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スプリット完全ガイド:ローマ皇帝の宮殿に息づく、アドリア海の宝石を歩く

紺碧のアドリア海に抱かれ、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びて白く輝く石造りの街並み。クロアチア第二の都市スプリットは、まるで時が止まったかのような古代ローマの遺跡と、人々が陽気に暮らす現代の活気が、完璧なハーモニーを奏でる場所です。街の中心に鎮座するのは、単なる遺跡ではありません。約1700年前、ローマ皇帝ディオクレティアヌスが余生を過ごすために築いた壮大な宮殿。その堅牢な壁の内側で、今もなお人々がレストランを営み、アパートに暮らし、路地裏で洗濯物を干しているのです。

この街は、歴史の教科書をめくるように過去を旅する感動と、地中海の風を感じながらカフェでくつろぐ心地よい日常が、ごく自然に隣り合っています。迷路のように入り組んだ石畳の道を歩けば、角を曲がるたびに新しい発見があり、潮の香りが鼻をくすぐり、遠くから聞こえる教会の鐘の音が旅情をかき立てます。

この記事では、そんなスプリTットの魅力を余すところなくお伝えします。壮麗な宮殿の秘密から、活気あふれる市場の歩き方、息をのむような絶景スポット、そして旅をより快適にするための実用情報まで。さあ、歴史と日常が交差するアドリア海の宝石、スプリットへの旅を始めましょう。

このアドリア海の宝石に魅了されたら、ぜひその隣国に位置するスロベニアの宝石、ブレッド湖の神秘的な絶景も体験してみてください。

目次

生きた世界遺産、ディオクレティアヌス宮殿の心臓部へ

スプリットの物語は、この宮殿なしでは語ることができません。西暦305年頃、ローマ皇帝ディオクレティアヌスが引退後の住まいとして建設させたこの場所は、単なる宮殿ではなく、堅牢な城壁で囲まれた軍事要塞としての役割も兼ね備えた巨大な複合施設でした。その敷地面積は約3万平方メートルに及び、一般的に思い描くような単一の建物ではなく、一つの「街」と呼べるほどの規模を誇っています。

皇帝の死後、この宮殿は歴史の波乱に揉まれることとなりました。ローマ帝国の衰退や異民族の侵入により、多くの人々が宮殿の堅固な城壁内に身を寄せ、皇帝の私室や公の広間は次第に庶民の住居や商店へと変貌を遂げました。その結果、優美なローマ建築の基盤に、中世、ルネサンス、バロックなど、様々な時代の様式が加わり、他に類を見ない独自の景観が誕生したのです。1979年にはスプリットの歴史地区としてユネスコ世界遺産に登録されましたが、この地の最大の魅力は、現在も約3000人がこの壁内で生活を営む「生きた遺跡」である点にあります。観光客が賑わう路地裏で、窓辺の花に水をやる地元のおばあさんの姿が見られるなど、温かな日常が今も息づいています。

宮殿の中枢、時を超えた広場「ペリスティル」

宮殿の中心部であり、最も荘厳な雰囲気を漂わせるのが、列柱廊に囲まれた中庭「ペリスティル」です。かつてここは、皇帝が民衆の前に現れて儀式を執り行った神聖な場所でした。赤みを帯びた花崗岩のコリント式円柱が整然と並び、空に向かってそびえ立つその姿は圧巻です。磨き込まれた大理石の床は何世紀にもわたり無数の人々の足跡を受け止め、滑らかな光沢を保っています。

日中は観光客で賑わいますが、ぜひ早朝や夜に訪れてみてください。静寂に包まれた広場に立つと、まるで1700年前へタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。夜にはライトアップされ、幻想的な雰囲気が漂います。夏の夜にはクッションに腰かけて生演奏の音楽を楽しみながらドリンクを味わうこともでき、古代ローマの広場が現代の社交場へと変貌する瞬間を体験できます。

広場を見下ろす位置には、エジプトから運ばれた黒いスフィンクスが静かに佇んでいます。ディオクレティアヌス帝がエジプト遠征の際に持ち帰ったこの像の年齢は推定3500年以上。皇帝よりも遥かに古いこのスフィンクスは、宮殿の誕生から現在に至るまでの歴史を見守り続けてきた証人なのです。

