世界最大のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルは、AI(人工知能)を活用したダイナミックプライシング(価格変動制)を、全世界のホテルにおける公式サイトやアプリ経由の直販予約に導入する計画を明らかにしました。これにより、ホテルの宿泊料金は、需要や空室状況に応じてリアルタイムで最適化されることになります。旅行の計画や予算の立て方に大きな変化をもたらす可能性があり、旅行業界全体に大きなインパクトを与える動きとして注目されています。
AIが宿泊料金を決める時代へ
今回発表された新システムは、2025年後半から段階的に導入される予定です。このシステムでは、AIが以下のような膨大なデータをリアルタイムで分析し、常に最適な宿泊料金を算出します。
- 需要予測: 予約状況、ウェブサイトの閲覧数、検索トレンドなど
- イベント情報: 周辺地域でのコンサート、スポーツイベント、国際会議など
- 季節性や天候: 大型連休、観光シーズン、天候予報など
- 競合ホテルの価格: 周辺の競合施設の料金設定
- フライト情報: 対象地域への航空便の予約状況や価格
これまでホテルの料金は、シーズンや曜日ごとにある程度固定化された価格帯で設定されるのが一般的でした。しかし、AIによるダイナミックプライシングの導入により、数時間後、あるいは数分後には料金が変動する可能性も出てきます。これは、航空券の価格が日々変動するのと同じ仕組みが、ホテル予約にも本格的に導入されることを意味します。
なぜ今、ダイナミックプライシングなのか?
マリオットがこの大きな変革に踏み切った背景には、いくつかの要因が考えられます。
収益性の最大化と効率化
ホテル業界は、コロナ禍からの急速な回復に伴い、高まる旅行需要にいかに応え、収益を最大化するかが大きな課題となっています。AIを活用することで、需要の高い日には価格を上げて収益を確保し、逆に閑散期には価格を下げて稼働率を高めるなど、より緻密なレベニューマネジメントが可能になります。世界に約9,000軒のホテルを展開するマリオットにとって、この効率化は経営に大きなプラスとなります。
直販予約の強化
ホテルにとって、Booking.comやExpediaなどのオンライン旅行会社(OTA)経由の予約は、販売手数料が発生します。マリオットは、全世界で1億9,600万人以上(2024年第1四半期時点)の会員を抱えるロイヤルティプログラム「Marriott Bonvoy」を軸に、公式サイトやアプリからの直接予約を強化したいと考えています。AIが算出する最も魅力的な価格を直販チャネルで提供することで、顧客を直接取り込む狙いがあります。
テクノロジーの進化と競争優位性
AI技術の進化により、以前は不可能だったレベルの高度なデータ分析が現実的なコストで可能になりました。この技術をいち早く大規模に導入することで、競合のホテルチェーンに対する優位性を確立しようとする戦略的な動きと見ることができます。
旅行者への影響と今後の予約戦略
この変化は、私たち旅行者にとってメリットとデメリットの両方をもたらします。
メリット:より安く宿泊できるチャンス
オフシーズンや平日の旅行、あるいは直前の予約など、需要が低いタイミングを狙えば、これまで以上に手頃な価格で宿泊できる可能性があります。柔軟な日程で旅行を計画できる人にとっては、お得な料金を見つける楽しみが増えるかもしれません。
デメリット:価格の予測が困難に
人気の観光地やイベント開催日には、価格が予想以上に高騰する可能性があります。また、価格が常に変動するため、「いつ予約するのがベストか」という判断が非常に難しくなります。数日前に見た価格が翌日には大きく変わっているということも起こり得るため、予算が立てにくくなる側面もあります。
業界全体への波及と未来予測
マリオットのような業界のリーダーが動くことで、ヒルトンやIHGなど他の大手ホテルチェーンも追随する可能性は非常に高いでしょう。将来的には、AIによるダイナミックプライシングがホテル業界のスタンダードになることも考えられます。
この動きは、旅行の計画方法そのものを変えるかもしれません。今後は、旅行の目的地や日程を決める際に、宿泊料金の変動をリアルタイムでチェックしながら、最も有利なタイミングで予約するという、より戦略的なアプローチが求められるようになるでしょう。
マリオットの新たな挑戦は、ホテルと旅行者の関係を大きく変える第一歩となりそうです。旅行を計画する際には、公式サイトの価格動向をこまめにチェックすることが、賢いホテル選びの鍵となる時代がすぐそこまで来ています。

