陽が落ち、アール・デコの優美な建物が深い藍色のシルエットに変わる頃、メキシコシティのコロニア・ローマは、もう一つの顔を見せ始めます。昼間の静寂な気品はどこへやら、街灯のオレンジ色の光が石畳を濡らし、人々の笑い声と食欲をそそる香りが夜気と混じり合うのです。ここは、最先端のクリエイティビティと、何世代にもわたって受け継がれてきた生活の温もりが交差する場所。そのエネルギーが最も凝縮されるのが、夜の闇に突如として現れる宝石箱、ナイトマーケットです。
この記事では、単なる観光ガイドブックには載っていない、コロニア・ローマの夜の歩き方を、五感を頼りに深く、そして実践的にご案内します。屋台から立ち上る湯気の向こうにある物語、アーティストの瞳に宿る情熱、そしてこの街の夜が奏でる唯一無二のメロディ。さあ、一緒にローマの夜の迷宮へと足を踏み入れましょう。忘れられない一夜が、あなたを待っています。
この忘れられない一夜を、熱狂的なルチャリブレ観戦でさらに特別なものにするのはいかがでしょうか。
コロニア・ローマという街の肖像 – 昼と夜、二つの顔

メキシコシティの多くの地区(コロニア)の中でも、ローマはひときわ特別な存在感を放っています。正式にはローマ・ノルテとローマ・スールに分けられるこのエリアは、20世紀初頭にヨーロッパ風の高級住宅地として誕生しました。その歴史は今も街の至るところに残り、壮麗なアール・ヌーヴォーやアール・デコ様式の建築群にその面影が色濃く表れています。
昼間のローマは、洗練された大人のための遊歩道のようです。緑豊かな並木道が連なり、その下にはセンスの良いカフェや独立系の書店、デザインブティックが静かに佇んでいます。犬を散歩させる人々や、オープンエアの席でエスプレッソを楽しみながら談笑する人たちが見られ、ゆったりとした時間が流れています。アカデミー賞を受賞した映画『ROMA/ローマ』の舞台としても知られ、そのモノクロ映像が描く詩情豊かな日常風景は、現在もこの街の空気に溶け込んでいるかのようです。
しかし、太陽が西の空に沈み、街が黄金色から深い紫へとその表情を変える頃、ローマはまるで魔法にかかったかのように姿を一変させます。昼間の静けさは心地よい喧騒に変わり、レストランやバーの扉が開放され、ネオンの光が訪れる人々を誘います。そして、その変貌の頂点を飾るのが、夜のマーケットの登場です。
コロニア・ローマには、バンコクや台北のような巨大な「常設ナイトマーケット」は存在しません。むしろこの地区の夜の魅力は、より流動的で予測不可能な点にあります。週末に突然姿を現すアートバザールや、夜遅くまで賑わうフードマーケット、昼間から続くティアンギス(青空市場)が夜の顔をのぞかせる瞬間などが点在し、時に融合してローマの夜を彩っています。それは観光地として計画されたものではなく、地元の人々の日常とクリエイティビティが自然発生的に生み出した、生きた文化の流れと言えるでしょう。この予測不能な動きこそが、探検心を刺激するローマの夜の最たる魅力なのです。
夜の闇に灯る宝石箱 – ローマのナイトマーケットを歩く
ローマの夜の街を歩いていると、何気なく角を曲がった瞬間、光・音・香りが織り成す一種の渦に引き込まれることがあります。それは、このエリアに点在するナイトマーケットや、夜ならではの魅力を発揮する食とアートのスポットが集まる場所です。特定の大規模市場を探し求めるのではなく、小さな光の集まりを見つける宝探し感覚で歩くのが、ローマの夜を思い切り楽しむ秘訣と言えるでしょう。
モダンガストロノミーの聖地:Mercado Roma
伝統的なナイトマーケットとは厳密には異なるものの、ローマの夜を語るうえで「Mercado Roma」の存在は欠かせません。ケレタロ通りに位置するこの3階建ての建物は、まさに現代メキシコシティの食文化を凝縮した場。剥き出しのレンガと鉄骨を活かしたインダストリアルな空間に、数十軒もの小さなフードスタンドやバーがひしめき合っています。
昼間も営業しているものの、ここが真価を発揮するのは夜の時間帯。仕事帰りの人々やディナーを楽しむカップル、友人同士のグループで活気があふれ、グラスのぶつかる音や多言語での会話が心地よいBGMとなります。伝統的なタコスやタマレスはもちろん、斬新な創作料理を手がける気鋭シェフのメニュー、新鮮なシーフードを使ったセビーチェ、職人技が光るクラフトビールやメスカル専門のバーまで、多種多様な美食が一堂に会しています。