皇帝の霊廟からキリスト教の聖地へ「聖ドムニウス大聖堂」

ペリスティルの東側に位置するのが、八角形の独特な形をした聖ドムニウス大聖堂。その隣にはスプリットのシンボルとも言える鐘楼が天高く伸びています。ただしこの建物が最初から教会であったわけではありません。元々はキリスト教徒を迫害したことで知られるディオクレティアヌス帝自身の霊廟(マウソレウム)として建てられました。皮肉なことに、彼の死後にキリスト教がローマの国教となると、この霊廟は破壊を免れるどころか、彼が処刑した聖人ドムニウスを祀る大聖堂へと変貌を遂げました。この建物自体が歴史の大きな転換を物語っているのです。

内部に足を踏み入れると、その荘厳さに思わず息をのむことでしょう。2層にわたる古代ローマ時代の円柱、華麗な説教壇、そして金色に輝く祭壇画など、小さな空間に歴史の重みと信仰の力が凝縮されています。

大聖堂と鐘楼を訪れるための実用ガイド

この大聖堂を訪れる際に知っておくと便利なポイントがあります。

  • チケットの購入: 大聖堂の入場は有料で、チケットには複数の種類があります。大聖堂のみ、鐘楼のみと個別に購入することも可能ですが、大聖堂、鐘楼、宝物庫、さらに向かいにある洗礼室(元々はユピテル神殿)への入場がセットになった共通券(パープルチケット)が最もお得で人気です。チケットオフィスはペリスティルの大聖堂入口付近にあり、特に夏のハイシーズンは行列ができることもあるため、早朝の訪問をおすすめします。
  • 服装に関する注意: ここは現役の教会であり、神聖な場所です。とくに夏場は服装に注意が必要で、肩や膝が露出したタンクトップやショートパンツでは入場を断られる場合があります。薄手のカーディガンやストール、パレオなどを携帯しておくと、必要に応じてすぐに羽織れて安心です。入口で貸し出し用の布が用意されていることもありますが、数に限りがあるため、自分で準備しておくのが賢明でしょう。
  • 鐘楼への挑戦: 体力に自信がある方は、ぜひ鐘楼に登ってみてください。高さは約57メートルで、頂上からはオレンジ色の屋根が連なる旧市街や、青く輝くアドリア海、遠くの島々まで360度の大パノラマを堪能できます。ただし階段は非常に狭く急な螺旋階段が続くため、すれ違いも困難な場所があります。高所や体力に不安がある方は無理をせず、荷物はできる限り軽量化し両手が空くリュックサックなどが便利です。風の強い日には帽子の飛ばされに注意してください。

宮殿の基盤、巨大な地下宮殿を探訪

ペリスティルの南側、青銅の門から海岸沿いのプロムナード「リーヴァ」へ通じる通路の両脇に、地下宮殿への入り口があります。地上部が時代と共に変わっていく中で、この地下空間は当時のゴミに埋もれていたためか、むしろ建設当時の姿がほぼ完全な形で保存されています。まさに宮殿の土台にあたり、地上の皇帝の居室と全く同じ間取りで造られています。

ひんやりとした空気が漂う広大な空間を歩けば、その巨大さと高い建築技術に圧倒されます。かつてはワインやオリーブオイルの貯蔵庫であり、また宮殿の生活を支える作業場としても機能していました。分厚い石壁とアーチ型の天井が続く景色は、どこか神秘的でもあります。

この場所は、世界的に大ヒットしたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の、デナーリスがドラゴンを飼育していたシーンのロケ地としても知られています。ファンのみならず、その独特の雰囲気に引き込まれるでしょう。現在、中央通路はお土産店が軒を連ねるアーケードとなり、東西のホールは有料の展示スペースとして公開されています。また、様々なイベントや展示会が開かれることもあるため、訪れる前にスプリット観光局の公式サイトで最新情報をチェックするのがおすすめです。

街の玄関口「四つの門」と幸運の象徴

ディオクレティアヌス宮殿は、東西南北にそれぞれ一つずつ計四つの門をもって外の世界と繋がっていました。それぞれの門には名前がつき、それぞれ異なる役割を担っていました。

