どこか懐かしく、そして息をのむほど美しい。大航海時代の栄光が薫る石畳の路地、哀愁を帯びたファドの音色、そしてどこまでも青い大西洋の海。ヨーロッパの西の果てに位置する国、ポルトガルは、訪れる者の心を掴んで離さない不思議な魅力に満ちています。
こんにちは、世界中の辺境から都市までを旅するライターのMarkです。アマゾンの奥地でサバイバルをした経験もあれば、緻密に計画された都市攻略を楽しむこともあります。そんな僕が、次の冒険の地にポルトガルを強くおすすめするのには理由があります。ここは、壮大な歴史の物語と、息づく人々の暮らし、そして手つかずの自然が見事に融合した、まさに旅人のための国なのです。
この記事では、僕が実際に訪れ、心から感動したポルトガルの観光スポットを10ヶ所、厳選してご紹介します。単なる名所紹介ではありません。チケットのスマートな買い方から、混雑を避ける裏技、現地で困らないための服装や持ち物、そして僕自身の体験から得た「こうすればもっと楽しめる」という具体的なアドバイスまで、あなたの旅を成功に導くための実践的な情報を詰め込みました。
この記事を読み終える頃には、あなたの頭の中にはポルトガルでの完璧な旅の計画が描かれているはずです。さあ、一緒に大航海時代の風を感じる旅に出かけましょう。
1. 大航海時代の栄光を刻む白亜の殿堂 – ジェロニモス修道院とベレンの塔(リスボン)

息を呑むマヌエル様式の最高傑作
リスボンを訪れるなら、絶対に外せないスポットがベレン地区に佇むジェロニモス修道院です。16世紀初頭から約100年もの歳月をかけて建造されたこの修道院は、ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を開拓した偉業を讃えるもので、大航海時代の豊かさと栄華を象徴しています。ユネスコの世界遺産にも登録されており、その白亜の輝きと壮麗な外観は訪れる人々を圧倒します。
初めてこの建築を目にした際、その緻密さと美しさに言葉を失ったのを今でも鮮明に覚えています。ポルトガル独自の建築様式であるマヌエル様式は、ロープや錨、天球儀、そして異国の動植物など、海と冒険をモチーフにした彫刻で隅々まで飾られています。これは未知の世界へ挑んだ航海者たちの勇気と夢を石に刻んだ、壮大な叙事詩と呼べるでしょう。
中でも特に見逃せないのは、中庭を囲む回廊です。日差しが差し込むと繊細な石のレース細工が美しい影を作り出し、まるで異世界に迷い込んだかのような幻想的な空間が広がります。一本一本の柱に施された彫刻をじっくり観察すると、当時の職人たちの情熱と、ポルトガルが世界の中心だった時代の誇りがひしひしと伝わってきます。
隣接するサンタ・マリア教会にはヴァスコ・ダ・ガマの棺が安置されており、その荘厳な空気の中で歴史の重みを肌で感じることができます。この場所は単なる美しい建造物にとどまらず、ポルトガルの魂に触れることのできる神聖な聖地なのです。
行動するための実践ガイド
では、この素晴らしい体験を最大限に楽しむための具体的なポイントをお伝えします。
- アクセス方法: リスボン中心部のカイス・ド・ソドレ駅から15E番線の市電(トラム)に乗り、「Mosteiro Jerónimos」停留所で降りるのが一番便利で風情があります。所要時間は約25分。車窓から見えるリスボンの街並みを眺める時間も、旅の序章として格別です。
- チケット購入のコツ: ジェロニモス修道院は世界中から多くの観光客が訪れるため、チケット売り場は常に長蛇の列ができています。貴重な旅の時間を無駄にしないために、オンラインでの事前購入は必須です。公式ウェブサイトや、公式代理店の「GetYourGuide」などで事前にチケットを手に入れておけば、QRコードを提示するだけでスムーズに入場できます。また、リスボンの主要交通機関や多くの美術館・博物館の入場が無料または割引になる「リスボンカード」を持っている場合も入場無料ですが、並ぶことが多いため、朝一番など比較的空いている時間帯を狙うのがおすすめです。
- 服装と持ち物のポイント: 修道院は神聖な教会でもあります。特に夏季はタンクトップやショートパンツなど露出が多い服装になりやすいですが、入場を断られることもあるため、肩や膝を覆う服装を心がけましょう。また、薄手のカーディガンやストールをひとつバッグに忍ばせておくと便利です。これはポルトガルの他の教会訪問時にも役立つマナーの一つです。さらに、回廊は日陰が少ないため、帽子やサングラス、日焼け止めの持参もお忘れなく。
