旅の行き先を決めるとき、何を基準にするだろうか。極上の飯か、心地よい酒か、それともまだ見ぬ文化との出会いか。全国を飲み歩くのが生業の俺だって、いつも酒場の匂いだけを追いかけているわけじゃない。時には、ただ、どうしようもなく「そこにしかない景色」に引かれて、遥か彼方の地を目指すことがある。
今回、俺の心を捉えて離さなかったのは、アフリカ大陸の東に浮かぶ大きな島、マダガスカル。その西部の町ムルンダヴァの郊外に、その道はあるという。
その名は「バオバブの並木道」。
まるで地球が創り出した巨大な彫刻のようなバオバブの木々が、赤土の道の両脇に悠然と立ち並ぶ。そして一日の終わり、太陽が水平線へと沈むとき、その場所は我々の想像を遥かに超えた、幻想的な劇場へと姿を変えるのだ。
燃えるようなオレンジ、優しいピンク、そして深い紫へと刻一刻と表情を変える空を背景に、巨大なバオバブのシルエットがくっきりと浮かび上がる。その光景は、あまりに神々しく、非現実的で、まるで「星の王子さま」が降り立ったあの小さな星に迷い込んでしまったかのような錯覚さえ覚える。
言葉を失い、ただ立ち尽くす。ファインダーを覗くのも忘れ、シャッターを切る指が止まる。魂が震えるとは、きっとこういう瞬間のことを言うのだろう。
この記事は、そんな一生忘れられない感動を体験するための、旅の招待状であり、そして完全なガイドブックだ。さあ、準備はいいか?地球の裏側で待つ奇跡の瞬間へ、一緒に旅立とうじゃないか。
奇跡の瞬間を追い求める旅は、これで終わりではない。例えば、アフリカ大陸の最南端、ケープタウンで巡る二つの絶景もまた、旅人を深く感動させるだろう。
バオバブの並木道、その圧倒的な存在感

まずは、この物語の主人公について少しだけ触れさせてほしい。バオバブの並木道、現地では「Alley of the Baobabs」として知られるこの場所は、マダガスカル西部の港町ムルンダヴァから内陸の町ベロー・シュル・ツィリビヒナへと続く未舗装のダートロードの一部である。約260メートルにわたり、道の両側に数十本もの巨大なバオバブが立ち並んでいる。
天地を逆さまにしたような巨木、バオバブ
この物語の主役であるバオバブは、アフリカのサバンナを象徴する樹木として広く知られているが、世界に存在する8種のうち6種がマダガスカルの固有種であるという。並木道を形作っているのは、その中でも特に壮大で美しいとされる「グランディディエリ・バオバブ」である。樹齢は800年以上に達するものもあり、樹高は30メートルにも及ぶ。
その独特で愛らしい姿から、現地では「Reniala(レニアラ)」、すなわち「森の母」と称され、精霊が宿る聖なる木として崇められている。また、枝がまるで根のように見えることから「逆さまの木」という別名も持つ。神様が木を植えた際に誤って逆さまに植えてしまったという、可愛らしい伝説も残っている。
実際にその木の下に立つと、首を見上げるのが辛くなるほどの高さと、数人でなければ抱えきれないほどの太い幹に、ただただ圧倒される。ざらついた樹皮にそっと手を添えると、何世紀もの悠久の時をここで耐え抜いてきた巨木の静かで力強い生命力が伝わってくるようだ。乾いた風に揺れる枝葉のざわめき、赤土の香り、そしてどこまでも広がる青い空。まだ太陽が高く照りつける日中の並木道でさえ、訪れる者の心を捉えて放さない、不思議な魅力に満ちている。
黄昏が創り出す奇跡のシルエットショーへ。サンセットツアー徹底ガイド
しかし、この並木道が真の魅力を最大限に発揮するのは、やはり太陽が西の空へと傾き始める黄昏時である。世界中から多くの旅人がその瞬間を目指して訪れる。その感動的な体験を余すところなく堪能するためのサンセットツアーの全容を、ここに記しておこう。
ツアーの見どころ:空が燃え、大地が染まる瞬間
サンセットツアーの見どころは、言葉では表しきれないほど劇的だ。午後4時半を過ぎる頃から、静かにそのショーは幕を開ける。まず、鮮やかな青空が徐々に黄金色に染まりはじめる。太陽が地平線へと近づくにつれて、その色彩は燃えるようなオレンジへと変わり、空一面が壮大なグラデーションのキャンバスとなる。
そして主役であるバオバブの巨木たちが舞台に登場する。赤土の大地にどっしりと根を張るその巨木は、背後から差し込む光によって漆黒のシルエットとなり浮かび上がる。まるで巨大な影絵のように、枝一本一本までもが空に鮮明に描かれていく。