  • 金の門 (Golden Gate): 北側に位置し、最も豪華で重要な正門です。皇帝ディオクレティアヌスだけが、この門を凱旋時などに通ることを許されていました。門の外にはクロアチアの英雄である司教「グルグール・ニンスキ」の巨大な像が立ち、その左足の親指に触れると幸運が訪れるという言い伝えがあります。多くの人が触れるために親指はピカピカに輝いており、スプリット訪問の際にはぜひこの幸運の願掛けを試してみてください。
  • 銀の門 (Silver Gate): 東側にあり、有名な青空市場(パザール)に隣接しています。かつてここから宮殿の主要な通りであるデクマヌス通りが延びていました。現在も市場へ向かう人々で常に賑わいを見せています。
  • 鉄の門 (Iron Gate): 西側に位置し、旧市街の中心広場ナロドニ広場へとつながっています。門の上にはスプリット最古の24時間表示の時計塔があり、中世の面影を色濃く残しています。
  • 青銅の門 (Bronze Gate): 南側にある門で、海へ直接通じていました。かつては皇帝が船で直接宮殿に出入りする通用門であり、物資の搬入出口でもありました。現在は門を抜けるとヤシの木が並ぶプロムナード「リーヴァが広がり、宮殿と海を繋ぐ主要なゲートとなっています。

これらの門を行き来する度に、過去と現在、宮殿の内外を行き来する感覚が味わえます。それぞれの門が持つ歴史や役割に思いを馳せながら歩くことで、街歩きがより深く、味わい豊かなものとなるでしょう。

宮殿を飛び出し、旧市街を巡る冒険

ディオクレティアヌス宮殿の外側にも、スプリットの魅力は無限に広がっています。宮殿を中心に形成された旧市街は、迷路のように入り組んだ細い路地が続き、歩くだけでわくわくする場所です。大理石で敷き詰められた道は、長年多くの人々の足に磨かれ、雨上がりにはしっとりと光を反射して美しい表情を見せます。地図を手に目的地をめざすのも良いですが、あえて迷いながら歩くのがスプリット旧市街の楽しみ方の一つかもしれません。思いがけず素敵な中庭や隠れ家のようなカフェ、地元アーティストの小さなギャラリーに出会えるでしょう。

中世の趣が漂う「ナロドニ広場」

宮殿の鉄製の門をくぐると広がるのが「ナロドニ広場」、通称「ピャッツァ(Pjaca)」です。ここは中世から現在にかけて、スプリットの政治や市民生活の中心として賑わってきました。ゴシック様式の旧市庁舎やルネサンス様式の華麗な建物、そしてユニークな24時間時計塔が広場を囲み、まるで屋外の建築博物館のような光景が広がっています。

広場には多くのカフェやレストランがテラス席を設けており、地元の人々も観光客も思い思いの時間を過ごしています。歴史的な建物を眺めつつ、カプチーノを片手にくつろぐのは、スプリットでしか味わえない贅沢なひととき。特に朝の時間帯には、地元の人々がコーヒーを飲みながら談笑する様子が見られ、この街の日常に溶け込んだ気分を満喫できます。

ヴェネツィアの香り漂う「共和国広場」

ナロドニ広場から西へ少し歩くと、U字型の美しい回廊に囲まれた「共和国広場(プロクラティーヴェ)」が姿を現します。赤みがかった壁と連なるアーチのデザインは、ヴェネツィアのサン・マルコ広場を思わせます。それもそのはず、この広場はヴェネツィア共和国の統治時代に造られており、その影響が今も色濃く残っています。広場の一方はアドリア海に面しており、心地よい海風が吹き抜けます。

夏になると音楽祭やさまざまな文化イベントの華やかな舞台ともなります。イベントがない日中は比較的静かで、美しい建築の細部までゆっくりと鑑賞できます。広場に面したカフェでリーヴァの賑わいから少し離れ、静かな時間を過ごすのもおすすめです。

地元の活気に触れる二つの市場

スプリットの本当の姿を感じたいなら、市場へ足を向けるのが一番です。この街には、新鮮な海の幸が集まる「魚市場」と、太陽の恵みをたっぷり浴びた野菜や果物が並ぶ「青空市場」という、個性豊かな二つの市場があります。