特に屋上のビアガーデンは人気スポットで、ローマの夜景を眺めながら冷たいビールを味わうひとときは格別です。様々な店舗の料理を少しずつ買い集めてシェアするのがメルカド・ローマ流で、選択肢が多すぎて迷ってしまうという嬉しい悲鳴も聞こえてきそうです。ここは、伝統的な屋台の賑わいとモダンで洗練された空気が見事に融合した、新時代の「夜市」と呼べるでしょう。
週末の夜の楽しみ方:アートとデザインのバザール
ローマの夜にはもう一つの顔があり、それは主に週末を中心に不定期で開催されるポップアップ型のバザールです。公園の片隅や閉鎖されたガレージ、イベントスペースなどで、突然才能あふれるクリエイターたちの祭典が始まります。これらのバザールは食よりもアート、ファッション、デザインに重きを置いているのが特徴です。
例えば、プーシュキン公園(Jardín Pushkin)周辺やアルバロ・オブレゴン通りの広い歩道などで、このようなマーケットと出会うことがあります。地元の若いアーティストが描いたイラストや写真、個性的なデザインのTシャツ、手作りのシルバージュエリー、サボテンを寄せ植えした愛らしいテラリウムなど、大量生産にはないぬくもりや独自の個性が感じられる品々が並びます。
作り手であるアーティストが直接店先に立っていることも多く、作品に込めた思いや背景を直接聞けるのも大きな魅力。言葉が不自由でも、笑顔と身振り手振りを交わしてのコミュニケーションは、ただの買い物以上に心に響く交流体験となるでしょう。バザールは常時開催されているわけではないため、出会えたらそれは幸運の証。迷わず足を踏み入れ、クリエイティブな気配に満ちた空気を思う存分楽しんでみてください。
地元の活気を感じる夜のティアンギス
ティアンギスはナワトル語で「市場」を意味し、古くから続くメキシコの青空市場の文化を示します。週に1度、指定された曜日に特定の通りが歩行者天国となり、生鮮食品、日用品、衣類、そしてもちろん屋台グルメなど、さまざまな品が並びます。
多くのティアンギスは昼間に最も賑わいを見せ、夕方には撤収を始めますが、中には夜遅くまで営業している屋台もあります。とくに金曜や土曜の夜には、ティアンギスの一部やその周辺にて夜食を求める地元客でにぎわう様子が見られます。昼間の市場とは少し異なり、落ち着きつつもローカル色豊かな空気が漂います。ここでは観光客向けの洗練された料理ではなく、地元の人々が日常的に親しむ素朴で心に染みる味に出会える可能性が高いのです。大きなティアンギス開催場所を事前に調べ、その日の夜に周囲を散策するのも面白い楽しみ方でしょう。
舌の上で踊るメキシコの魂 – ナイトマーケットの美食探訪

メキシコの夜は、食欲をかき立てる香りに満ちあふれています。ナイトマーケットの醍醐味は、何と言ってもその絶品のグルメにあります。炭火で焼かれる肉の芳ばしい香り、トウモロコシの甘い香り、さらにライムとコリアンダーの爽やかなアクセント。これらはメキシコの豊かな食文化を凝縮し、五感を刺激する鮮烈な体験をもたらします。
定番から現代風アレンジまで、欠かせない夜食グルメ
ローマの夜に出会う多彩な美食は、あなたのメキシコ料理に対するイメージを変え、より深くしてくれることでしょう。
- タコス・アル・パストール (Tacos al Pastor): 夜の人気ナンバーワンと言えば、これをおいて他にありません。巨大な肉の塊が垂直に刺さった串で回転しながらじっくり焼かれる光景は、メキシコの夜の風物詩とも言えます。レバノン移民がもたらしたシャワルマがルーツとされています。注文すると、タケロ(タコス職人)が大きなナイフで肉を薄くそぎ落とし、小さなトルティーヤの上に乗せます。最後に串の頂上に刺さったパイナップルを鮮やかな手つきで切り落とし添えてくれます。スパイシーなアドボソースに漬け込まれた豚肉の深い旨味、玉ねぎとコリアンダーの爽やかさ、そしてパイナップルの甘酸っぱさが絶妙に調和した味わいは逸品です。お好みでサルサ・ベルデ(緑のサルサ)やサルサ・ロハ(赤のサルサ)をかければ、いくらでも食べられてしまう魅力があります。
