世界のホテル業界は、客室数拡大から、1室あたりの収益力(RevPAR)最大化へと戦略を転換しています。
世界のホテル業界において、主要プレイヤーたちの経営戦略に明確な転換点が訪れています。これまでの「新規開発による客室数の拡大」を中心とした規模の追求から、既存の資産価値を高め「1室あたりの収益力(RevPAR)」を最大化する方向へとシフトする動きが、2026年上半期の最新決算から鮮明になりました。
規模拡大競争から収益性の極大化へ
パンデミック後の需要急回復期を経て、2026年現在の世界の平均客室稼働率は約65%前後で安定期(プラトー)に入っています。需要が落ち着きを見せる中、インフレによる人件費や運営コストの高騰に直面しているホテル各社は、単純な供給量の拡大だけでは利益幅を維持できない局面に立たされています。
この課題に対し、世界的大手チェーンは戦略の軸足を客室の純増率から、RevPAR(販売可能客室1室あたり収益)の向上へと移しています。立地やターゲット層を厳選せずに部屋数を増やすのではなく、採算性の低いホテルを手放すポートフォリオの最適化を進め、より単価の高いラグジュアリーセグメントや高付加価値ブランドへの集中投資を行うのが現在の業界の潮流です。
2026年最新決算が示す「稼ぐ力」への回帰
2026年7月から8月にかけて発表された各社の第2四半期および上半期決算データには、この「稼ぐ力」を重視する姿勢が数字として如実に表れています。
マリオット・インターナショナルは、2026年通期のグローバルRevPAR成長率のガイダンスを3.0%から3.5%と底堅い見通しに設定しました。ヒルトン・ワールドワイドも同様に、ビジネス需要の回復などに支えられ、通期のRevPAR成長率予測を3.0%から3.5%の範囲へと引き上げています。
さらに顕著なのがIHGホテルズ&リゾーツの業績です。同社が発表した2026年上半期決算では、グローバル全体でのRevPARが前年同期比で4.1%増加しました。この成長を牽引したのは稼働率の急激な上昇ではなく、ADR(平均客室単価)の2.5%引き上げに成功した点にあります。高単価を維持しながら利益率を高める経営が機能していることが実証されました。
AI活用によるレベニューマネジメントの高度化
1室あたりの収益力を高めるための具体的なアプローチとして、2026年はテクノロジーへの投資もかつてないペースで進んでいます。各社はAI(人工知能)を活用した高度なレベニューマネジメントシステムを導入し、リアルタイムの需要予測に基づく精緻なダイナミックプライシングを展開しています。
今年に入り、IHGやウィンダム・ホテルズ&リゾーツは生成AI基盤を活用した高度な旅行プランニング・検索ツールを導入しました。これにより、顧客一人ひとりの嗜好に合わせたパーソナライズされたアップセル提案が可能となり、客室単価だけでなく館内での飲食やスパなどを含めた付帯売上の底上げに直結しています。
OTA業界への波及効果と今後の予測
ホテル大手が収益性を最重視する経営姿勢を強めることは、オンライン旅行代理店(OTA)業界とのパワーバランスにも大きな影響を与えると予測されます。
RevPARと利益率の改善を至上命題とするホテル側にとって、OTAへ支払う販売手数料(コミッション)は大きな削減対象となります。そのため、マリオットの「Marriott Bonvoy」やヒルトンの「Hilton Honors」といった自社のロイヤルティプログラムを通じた直接予約(ダイレクトブッキング)への誘導が今年に入りさらに強化されています。一部のOTA経由の予約枠をコントロールし、自社サイト経由の顧客にのみ特別な付加価値やポイント還元を提供する動きが加速しています。
この結果、OTA各社は単なる宿泊施設の比較・予約プラットフォームとしての機能だけでは、これまで通りの手数料収入を維持することが難しくなりつつあります。今後はホテル側にとっても価値のある、航空券や現地ツアーを組み合わせたダイナミックパッケージの販売強化や、AIを活用した富裕層向けコンシェルジュサービスの提供など、新たな事業価値の創出が急務となるでしょう。
ホテル業界の成長フェーズは、部屋数を追う時代から質と収益性を極める時代へと完全に移行しました。既存資産の磨き上げと最新テクノロジーの融合により、2026年後半以降も各社の「1室あたりの稼ぐ力」を巡る新たな競争が繰り広げられることになります。