ペシュカリヤ(Peškarija)—魚市場

旧市街の西側、ナロドニ広場からほど近い場所に位置するのが魚市場ペシュカリヤです。早朝から威勢の良い掛け声が響き渡り、アドリア海で獲れたての新鮮な魚介類が所狭しと並べられます。銀色に輝くイワシやアジ、立派な鯛、手長海老(スキャンピ)、タコやイカなど、多彩な種類に目を見張ることでしょう。市場の建物自体も100年以上の歴史を誇る優美なアールヌーボー建築で、訪れる価値があります。

  • 市場訪問のポイント:
  • おすすめの時間: もっとも活気があり品揃えが豊富なのは早朝から午前中です。多くの店は午後に閉店し始めるので、ぜひ朝早く訪問しましょう。
  • 地元民を観察: 地元の人々がどの店で何を選んでいるかを見るのも興味深いです。彼らの真剣なまなざしから、食材へのこだわりが伝わってきます。
  • 臭いについて: 魚市場特有の匂いは避けられませんので、気になる方は心得ておくと良いでしょう。
  • 近隣の食事処: 市場の周辺には新鮮な魚介を使った料理を提供するレストランやコノバ(伝統的な居酒屋)が点在しており、市場で見た魚をその日のランチに味わう贅沢も楽しめます。

パザール(Pazar)—青空市場

宮殿の銀の門を出たすぐ外に広がるのが、カラフルなパラソルが並ぶ青空市場パザールです。ここはスプリットの台所とも呼ばれ、近郊の農家が育てた新鮮な野菜や果物、チーズ、はちみつ、自家製のオリーブオイルなどが所狭しと並んでいます。トマトの赤、ズッキーニの緑、イチジクの紫など、季節ごとの色鮮やかさが目を楽しませ、歩くだけで元気をもらえます。

  • お土産にもぴったり:
  • おすすめ品: ダルマチア地方の名産である乾燥イチジクやアーモンド、ラベンダーのポプリやオイル、多彩なフレーバーのはちみつ、そして特に質の高いオリーブオイルはお土産に最適です。小瓶での販売も多く、持ち帰りに便利です。
  • 試食・交渉: フレンドリーな店主が多く、試食もよくさせてくれます。価格は基本的に表示されていますが、多く購入する場合は少しだけ値引き交渉が可能かもしれません。笑顔でコミュニケーションを取りましょう。
  • 持ち物の注意: 特に夏場は日差しが強いので、帽子やサングラス、日焼け止めを忘れずに。また、スリなどの被害に遭わないようにバッグは前に抱えるなど、貴重品の管理には十分注意してください。

アドリア海の風を感じて – リーヴァとビーチ

スプリットの魅力は、歴史的な旧市街だけにとどまりません。街は常にアドリア海と寄り添い、その澄んだ青い海面と潮の香りが訪れる人々の心を解き放ちます。特に、旧市街の南側に広がる海岸線の遊歩道「リーヴァ」は、スプリットらしさを象徴する光景のひとつです。

ヤシの木が連なる広々としたプロムナードには、洗練されたカフェやレストラン、バーが軒を連ね、白いパラソルの下で人々が会話を楽しんでいます。朝はジョギングをする人、昼は太陽の光を浴びながらランチを楽しむ家族連れ、そして夜はライトアップされた宮殿の壁を背景に、カクテルを片手に語らうカップルでにぎわいます。単にベンチに腰掛けて行き交う人々や港に出入りする船の動きを眺めているだけでも、時間を忘れてしまうほど心地よい場所です。リーヴァはスプリットの市民にとっての憩いの場であり、訪れるすべての人が主役になれる舞台とも言えるでしょう。

市街地からすぐ近く!「バチュヴィツェ・ビーチ」とピツィギン

「ビーチリゾート」と聞くと、中心地から離れた場所を思い浮かべるかもしれませんが、スプリットでは街歩きの延長線上にビーチがあります。リーヴァから東へ歩いて約10分のところに、地元住民に最も愛されている砂浜「バチュヴィツェ・ビーチ」があります。

ここは遠浅で波が穏やかなため、家族連れに特に人気のスポットです。そして、このビーチをユニークなものにしているのが、スプリット発祥のウォータースポーツ「ピツィギン(Picigin)」です。浅瀬の中でプレイヤーたちが輪になり、小さなゴムボール「バレーラ」をダイビングやジャンプを交えながら絶対に水に落とさずに打ち合います。勝ち負けはなく、いかにアクロバティックで面白いプレーを披露するかが肝心。エネルギッシュで陽気なその光景は、見るだけでも心が弾みます。