観光客のざわめきは、いつしか静かな感嘆の息へと変わっていく。誰もがカメラを構えつつも、むしろレンズ越しの光景より自身の目にその景色を刻もうと必死だ。時折、地元の人が操るゼブ牛(こぶ牛)のカートが、カランコロンと鈴の音を響かせながらシルエットの間を横切る。その光景は、まるで時が止まったかのよう、あるいは古代にタイムスリップしたかのような錯覚を与える。
太陽が完全に沈んだ後も、物語は終わらない。残照が空をピンクや紫の淡い色彩で染め上げる「マジックアワー」。まるで異世界のような幻想的な色に包まれた中で、バオバブのシルエットは一層その存在感を増す。そして空のグラデーションが夜の深い藍色へと溶け込む頃、満天の星々が輝き始めることもある。天の川が、まるでバオバブの枝から空へと伸びるかのように見える夜もあるのだ。
この一連の光と影が織りなす芸術作品を、ただ静かに見つめるだけで、はるばるマダガスカルまで来た甲斐があったと心底から感じられるだろう。
モデルツアースケジュール(ムルンダヴァ発)
この感動の体験は、ムルンダヴァを拠点とした半日ツアーによく組み込まれている。以下に、代表的なツアースケジュールの例を紹介する。
- 午後2時頃:ムルンダヴァのホテル出発
多くのツアーは宿泊ホテルまで4WD車が迎えに来てくれるところから始まる。冷房が効いた車は少ないが、窓から入ってくる乾いた風が心地よい。ホテルからバオバブの並木道までは約19キロ。舗装されていない赤土のダートロードを車は砂埃を立てながら走る。所要時間は40分から1時間程度。道中、マダガスカルののんびりとした田園風景や小さな村で暮らす人々の日常風景を見ることができ、笑顔で手を振る子供たちに心が和むひとときだ。
- 午後3時頃:バオバブの並木道に到着
まだサンセットまで時間があるため、まずは日中の並木道を散策しよう。青空をバックにしたバオバブの姿はまた格別。思い思いのスポットで写真を撮ったり、その壮大さを肌で感じたりできる。この時間帯は比較的観光客も少なく、ゆったりと巨木と向き合える。 多くのツアーでは並木道の少し先にある「愛し合うバオバブ(Baobab Amoureux)」へも足を延ばす。この二本のバオバブがまるで抱き合うかのように絡み合って成長した木は、縁結びのパワースポットとしても知られ、その奇妙でロマンチックな姿は必見だ。
- 午後4時半頃:サンセット観賞のベストスポットへ移動
太陽が傾き始めたらいよいよサンセット観賞の準備だ。経験豊富なドライバーやガイドが、その日の太陽の沈む場所や人の混み具合を考慮しながら、最高の撮影ポイントへと案内してくれる。並木道を見渡せるやや開けた場所が定番スポット。すでに世界中から集まった旅人たちが三脚を立て、その瞬間を待ち構えている。
- 午後5時〜6時頃:マジックアワーの幕開け
いよいよクライマックスだ。太陽が地平線に接し、空の色が刻々と移り変わる様子を思いっきり味わおう。シャッターチャンスは数え切れないほどだが、ぜひカメラから目を離し、五感をフルに使ってこの奇跡のような光景を体験してほしい。風の音、土の香り、そして目の前に広がる非日常の色彩。そのすべてが心に深く刻まれるだろう。
- 午後6時過ぎ:日没後の星空観賞
太陽が完全に隠れた後は星空を楽しむ時間。街灯のない環境だからこそ、これほど多くの星を眺められる場所はそう多くない。南半球特有の南十字星や、条件が良ければ天の川も肉眼でくっきりと見える。夕日の感動の余韻に浸りながら星空を見上げる体験は格別である。
- 午後7時頃:並木道を出発、ムルンダヴァへ帰路
感動を胸に、再び4WD車に乗り込みムルンダヴァのホテルへ戻る。真っ暗な道を走ることになるが、ドライバーは慣れているため安心だ。ホテル到着は午後8時前後になることが多い。心地よい疲労とともに味わうこの日の夕景の余韻は、きっと人生の至福の一杯となるだろう。
所要時間について
ムルンダヴァのホテルを出発してから戻るまで、全体の所要時間はおよそ5~6時間が目安となる。季節によって日没の時間が変動するため、出発時間もそれに応じて調整されることが多い。予約時には必ず確認しておくことをおすすめする。
夢の絶景へのチケット。料金と予約のすべて

さて、このような圧巻の絶景を体験するには、一体どの程度の費用がかかり、どのように予約すればよいのか。旅人が特に気になる実用的なポイントをここでわかりやすく整理してみよう。
料金体系のポイント