- 周辺観光とおすすめスポット: 修道院から徒歩約10分の場所には、同じく世界遺産の「ベレンの塔」があります。テージョ川に面した美しい塔で、ジェロニモス修道院と合わせて訪れるのが定番です。また、絶対に外せないのが本場のエッグタルト発祥の店「パスティス・デ・ベレン」。修道院のほど近くにあり常に行列ができていますが、テイクアウト(Para Levar)の列は比較的流れが速いです。焼きたての温かいタルトを手に、ベレン公園でひと息つくのは格別のひとときです。
2. リスボンの心臓部を歩く – サン・ジョルジェ城とアルファマ地区
7つの丘の山頂から望む絶景
リスボンは「7つの丘の街」として知られていますが、その中で最も標高の高い丘にそびえるのがサン・ジョルジェ城です。この城はローマ時代に起源を持ち、西ゴートやイスラム教徒(ムーア人)による支配を経て、要塞として段階的に強化されてきました。サバイバルゲーム好きの僕にとっては、自然の地形を巧みに利用した堅牢な城塞はまさに魅力的な存在。城壁の上を歩くと、その戦略的重要性が実感できます。
城壁からの眺望は言葉を失うほどの美しさです。アルファマ地区のオレンジ色に連なる屋根瓦、遥か彼方まで広がるテージョ川の青い水面、360度のパノラマは、まさにリスボンにいることを実感させてくれる感動的な光景。とくに夕暮れ時、街が黄金色に染まるマジックアワーには格別の趣があり、ここで過ごす時間は旅の最大の思い出になるでしょう。
城内には考古学博物館やリスボンの歴史を映し出す「カメラ・オブスキュラ」などの見どころが多く、ゆったりと散策する孔雀の姿も非日常的な雰囲気を醸し出しています。
迷路のようなアルファマ地区を巡る
サン・ジョルジェ城のふもとに広がるのが、リスボン最古の街並み・アルファマ地区です。1755年のリスボン大地震でも奇跡的に倒壊を免れたこのエリアは、迷路のように複雑に入り組んだ細い路地や急な階段、洗濯物が風になびく窓辺など、昔ながらのリスボンの風情が色濃く残っています。
- アルファマ散策のコツ: ここでは地図はあまり役に立ちません。むしろ、地図をしまって心の赴くままに歩き、迷うこと自体を楽しむのが正解です。曲がり角を折れるたびに現れる小さな広場やストリートアート、地元の人々の日常風景。それらすべてが新たな発見であり冒険です。ただし、石畳は滑りやすく、坂道も多いので、必ず歩きやすいスニーカーで訪れてください。サンダルでは後悔します。
- アルファマ名物トラム28番: アルファマの路地を縫うように走る黄色いレトロなトラム28番は、リスボンを象徴する存在です。観光客に大変人気で常に混雑していますが、一度は乗ってみる価値があります。ただし、このトラムはスリの被害が多発しているので、リュックは前に抱え、貴重品は体の内側のポケットに入れるなど、十分な注意が必要です。始発のマルティン・モニス広場から乗車すれば、座席に座れる可能性が高まります。
- ファドの音色に浸る: 夜のアルファマは、哀愁漂うポルトガルの民謡「ファド」の歌声に包まれます。ファドを楽しめるレストラン「カーザ・デ・ファドス」が多数あり、美味しい料理とともに心を揺さぶる歌唱を堪能できます。人気店は予約必須の場合が多いため、ホテルのコンシェルジュに依頼するか、昼間のうちに直接足を運んで予約を取っておくのが安心です。
- 安全対策について: アルファマの路地は夜間、人通りが少ない場所もあります。治安は比較的良好ですが、貴重品を露出したり、一人で暗い路地に入ったりするのは避けましょう。基本的な注意を守れば、安全にアルファマの魅力を楽しめます。
3. おとぎの国は実在した – ペーナ宮殿(シントラ)

奇抜で夢幻的なロマン主義建築
リスボンから電車で約40分ほどの場所にある緑豊かな山間の町シントラは、かつて王族や貴族が避暑地として愛用していた地です。その山頂には、まるで童話の世界から飛び出してきたかのような鮮やかで華やかな宮殿がそびえ立っています。それがペーナ宮殿です。