ビーチでの快適な時間を過ごすための準備リスト

スプリットのビーチを思いきり楽しむために、以下の準備をしておくと安心です。

  • 必須アイテム: 水着、タオル、日焼け止め、サングラス、帽子は忘れずに携帯しましょう。日差しが強いので特に日焼け対策は入念に行ってください。
  • 足元の装備: ビーチサンダルはマストです。砂浜以外に岩場や石が多い場所もあるため、マリンシューズも用意しておくと快適に過ごせます。
  • 貴重品の管理: 多くのビーチには無料シャワーや更衣室がありますが、ロッカーの数は限られています。貴重品はできるだけホテルに預けるか、防水ポーチに入れて肌身離さず持ち歩きましょう。複数人で訪れる際は、誰か一人が荷物番をするように心がけてください。
  • 飲み物と軽食: ビーチ近辺にはカフェや売店がありますが、特に忙しいシーズンは混雑します。水筒に飲み物を用意することで、熱中症予防にもなり経済的です。

もう少し足を延ばして、静かな隠れ家ビーチへ

バチュヴィツェ・ビーチの賑わいから離れ、より落ち着いた時間を過ごしたい方には、マルヤンの丘のふもとに点在するビーチがおすすめです。

  • カシュニ・ビーチ (Kašjuni Beach): マルヤンの丘南側に位置し、小石が美しいビーチです。近年整備が進み、おしゃれなビーチバーもできて快適に過ごせます。市中心部からはバスやタクシーの利用が便利です。
  • ベネ・ビーチ (Bene Beach): マルヤンの丘北西端にあり、岩場と松林に囲まれたビーチ。木陰が豊富で、スポーツ施設やレストランも併設されているため、ゆったり一日を過ごせます。

これらのビーチへは、市内から路線バスが出ているほか、夏季にはリーヴァからマルヤン公園を巡る観光用ミニトレインも運行しており、気軽にアクセスできるのも嬉しいポイントです。

スプリットの絶景と緑のオアシス、マルヤンの丘

旧市街の西側にふっくらと盛り上がる緑豊かな丘、それがマルヤンです。地元の人々からは「スプリットの肺」と親しまれ、長年にわたり市民の憩いの場となってきました。松並木に覆われたこの丘は、ハイキングやサイクリング、ロッククライミングを楽しむ人々で常に活気にあふれています。しかし、旅行者にとって最も魅力的なのは、やはり頂上付近からの壮大な眺望でしょう。

街と海を一望するパノラマスポットへ

マルヤンの丘には複数の展望スポットがありますが、手軽にアクセスできて見応えがあるのが「ヴィディリツァ(Vidilica)」展望台です。旧市街のヴァロシュ地区から続く階段を15分ほど上ると、眼前にはスプリット旧市街のオレンジ色の屋根とそびえる大聖堂の鐘楼、その先に広がる深いコバルトブルーのアドリア海と点在する島々が絵葉書のように広がります。

展望台への行き方と注意点

  • ルートについて: 最もわかりやすい入り口は共和国広場の西側に位置し、聖フラネ教会(St. Francis Church)の裏手から始まる階段です。案内板も設置されているので迷う心配は少ないでしょう。
  • 準備しておくこと: 道のりは短いものの階段が続くため、歩きやすい靴を履くことが必須です。特に夏の昼間は日光を避けるものがないため、帽子の着用と十分な水分補給をおすすめします。夕暮れ時のサンセットは格別ですが、帰路は暗くなるので足元には十分に気を付けてください。
  • 展望台のカフェ: 展望台にはカフェが併設されており、雄大な景色を楽しみながら冷たい飲み物で喉を潤すことができます。至福のひとときと言えるでしょう。

さらに体力に自信がある方は、丘の頂上部「テレグリン(Telegrin)」まで挑戦することも可能です。そこからは360度のパノラマが広がり、ダルマチア地方の海岸線全体を見渡せる壮麗な眺めがあなたを待っています。

スプリットを拠点にアドリア海を巡る日帰り旅行

スプリットはダルマチア地方の重要な交通拠点として機能しています。フェリー乗り場からは近隣の美しい島々へ、バスターミナルからは歴史ある古都へと、魅力的な目的地へ簡単にアクセスできるのが魅力です。数日の滞在期間があるなら、ぜひ一日を使って周辺を訪れてみてはいかがでしょうか。