- ケサディーヤ (Quesadillas): チーズ好きにはたまらない一品です。トルティーヤにたっぷりのオアハカチーズと、きのこやカボチャの花、鶏肉、チョリソーなど好みの具材を挟み、鉄板で香ばしく焼き上げます。外はカリッと、中はとろとろに溶けたチーズの食感がたまりません。メキシコシティでは、チーズなしの具材をトルティーヤで包んで焼いたものもケサディーヤと呼ぶことがあるため、「コン・ケソ(チーズ入り)?」と確認するのもおすすめです。
- エスキテス (Esquites) / エローテ (Elotes): トウモロコシを使った代表的なメキシコのストリートスナックです。エローテは茹でるか焼いたトウモロコシに棒を刺したもので、一方エスキテスは粒をカップに入れ、スープで煮込んだものです。どちらもマヨネーズ、粉チーズ、チリパウダー、ライムをたっぷりかけて混ぜながらいただくのが定番。甘く香ばしいトウモロコシにクリーミーさとスパイシーさ、そして酸味が加わり、複雑でクセになる美味しさです。寒い夜には、湯気が立つエスキテスのカップが心から温めてくれるでしょう。
- チュロス (Churros): 食事の締めくくりには甘い誘惑が待っています。揚げたてのチュロスは外はサクサク、中はもちもち。砂糖とシナモンをたっぷりまぶし、濃厚なホットチョコレートにディップして食べるのがメキシコ流の楽しみ方。シンプルなデザートながら、その幸福感は格別です。夜風に吹かれながら熱々のチュロスを頬張る瞬間は、旅の忘れがたい思い出となるでしょう。
- メスカルとテキーラ (Mezcal y Tequila): ローマには、メキシコ自慢の蒸留酒を専門に扱うメスカレリアやバーが数多くあります。アガベ(竜舌蘭)から造られるこれらの酒は、ナイトマーケットの料理との相性も抜群です。特にスモーキーな香りが特長のメスカルは、近年世界的に注目を浴びています。オレンジスライスにチリパウダーをかけたものをつまみつつ、ゆっくり味わうのが通の楽しみ方。専門店のバーテンダーにおすすめを聞けば、その深い世界を案内してもらえるでしょう。
食の安全と楽しむためのポイント
屋台での食事は旅の醍醐味ですが、衛生面が気になる方もいるかもしれません。ここで、安心して満喫するためのいくつかのアドバイスをご紹介します。
- 行列ができている店を選ぶ: 地元の人で賑わい、常に行列ができている屋台は、食材の回転が早く新鮮である証拠であり、何より味が良い安心のサインです。
- 火の通った料理を選ぶ: 目の前で調理され、しっかり火が通っているものを選ぶことが基本です。生野菜のトッピングには注意が必要ですが、ライムには殺菌効果があるとも言われています。最終的には自身の体調と相談して判断してください。
- サルサは少量から試す: 屋台のサルサは時に予想以上に辛いものもあります。まずは少量で試し、自分の味覚に合うか確認を。
- 現金の用意を忘れずに: 屋台や小規模マーケットではカードが使えないことが多いです。特に100ペソ以下の少額紙幣や硬貨を多めに持っていると支払いがスムーズ。高額紙幣を出すとお釣りがない場合があるので注意しましょう。
- 簡単なスペイン語でのやり取り: 「Uno de pastor, por favor」(パストールを一つください)、「Gracias」(ありがとう)といった簡単な言葉を覚えるだけで、店主との距離感がぐっと縮まります。指差し注文も可能ですが、言葉を交わすことで旅がより豊かになります。
路上のギャラリー – アートとクラフトに触れる夜
ローマのナイトマーケットの魅力は、美味しい料理だけに留まりません。街全体がまるでギャラリーのように変わり、創造性が花開く場ともなっています。柔らかな街灯に照らされた露店には、作り手の情熱が込められた一点もののアートやクラフトが並び、訪れる人の目を楽しませてくれます。
多彩な才能が交錯する創造の坩堝
週末の夜に開かれるアートバザールは、まさに才能の坩堝(るつぼ)と言えるでしょう。ここには、メキシコシティの多種多様なクリエイティブシーンがぎゅっと凝縮されています。