赤、黄、青、紫といった大胆な色使いと、イスラム様式、ゴシック、ルネサンスをはじめ多彩な建築様式が入り混じったデザインは、ドイツのロマン主義から強い影響を受けたフェルナンド2世の熱意の結晶と言えます。見る角度によってまったく異なる表情を見せるこの宮殿は、「奇想天外」という言葉がまさにふさわしい場所です。
内部もまた豪華絢爛で、かつて実際に王族が暮らしていた当時のまま保存された部屋の数々、東洋趣味の調度品、そして窓の外に広がる壮大な景観が非現実的な空間を演出し、まるで夢の中にいるかのような気持ちにさせてくれます。霧が発生しやすい場所であるため、霧の中で浮かび上がる宮殿は一層幻想的で、心に深く残る光景となるでしょう。
シントラ日帰り観光のポイント
シントラ観光を充実させるには、しっかりとした計画が欠かせません。計画なしに訪れると、移動や待ち時間に追われて一日が終わってしまうこともあります。
- アクセス方法: リスボン中心のロシオ駅からシントラ行きの電車に乗るのが一般的で、所要時間は約40分です。駅の券売機は混雑するため、前日までにチャージ式交通カード「Viva Viagem」にチャージしておくとスムーズに移動できます。
- 宮殿までの交通: シントラ駅に着いたら、周遊バスの434番に乗車しましょう。宮殿は急な山の頂上に位置しているため、徒歩での登山は非常に困難です。バスは頻繁に運行しており、ムーアの城跡やシントラ王宮など他の主要観光地も回るため効率よく観光できます。
- 重要なチケット取得方法: ペーナ宮殿の入場は時間指定制となっています。現地でチケットを購入すると、希望の時間帯が売り切れていたり長時間待たされたりすることが多いです。必ず事前にシントラ公園群公式サイトでオンライン購入してください。これがシントラ観光を成功させる最大のポイントです。購入時に指定した時間内での入場が必要で、遅刻すると入場を断られる可能性が高いので時間には十分余裕を持って行動しましょう。基本的に返金が認められない場合がほとんどです。複数施設とのコンビチケットも用意されているため、旅のプランに合わせてご利用ください。
- 準備と持ち物: 山頂は天候が変わりやすく、リスボン市内より気温が低めです。夏でも軽く羽織れる上着を持参すると安心です。宮殿の敷地は広く坂道も多いため、歩きやすい靴は欠かせません。霧雨が降ることも多いので、折りたたみ傘やフード付きのジャケットがあると便利です。
4. ドウロ川に架かる鉄の芸術 – ドン・ルイス1世橋とリベイラ地区(ポルト)
エッフェルの弟子が手掛けた二層構造の橋
ポルトガルの第二の都市、ポルト。その街の象徴的存在といえば、ドウロ川に架かる壮麗なドン・ルイス1世橋です。エッフェル塔の設計者ギュスターヴ・エッフェルの弟子であるテオフィロ・セイリグが建設したこの鉄骨製アーチ橋は、まさに鉄の芸術作品と称されます。
この橋が特にユニークなのは、上下二層に分かれた構造を持つところです。上層は地下鉄と歩行者用、下層は車両と歩行者用に設計されており、どちらの層からも異なる景観を楽しめます。私のおすすめは上層を徒歩で渡ること。高所を歩くため少しスリリングですが、そこから眺めるポルト歴史地区のオレンジ色の屋根並びと、対岸ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアに並ぶポートワインの醸造所群の光景は、息をのむほど美しいです。
特に夕暮れ時、太陽がドウロ川の水面に沈む頃には、空と川、街が一体となり燃えるようなオレンジ色に染まる光景が広がります。その感動は言葉に尽くせないほどで、この絶景を目当てにポルトを訪れる価値が十分にあると私は心から感じています。
ポルトの夜を思い切り満喫する
ドン・ルイス1世橋のたもとに広がるのが、ユネスコの世界遺産にも登録されているリベイラ地区です。色とりどりの建物が密集し、川沿いにはレストランやカフェが軒を連ねています。昼間も賑わいを見せますが、真骨頂は夜にあります。ライトアップされたドン・ルイス1世橋を眺めながらのディナーは、一生の思い出になるでしょう。
- リベイラ地区での食事: 川沿いのレストランは景色が抜群なものの、観光客向けで価格が高めの場合もあります。一方、一本裏手の路地に入ると、地元の人々が通う手頃で美味しい「タスカ」と呼ばれる大衆食堂が見つかることも。冒険心を持って探索するのも旅の醍醐味のひとつです。
