い流してくれたとは限らない。むしろ僕の内側に、この混沌とした聖地の一片が溶け込んだような感覚のほうが近い。死が身近にある日常を肌で感じたことによって、今ここにある「生」がより鮮やかに、そして愛おしく思えるようになった。これは綺麗ごとではなく、心の底からそう感じているのだ。

    この記事を読んで、もしあなたの心に少しでもバラナシの風が吹き抜けたなら、ぜひ旅の準備を始めてほしい。衛生面や文化の違いなど、確かに乗り越えるべき壁はあるかもしれない。しかし、それを超えた先には、あなたの人生観を揺るがすような、強烈で美しい体験が待っているはずだ。ガイドブックには決して記されない、この街の魂の鼓動を、あなた自身の五感で感じてほしい。

    列車はゆっくりとホームを離れていった。窓の外を流れていくバラナシの街灯を見つめながら、僕はまた必ずここへ戻ってくると確信していた。ガンジス川は何も語らない。ただ静かに流れ、訪れるすべての者をそのまま受け入れるだけだ。そして僕たちは、その大きな流れに身を委ねながら、新たな日常へと旅を続けていくのだ。

    旅行情報と問い合わせ先

    旅の計画を立てる際は、以下の公式サイトで最新情報を確認することをおすすめする。ビザの規定などは変わることがあるため、必ず渡航前にチェックしておこう。

    • インド政府観光局公式サイト: www.incredibleindia.org
    • 在日インド大使館(ビザ関連情報): www.indembassy-tokyo.gov.in
    • バラナシ観光に関する情報は、インド政府観光局のサイト内や信頼できる旅行ガイドブックを参照するとよい。
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    この記事を書いた人

    美味い酒と肴を求めて全国を飲み歩く旅ライターです。地元の人しか知らないようなB級グルメや、人情味あふれる酒場の物語を紡いでいます。旅先での一期一会を大切に、乾杯しましょう!

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