バオバブ並木道のサンセットツアーは、主にムルンダヴァで4WD車をチャーターして行くスタイルが一般的だ。料金は交渉によって変動することもあるが、おおよその目安は以下のとおりである。
- 4WDチャーター料金(半日): 1台あたり150,000〜250,000アリアリ(約5,000円〜8,500円)程度。
- この価格は車1台分の料金なので、複数人でシェアすれば、一人あたりの負担は軽減される。
- 料金にはドライバー代及びガソリン代が含まれている。
- ドライバーが英語またはフランス語に対応できるか、別途ガイドを雇うかによって料金が変わる場合がある。
- 入場料: 現時点でバオバブ並木道に入場料は設けられていないが、環境保全や地域支援のため将来的に導入される可能性があるため、最新情報の確認を推奨する。
- 子供料金: 車のチャーター料金が基本となるため、特別な子供料金が設定されていないことが多い。乗車定員内であれば大人も子供も同様に計算されるのが一般的だ。
料金に含まれるものと含まれないもの
予約時のトラブルを避けるため、料金に何が含まれていて何が含まれないかを明確に把握しておくことが重要である。
- 料金に含まれるもの
- ムルンダヴァ市内のホテルからの往復送迎(4WD車両)
- ドライバーの料金
- 車両のガソリン代
- バオバブ並木道をはじめ、近隣の観光スポットへの立ち寄り
- 料金に含まれないもの
- ドライバーやガイドへのチップ(必須ではないが、満足度に応じて支払うのが望ましい。目安は料金の約10%、または20,000アリアリ程度)
- 個人的な飲食費用(途中で飲み物を購入できる場所は限られるため、持参がおすすめ)
- お土産代(バオバブの木彫りなどを扱う露店が並木道の周辺にある)
- 海外旅行保険(マダガスカル旅行では加入が強く推奨されている)
予約方法とその特徴
サンセットツアーの予約にはいくつかの方法がある。それぞれの特徴を理解し、自分に合った方法を選択しよう。
- 方法1:ムルンダヴァ到着後に現地で手配する
最もポピュラーで、費用を抑えやすい手段だ。ムルンダヴァの多くのホテルやゲストハウスにはツアーデスクがあり、信頼できるドライバーを紹介してもらえる。複数のドライバーと直接交渉し、料金や内容を調整することも可能だ。
- メリット: 比較的安価に手配でき、柔軟な交渉ができる。
- デメリット: 繁忙期は人気のドライバーが予約で埋まる場合がある。英語やフランス語での交渉が求められることがある。
- 方法2:日本の旅行代理店やオンライン予約サイトを利用する
日本出発前にすべて予約を済ませたい人に適している。マダガスカル専門の旅行代理店や、ViatorやGetYourGuideといった海外アクティビティ予約サイトで事前に予約・決済が可能だ。
- メリット: 日本語で簡単に予約でき、出発前に料金が明確になるため安心。
- デメリット: 現地での手配に比べて費用がやや高くなる傾向がある。
- 方法3:マダガスカル現地のツアー会社に直接連絡する
やや上級者向けの方法で、メールなどで直接現地旅行会社に問い合わせる手段だ。サンセットツアーだけでなく、ツィンギー国立公園ツアーなど複数の行程をまとめて依頼する場合に便利だ。
- メリット: 現地の情報を反映しやすく、柔軟な旅程を組める。
- デメリット: 英語またはフランス語でのコミュニケーションが必須。信頼できる会社かどうかを見極める必要がある。
どの方法を選ぶにしても、信頼できる情報源をチェックすることが肝心だ。例えば、マダガスカル政府観光局の公式サイトは現地オペレーター探しに役立つ信頼性の高い情報源の一つである。 マダガスカル政府観光局公式サイトをぜひ確認してみよう。
準備は万全?最高の体験にするための持ち物リストと心得
せっかく地球の反対側まで訪れるのだから、準備不足で後悔することは避けたい。最高の体験にするために、事前に知っておきたい持ち物や服装、現地のマナーについてポイントをまとめた。
忘れてはいけない!必携の持ち物
- パスポートとビザ: 有効期限を必ず確認し、必要に応じてビザを取得しておくことが重要。マダガスカル入国にはビザが必要だが、2024年5月時点では空港で到着時にビザを取得することも可能だ。
- 現金(ユーロまたは米ドル、現地通貨アリアリ): ムルンダヴァではクレジットカードが使える場所が非常に限られている。ツアー代金やチップ、食事代などは現金で支払うのが基本だ。日本円からの両替は難しいため、ユーロか米ドルを持参し、アンタナナリボの空港や市内でアリアリに両替するのが便利。