ラベンダーの香り漂う島「フヴァル島」

スプリットからの日帰り旅行先として特に人気のあるのがフヴァル島です。おしゃれなリゾート地として世界中のセレブに愛されるこの島は、「ラベンダーの島」としても有名で、初夏には島全体が紫色の花と甘い香りに包まれます。特にフヴァル・タウンは、中世の城壁に囲まれた美しい港町で、城塞に登れば赤い屋根の家並みとパクleni諸島を望む紺碧の海が織りなす景色は息をのむ美しさです。

フヴァル島へのアクセス方法

  • フェリーの種類: スプリット港からフヴァル島へは主に2種類の船が運航しています。
  • カーフェリー: Jadrolinija社が運航しており、車両も搭載可能な大型フェリーです。フヴァル島のスタリー・グラード(Stari Grad)港に到着し、フヴァル・タウンへはバスで移動します。所要時間は約2時間です。
  • 高速船(カタマラン): Jadrolinija社やKrilo (Kapetan Luka)社が運航している旅客専用の高速船で、直接フヴァル・タウンへ到着します。所要時間は約1時間で、日帰り旅行に便利です。
  • チケット購入と注意点:
  • チケットは各船会社の港のオフィスで購入可能ですが、夏のピークシーズンは非常に混雑し、満席となることが多いです。特に高速船は大変人気があるため、事前にオンライン予約をおすすめします。
  • 船の運航は天候の影響を受けることがあり、特に風が強い日は遅延や欠航が発生する場合があります。出発前に公式サイトなどで最新の運航状況を確認してください。
  • 船酔いが不安な方は、酔い止め薬を用意しておくと安心です。

島全体が世界遺産の歴史都市「トロギール」

スプリットからバスで約30〜40分の距離にある古都トロギールは、アクセスが良いにもかかわらず、まったく異なる魅力を持つスポットです。トロギールは本土とチオヴォ島の間にある小島全体が世界遺産に登録されており、ギリシャ、ローマ、ヴェネツィアの統治時代の多様な建築様式の歴史的建造物が見事に保存されています。特にロマネスク・ゴシック様式の傑作と称される聖ロヴロ大聖堂や、堅固なカメルレンゴの砦などが見どころです。迷路のように入り組んだ細い路地を歩けば、中世の世界に迷い込んだような独特の雰囲気を味わえます。スプリットの喧騒とは対照的に、落ち着いた空気が漂うのも魅力です。

豊かな自然と絶景の「クルカ国立公園」

やや距離はありますが、雄大な自然の景色を楽しみたいならクルカ国立公園が最適です。石灰華の棚に沿って流れ落ちる多くの滝がつくりだす「スクラディンスキ・ブク」の景観は圧倒される美しさです。また、滝つぼでの遊泳が可能な点も大きな魅力ですが(※遊泳ルールは年によって変更されることがあるため、訪問前にクルカ国立公園公式サイトで必ず確認してください)、スプリットからは多くのバスツアーが運行されており、個人で訪れるよりも効率よく回れます。訪問時には歩きやすい靴を用意し、泳ぐ場合は水着を忘れずに持参すると良いでしょう。

旅の実用情報 – スプリット滞在を快適にするために

スプリットでの滞在をより快適で楽しいものにするための、実用的な情報をご紹介します。

スプリットの食文化を堪能する

旅の醍醐味は、その土地ならではの食文化に触れることです。ダルマチア地方の料理は、新鮮なシーフードや地中海産のハーブ、そして高品質なオリーブオイルを生かした、シンプルながらも深い味わいが特徴です。

  • ぜひ味わいたい料理:
  • シーフード: 魚のグリルや手長海老(スキャンピ)をトマトとワインのソースで煮込んだブザラが定番メニューです。
  • 黒いリゾット(Crni rižot): イカスミを使った濃厚な味わいのリゾット。色合いは驚きを与えますが、旨味がぎゅっと詰まった逸品です。
  • ペカ(Peka): 肉や魚介、野菜を鉄製のドーム型蓋「ペカ」で覆い、炭火でじっくり蒸し焼きにする伝統料理。素材の旨味が引き立ちます。調理に時間がかかるため、予約を受け付けているレストランが多いです。
  • レストランの選び方:
  • 旧市街の路地裏やリーヴァ沿いには多くのレストランが並びますが、落ち着いた雰囲気で食事を楽しみたいなら、旧市街の西側に広がる「ヴァロシュ(Varoš)」地区をおすすめします。迷路のような小道には、地元の人に愛される「コノバ(Konoba)」と呼ばれる伝統的な居酒屋が点在しています。