- ビジュアルアート: 若手アーティストが描いたキャンバス画や、メキシコらしい鮮やかな色彩のイラスト、そしてコロニア・ローマの日常を切り取った芸術的な写真作品が並びます。フリーダ・カーロや骸骨(カラベラ)といった伝統的モチーフを、現代的な感性で再解釈した作品も多く、眺めているだけでインスピレーションが湧き上がります。
- ハンドメイドアクセサリー: 銀製品が有名なメキシコならではの独創的なシルバージュエリーは特に目を引きます。さらに、天然石やビーズ、革を用いたボヘミアン調のアクセサリーも高い人気を誇ります。作り手と直接対話しながら、自分だけの特別なお守りのような一品を見つける体験も格別です。
- ファッションと雑貨: 地元デザイナーが手掛けるTシャツやトートバッグは、メキシコシティのストリートカルチャーを感じさせます。また、オアハカ州の刺繍やチアパス州の織物といった豊かな民芸の伝統技術を活かしてモダンなデザインに仕上げたポーチやクッションカバーも手に入ります。伝統と現代が融合したこれらのアイテムは、お土産としてもぴったりです。
これらの作品は単なる商品ではなく、それぞれに作り手のストーリーやメキシコ文化、そしてこの街の活気が詰まっています。露店が並ぶ場所は、美術館とは一味違う、より身近で温かみのある“生きた”アート空間なのです。
一点ものを見つけるためのコツ
路上のギャラリーで心惹かれる作品に出会ったら、それはまさに一期一会の瞬間かもしれません。ここでは、楽しく買い物をするためのポイントをご紹介します。
- 値段交渉(レガテオ)について: メキシコの市場では値段交渉も文化の一部ですが、相手は大量生産品の業者ではなく、時間と情熱を注いだアーティストです。強引な値切りは失礼にあたります。もし交渉する場合は、「複数買うので少しお値引きいただけますか?」など、敬意を込めて伝えるのがマナー。笑顔で「¿Es el mejor precio?(これが一番良い価格ですか?)」と尋ねるくらいが、心地よいやり取りの範囲でしょう。
- コミュニケーションを楽しむ: 言葉が完璧でなくても、作品を指して「¡Qué bonito!(とても綺麗ですね!)」と声をかければ、作り手の表情は自然と和みます。翻訳アプリを使いながら、使われている素材や作品のコンセプトについて尋ねてみるのもおすすめ。このやり取りが旅先での買い物を忘れ難い思い出に変えてくれます。
- 持ち帰りの準備: 絵画や割れやすい陶器を購入した際は、梱包方法を事前に考えておくと安心です。多くの出店者は新聞紙や簡易の緩衝材で包んでくれますが、不安な場合は日本からプチプチやマスキングテープを持参するとよいでしょう。スーツケースに入れる際は、衣類でしっかり固定して衝撃を防ぐのを忘れずに。
ローマの夜を安全に満喫するための実践ガイド

コロニア・ローマはメキシコシティ内でも比較的安全なエリアですが、異国の夜を歩く際には基本的な注意を怠らないことが重要です。少しの準備と心構えが、夜の時間をより楽しめるだけでなく、トラブルを避ける助けにもなります。ここでは、外出前から緊急時まで役立つ具体的な対策やステップを詳しくご紹介します。
外出前の準備と持ち物チェックリスト
しっかり準備することで、安心感がぐっと増します。ローマの夜を楽しむ前に、以下のポイントを確認しておきましょう。
- 服装のポイントと推奨スタイル:
- 靴: 歩きやすさが最も大切です。ローマの通りは石畳や凹凸のある場所が多いため、スニーカーやフラットシューズなど疲れにくい靴がおすすめです。
- 服装: 厳しいドレスコードはありませんが、過度に派手な服装や高価なブランド品は控え、周囲に溶け込むようなカジュアルな装いが望ましいです。Tシャツとジーンズ、もしくはシンプルなワンピースなどで十分でしょう。
- 羽織るもの: 日中は暖かくても夜は意外に冷え込むこともあります。特に乾季(11月〜4月)は寒暖差が大きいため、薄手のジャケットやカーディガン、ストールなどを一枚持っておくと便利です。
- 持ち物リスト(必須アイテム)
- 現金: 屋台や小規模な店舗では現金が主な支払い手段です。100ペソ、50ペソ、20ペソの紙幣と、10ペソや5ペソの硬貨を多めに準備しましょう。