- 虫除けスプレー: マダガスカルはマラリアのリスクがある地域で、とくに夕方以降は蚊が活発になる。DEET成分入りの強力な虫除けスプレーは必須で、長袖・長ズボンと合わせてしっかり対策したい。
- 常備薬: 整腸剤、下痢止め、頭痛薬、酔い止めなど、普段使い慣れている薬は必ず持参しよう。衛生環境が日本とは大きく異なるため、体調を崩しやすいことも考慮しておく。
- 海外旅行保険証書: 病気や怪我、盗難などの万一に備え、必ず海外旅行保険に加入しておくこと。
持っていると便利!おすすめアイテム
- カメラ、予備バッテリー、大容量メモリーカード: あの美しい風景を前にバッテリー切れや記憶容量不足に見舞われるのは避けたい。しっかり準備を整えておこう。
- 三脚: 夕焼けや星空の写真を美しく残したいなら三脚が必須。風が強くなることもあるため、安定したものを用意すると安心だ。
- 日焼け止め、サングラス、帽子: 日中の日差しは非常に強く、赤土の照り返しもあるため、紫外線対策は入念に行うこと。
- 薄手の上着やストール: 日中は暑くても、日没後は思いのほか冷え込むことがある。風も強くなるため、体温調節できる羽織りものが一枚あると重宝する。
- 懐中電灯またはヘッドライト: 日が暮れると周囲は真っ暗になるため、足元を照らしたりバッグの中を探したりする際に役立つ。
- ウェットティッシュ、アルコール除菌ジェル: 衛生面で便利なアイテム。食事前やトイレ後など、こまめに使いたい。
- モバイルバッテリー: スマートフォンやカメラの充電用に。長時間の移動時も安心できる。
服装と靴に関するポイント
服装は機能性を最優先に考えるべきだ。
- トップス: 吸湿速乾性のあるTシャツなどが快適。日差しや虫よけのために、薄手の長袖シャツを重ねるのがおすすめ。
- ボトムス: 動きやすく汚れても気にならない長ズボンが適している。赤土の砂埃で服がオレンジ色に染まることも多いため、おしゃれよりも丈夫な服を選ぼう。
- 足元: 歩きやすいスニーカーが最適だ。サンダルも可だが、砂ぼこりで汚れやすいことや、暗くなってからの安全面を考えると、つま先が覆われた靴が望ましい。
現地でのマナーと注意事項
自然や文化を尊重し、訪れる者としてのマナーを守ることが大切。
- 写真撮影の許可: 地元の人々や特に子どもを撮影する際は、必ず声をかけて許可を得ること。無断撮影は失礼にあたり、ガイドに仲介してもらうのも良策だ。
- 「Fady(ファディ)」への配慮: マダガスカルには地域や部族ごとに独自のタブー「ファディ」がある。例えば特定の食べ物を口にしない、特定の場所に立ち入らないなどだ。バオバブの木も神聖視されることが多く、むやみに登ったり傷つけたりすることは厳禁。ガイドの指示に従い、現地文化を尊重しよう。
- ゴミは必ず持ち帰る: 美しい景観を守るため、ゴミは絶対に捨てずに持ち帰るのが基本マナーだ。
- 子どもたちへの接し方: 並木道周辺では物乞いをする子どもに出会うこともある。安易にお金やお菓子を渡すことは、子どもたちが学校に行かず物乞いを続けてしまう原因になることもあるため慎重に考えたい。支援を考える場合は、現地の学校やNGO団体に寄付するなど持続可能な形を検討しよう。このテーマについてはユニセフの活動報告なども参考に、慎重な判断を心がけたい。
旅人の疑問を解消!バオバブ並木道Q&A

ここまで読み進めていただき、まだいくつかの疑問や不安が残っているかもしれません。多くの旅行者が抱きやすい質問を想定し、Q&A形式でお答えします。
Q1. バオバブ並木を訪れるのに最適な時期はいつですか?
バオバブ並木を訪れるのに適しているのは、乾季である4月下旬から11月頃です。この期間は雨がほとんど降らず、晴天の日が多いため、素晴らしい夕日を拝む確率が非常に高くなります。また、道が乾燥しているため、ムルンダヴァからのアクセスも快適です。 一方、12月から3月の雨季はサイクロンが襲来することもあり、ぬかるみで道が通行止めになる可能性があります。そのため、せっかく訪れても並木道に辿り着けなかったり、曇りや雨のために夕日が見られないことが増えます。特別な理由がない限りは、乾季を選んで旅行を計画するのが賢明でしょう。
Q2. 治安の状況はどうでしょうか?