市内および市外の交通手段

  • 空港から市内への移動: スプリット空港から市中心部のバスターミナルまではシャトルバスが便利で経済的です。フライト到着に合わせて運行されています。もちろんタクシーやUberの利用も可能です。
  • 市内の移動手段: 旧市街やディオクレティアヌス宮殿周辺は基本的に徒歩での観光になります。石畳の道が多いため、ヒールのある靴は避け、スニーカーやフラットサンダルのような歩きやすい靴を履くことが必須です。
  • 市バスの利用: マルヤンの丘のビーチなど、やや離れたスポットへ行く際は市バスが便利です。チケットはバス停近くのキオスク(Tisak)で購入可能で、乗車時に運転手から買うこともできますが、その場合は料金が少し高くなります。

トラブル対策と注意点

  • 治安と防犯: スプリットは比較的安全な街ですが、観光客が集まる場所ではスリや置き引きの被害に遭わないよう注意が必要です。特に市場やリーヴァのような混雑したエリアでは、バッグを体の前に抱える、貴重品を分散して持つなど、基本的な防犯対策を心がけましょう。
  • 両替について: クロアチアの通貨はクーナ(HRK)です。両替は銀行や公式の両替所(Mjenjačnica)を利用するのが安心です。空港や観光地の中心部にある両替所はレートが悪いことが多いため、複数の場所を比較してから両替することをお勧めします。ATMでのキャッシングも便利ですが、スキミング防止の観点から、銀行内や銀行に併設されたATMを利用すると安全度が高まります。
  • 緊急時の対応: 体調不良や怪我の際は、薬局の「Ljekarna」(緑の十字が目印)を利用してください。警察は192番、救急車は194番に連絡します。パスポートの紛失時は、速やかに最寄りの警察署と日本大使館へ連絡を取りましょう。

歴史の層を歩く、スプリットの夜

陽が西へ傾き、アドリア海が茜色に染まる頃、スプリットは昼間とはまったく異なる幻想的な表情を見せ始めます。リーヴァのカフェには明かりが灯り、宮殿の石壁はオレンジ色のやわらかな光に包まれて、街全体がまるで魔法にかけられたかのようなロマンティックな雰囲気に包まれます。

夜のペリスティルは、ぜひ訪れるべきスポットです。昼間の賑わいが嘘のように静まり返った広場に腰を下ろし、ライトアップされた列柱廊を見上げると、まるで古代ローマの壮大な舞台装置に迷い込んだかのような気分になります。夏季には、広場の階段が臨時の客席となり、アコースティックギターの弾き語りやクラシック音楽の演奏が催されることもあります。石のクッションに腰掛けて歴史の響きを感じつつ音楽に耳を傾ける時間は、忘れがたい思い出となるでしょう。

宮殿の迷路のような路地も、夜になるとさらに神秘的な空気が漂います。足元を照らすかすかな明かりを頼りに歩けば、角の向こうから聞こえてくる賑やかな笑い声やレストランの香ばしい匂いが旅の夜を華やかに彩ります。昼間は気づかなかったレリーフや、壁に刻まれた古い紋章に思いがけず出会うこともあるでしょう。

もし静かに夜景を楽しみたいなら、再びマルヤンの丘の展望台を訪れるのも一興です。眼下に広がるのは、宝石のようにきらめくスプリットの街灯り。遠くには漁火が揺らぎ、穏やかなアドリアの夜が広がっています。

スプリットは単なる美しい観光地ではありません。ここはローマ皇帝の夢の跡地に、何世代にもわたる人々の生活が重なり合って築かれた場所です。古代の石畳を踏みしめながら、現代を生きる人々の息遣いを感じる。そうした時空を超えた散策こそが、この街の最大の魅力と言えるでしょう。あなたの旅が、この生きた歴史の証人である街に新たな1ページを刻むものとなりますように。

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