- スマートフォンとモバイルバッテリー: 地図や翻訳アプリ、配車サービスの利用に欠かせません。バッテリーの切れを防ぐためにも、フル充電済みのモバイルバッテリーは必ず携帯しましょう。
- 身分証明書のコピー: パスポートはホテルのセーフティボックスに預け、コピーやスマホで撮影した画像を持ち歩くことを推奨します。
- ウェットティッシュや手指消毒ジェル: 屋台で食事前の手拭きや、口周りの汚れを落とすのに役立ちます。
- 小さなエコバッグ: マーケットでの買い物時に商品をまとめるのに便利です。
- 持ち込みに関する注意点:
Mercado Romaなど一部の施設では外部からの飲食物持ち込みが禁止されています。また、週末に開催されるアートバザールなどでは大きな荷物が邪魔になることもあるため、貴重品は最小限にし、できるだけ身軽な状態で出かけるのが賢明です。
アクセスと移動手段について
ローマ地区内の散策は徒歩が楽しいですが、ホテルからの移動や他エリアへの移動には、公共交通機関や配車アプリを上手に活用しましょう。
- メトロ(地下鉄)・メトロブス(BRT):
メキシコシティの公共交通は安価で使い勝手が良いです。ローマ地区にはメトロのインスルヘンテス駅やセビリア駅、メトロブスのアルバロ・オブレゴン駅があります。ただし、夜遅くの利用は特に女性の一人歩きに注意が必要。混雑状況や周囲の様子を見て、できるだけ早めの時間帯に利用することをおすすめします。
- 配車アプリ(Uber、Didi):
夜間の移動には安全かつ便利な配車アプリの利用が最適です。乗車前に料金やドライバー情報、車両番号を確認できるため安心です。街中で拾う流しのタクシー(リブレ)はトラブルが起こりやすいので、特に夜は避けましょう。乗車時には車のナンバープレートがアプリ上の情報と一致しているか必ずチェックしてください。
トラブル時の対応策
楽しい旅を守るため、万が一の事態に備えた対処法を覚えておきましょう。
- スリ・置き引き対策:
混雑した場所ではスリに注意が必要です。リュックは前に抱え、ショルダーバッグは体の前でしっかり持つなど基本を徹底してください。飲食店やバーではスマホをテーブルに放置せず、バッグを椅子から下ろすなど、常に荷物を視界に入れる習慣をつけましょう。
- 迷子になった場合:
スマホのバッテリー切れ対策として、ホテルの名前と住所が書かれたカードを携帯すると安心です。道に迷ったら慌てず、明るいカフェやコンビニ、ホテルなど安全な場所で助けを求めましょう。ただし、声をかける相手は慎重に選ぶことが大切です。
- 体調不良時の対応:
環境や食べ物に慣れず体調を崩すことがあります。まずはこまめな水分補給を心がけてください。軽い腹痛や下痢なら、薬局(Farmacia)で市販薬を購入可能です。大手チェーンの「Farmacias del Ahorro」や「Farmacia San Pablo」では薬剤師が常駐しており安心です。症状が重い場合は無理をせず、ホテルのスタッフに相談して病院を紹介してもらうか、海外旅行保険のサポート窓口へ連絡しましょう。
- 返品・返金について:
ナイトマーケットや屋台などで買った商品は、基本的に返品や返金が難しいのが現状です。購入前には商品の状態をしっかり確認し、特に食品はその場で楽しむつもりで買うことが大切です。もし不具合が見つかったら、その場で店主に伝えるのが唯一のクレームの機会です。
公式情報の活用
旅行計画や現地で最新情報を得る際には、信頼できる公式情報源の参照が欠かせません。
- メキシコシティのイベントや観光情報は、メキシコシティ観光局(Secretaría de Turismo de la Ciudad de México)公式サイトでチェック可能です。週末のイベントなども掲載されており(スペイン語)、役立ちます。
- Mercado Romaなど特定の施設に関しては、公式ウェブサイトやSNSアカウントで営業時間や店舗情報を確認しましょう。
- 海外の信頼できる情報サイトとして、Condé Nast Travelerのメキシコシティガイドなどがレストランやバーの質の高い情報を提供しています。
- メキシコの文化や習慣を理解することもトラブル回避に役立ちます。メキシコ政府観光局のウェブサイトは基本情報を学ぶのに最適なスタート地点となるでしょう。