マダガスカル全体としては必ずしも治安が良いとは言えませんが、ムルンダヴァやバオバブ並木周辺は観光客が多く訪れるため、比較的安全なエリアとされています。ただし、海外旅行の基本的な注意事項は必ず守るべきです。
- 夜間の一人歩きは避けること。
- 貴重品はホテルのセーフティボックスに預け、多額の現金や高価なアクセサリーは持ち歩かないこと。
- 信頼できるツアー会社やホテルが紹介するドライバーを利用すること。
日中やツアーで多くの人がいるサンセットタイムなど、常識的な行動を心掛けていれば、過度に心配する必要はありません。ただし、首都アンタナナリボではスリや置き引きも報告されているので、移動中は常に警戒を怠らないことが大切です。
Q3. ムルンダヴァへの行き方を教えてください。
日本からマダガスカルへは直行便がないため、パリ、イスタンブール、アディスアベバ、バンコクなどを経由して、首都アンタナナリボのイヴァト国際空港へ向かいます。 アンタナナリボからムルンダヴァへは主に2通りの方法があります。
- 国内線利用: 最も早く快適な手段です。マダガスカルの国内航空会社(エール・マダガスカル(現ツァラディア航空))を使えば、約1時間でムルンダヴァに到着します。ただし、頻繁に遅延や欠航が発生するため、スケジュールには余裕を持たせましょう。
- 陸路(タクシーブルース): 現地で一般的な乗り合いバス「タクシーブルース」を利用する方法です。所要時間は15時間以上と長く、乗り心地もかなり過酷ですが、マダガスカルの現地の風景や文化を肌で感じられます。料金は非常に安いため、冒険好きのバックパッカーに人気です。ただし、安全面や快適さを考慮すると旅行者にはあまり推奨できません。
Q4. 現地で英語は通じますか?
マダガスカルの公用語はマダガスカル語とフランス語です。ムルンダヴァのホテルやレストラン、ツアーガイドには英語を話せる人も多いですが、よりローカルな場所に行くと英語はほとんど通じないと考えたほうが良いでしょう。 とはいえ、現地の人々は非常に親切です。簡単な挨拶を覚えて使うだけで、コミュニケーションがずっと楽しくなります。
- 「Salama(サラマ)」 – こんにちは!
- 「Misaotra(ミサオチャ)」 – ありがとう
これらの言葉を覚えて使ってみれば、素敵な笑顔で応えてくれるはずです。
Q5. バオバブの木に触ったり、登ったりしてもいいですか?
先に述べたように、バオバブの樹は地元の人々にとって精霊が宿る神聖な存在です。その巨大な幹にそっと手を添え、悠久の時の流れを感じることは許されています。しかし、木を傷つけたり、むやみに登ることは絶対に避けましょう。私たちは常に「お邪魔させてもらっている」という謙虚な気持ちを持ち、この偉大な自然に対して敬意を払って行動することが大切です。
夕景の先にある、もう一つの物語
日が沈み、満天の星が夜空を飾り始める頃、バオバブ並木には静寂が戻る。観光客を乗せた4WDが去り、残るのは風の囁きと、闇の中でそびえる巨木たちのシルエットだけだ。
あの燃え盛る夕焼けを見つめながら、ぼんやりと思いを巡らせていた。800年もの長きにわたり、この木々は何を見守ってきたのだろうか。栄えた王国の興隆と衰退、遠方から訪れた船乗りたち、日々この道を行き交う名もなき人々の営みを。彼らはただ静かに、この大地のすべてを見続けてきたのだ。
バオバブ並木で体験するのは、単なる「絶景」ではない。それは地球が放つ圧倒的な生命力と、悠久の時を肌で感じ取る、一種の巡礼のようなものだろう。日々の悩みや焦燥は、この壮大なスケールの前に、どれほど小さな存在かと気づかされる。
ウィスキーの小瓶でも持ってくればよかったかなと、少し意外な感傷に浸りながら、俺はこの日の光景を一生忘れられない記憶として心に刻んだ。あのシルエットは、きっとあなたの心にも深く、静かに刻まれるだろう。
さあ、次はあなたの番だ。パスポートの有効期限を確認し、少しの勇気と好奇心をバッグに詰めてみてはどうだろう。地球が描いた最高傑作が、あなたを待っている。マダガスカルの赤土の上で、人生最高の夕焼けをその目に焼き付けに、旅へと出よう。