言葉の壁を越えて – 心を通わせる魔法のフレーズ
旅先でのコミュニケーションは、時に心配や緊張を感じることもあるかもしれません。しかし、完璧なスペイン語を話す必要はまったくありません。簡単なフレーズをいくつか覚えるだけで、あなたの旅は格段に豊かになり、現地の人々との距離もぐっと近づきます。これは、単なるやり取りを温かな心の交流に変える魔法の言葉のようなものです。
- Hola(オラ)/Buenas noches(ブエナス・ノーチェス):
「こんにちは」「こんばんは」の意味です。お店に入るときや屋台で注文する前に、まず笑顔で声をかけてみましょう。挨拶はコミュニケーションの第一歩です。
- Gracias(グラシアス):
「ありがとう」を表す言葉で、世界共通の感謝の気持ちを伝えます。商品を受け取った時や道案内をしてもらった時など、どんな些細な場面でも添えることで、お互いの気持ちが和らぎます。
- Por favor(ポル・ファボール):
「お願いします」という意味です。注文の最後や何かを頼む際に加えるだけで、丁寧な印象を与えます。たとえば「Uno de pastor, por favor」(パストールをひとつお願いします)のように使います。
- ¿Cuánto cuesta?(クアント・クエスタ?):
「いくらですか?」と値段を尋ねる表現です。指を指しながら尋ねると、ほとんどの場合、指で数字を示してくれたり、電卓を見せて教えてくれたりします。
- Quiero esto(キエロ・エスト):
「これが欲しいです」という意味です。メニューや商品を指しながら使えば、簡単に注文が完了します。
- La cuenta, por favor(ラ・クエンタ、ポル・ファボール):
「お会計をお願いします」という表現で、レストランやバーで席を立つ時に使います。
- ¡Qué rico!(ケ・リコ!):
「なんて美味しいの!」の感嘆の言葉です。食べ物がおいしかったら、ぜひ店主に伝えてみてください。最高の褒め言葉であり、作り手にとっては何よりもうれしい言葉です。満面の笑みと一緒に伝えれば、きっと最高の笑顔が返ってくるでしょう。
これらの言葉は単なる道具ではなく、相手の文化に敬意を示すためのパスポートとも言えます。たとえ発音が少し違っていても、伝えようとする気持ちは必ず相手に届きます。恥ずかしがらず、積極的に使ってみてください。言葉の壁が溶けて人の温もりに触れる瞬間は、どんな美しい景色にも勝る旅の宝物になるでしょう。
ローマの夜が教えてくれること

コロニア・ローマのナイトマーケットを彷徨う夜は、多くのことを私たちに伝えてくれます。それは、メキシコシティという巨大都市が決して無機質なコンクリートの塊だけではないという事実です。路地裏の屋台から立ち上る湯気の向こうには、家族の暮らしを支える父親が存在し、手作りのアクセサリーを並べる露店には、自らの夢に向かって情熱を燃やす若いアーティストの姿があります。
ここで交わされる会話、耳を飾る音楽、そして鼻をくすぐる香り。そのすべてが、この街に流れる命の鼓動そのものなのです。最先端の味を楽しめるモダンなガストロノミーマーケットで過ごす夜もあれば、地元の人々と混ざり合いながら道端でタコスを頬張る夜もあります。そのどちらもが、間違いなく本物のメキシコシティの姿なのです。
計画通りに進まないこと、思いがけない出会い、言葉が通じず感じるもどかしさ。そうしたすべてが旅の醍醐味を形作っています。ローマの夜は、完璧でないことの美しさや、五感を解放して「今この瞬間」を存分に味わう喜びを思い出させてくれるのかもしれません。
この記事を読んで、あなたの心に小さな灯がともったなら、ぜひ次の旅先にメキシコシティ、そしてコロニア・ローマの夜を選んでみてください。地図を手にしつつも、時にはそれを閉じて、自らの直感や好奇心に身をゆだねて歩いてみてください。
曲がり角の向こうには、どんな光景が広がっているのでしょうか。どんな味と出会い、どんな人々と微笑み合うのか。それは誰にも予測しえません。あなたのローマの夜の物語は、あなたがその一歩を踏み出したその瞬間から、静かに紡がれ始めるのです。