- ポートワインを堪能する: ポルトに訪れたら、ぜひポートワインを味わってください。橋の向こう側、ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア地区には、サンデマンやテイラー、グラハムなどの有名ブランドのロッジ(醸造所)が連なっています。多くのロッジでは見学ツアーやテイスティングが可能ですが、人気のツアーはすぐに満席になるため、各ワイナリーの公式ウェブサイトから事前に予約することを強くおすすめします。多様な種類のポートワインを飲み比べて、自分のお気に入りを見つけるのは大人ならではの楽しみですね。
- 安全面について: リベイラ地区は夜も多くの人で賑わいますが、人混みではスリに注意が必要です。また、食事やお酒を楽しんだ後は、暗い路地へはあまり足を踏み入れず、明るい大通りを通ってホテルに戻るよう心がけてください。
5. 魔法の世界への入り口 – レロ・イ・イルマオン書店(ポルト)

世界で最も美しい書店のひとつ
ポルトの街中に位置するこの書店は、単なる本屋ではありません。「世界で最も美しい書店」のひとつとされ、その扉をくぐるや否や、訪れる人はまるで魔法にかかったかのような感覚にとらわれます。
ネオ・ゴシック調の壮麗なファサードを抜けると、そこはまるで異世界のよう。中央には優雅な曲線を描く真紅の「天国への階段」がそびえ、天井を彩る巨大なステンドグラスや、壁一面に広がる木彫りの本棚が圧巻の光景を作り出しています。その全てがまるで芸術作品であり、訪れる者をハリー・ポッターの魔法の世界へと誘います。実際に、著者のJ.K.ローリングがかつてポルトに暮らしていた時期があり、この書店からインスピレーションを得たのではないかという噂も納得できる雰囲気です。(ただし近年、著者本人はこの説を否定していますが、多くのファンにとっては巡礼の地として人気があります。)
本を選ぶという本来の目的を忘れてしまうほど、その空間の美しさに心を奪われます。本好きでなくとも、建築やアートに興味がある人なら誰もが感動する、他に類を見ない特別な場所です。
入場から購入までのフルガイド
この書店は非常に人気が高いため、独自の入場ルールが設けられています。何の準備もせずに訪れると入店できないこともあるので、以下のポイントを必ずチェックしてください。
- 入場は有料チケット制: レロ・イ・イルマオン書店への入場には、まず有料の入場チケット(バウチャー)を購入する必要があります。チケットは書店近くのチケットオフィス、またはオンラインで手に入ります。混雑を避けるためにも、断然オンラインでの事前購入が推奨されます。
- チケット代は書籍代に充当可能: このチケット代金は単なる入場料ではなく、店内で本を購入する際、チケット代金分が割引として適用されます。つまり、一冊でも気に入った本を購入すれば、実質的に入場料は無料となるわけです。旅の思い出に、美しい装丁のポルトガル文学書などを手に取ってみるのもおすすめです。
- 混雑を避けるコツ: 開店直後や平日のお昼過ぎから夕方にかけては比較的空いている傾向があります。週末や観光シーズンのピークタイムには入場待ちの行列ができることもあるので注意してください。
- 注意すべきルールとマナー: 大きなリュックや荷物の持ち込みは禁止されており、近隣の有料ロッカーに預ける必要があります。軽装での訪問を心がけましょう。写真撮影は可能ですが、三脚の使用は禁止されています。また、ここは現役の書店です。他のお客さんが本を探している際には妨げにならないよう、配慮を忘れないでください。
6. 生と死を問う静謐の空間 – 骸骨礼拝堂(エヴォラ)
「我ら骨、ここで汝らを待つ」
リスボンの南東、広大なオリーブ畑とコルク樫の林に囲まれたアレンテージョ地方の中心都市エヴォラ。城壁に包まれたこの歴史ある古都には、世界でも類を見ない強烈な印象を放つ場所があります。それが、サン・フランシスコ教会に付属する「カペラ・ドス・オッソス」、つまり骸骨礼拝堂です。
礼拝堂の内部は壁や天井、柱に至るまで、約5000体とも言われる本物の人骨で埋め尽くされています。この空間は16世紀、墓地の不足に悩んだ修道士たちが、埋葬された遺骨を掘り起こし、「死は万人に訪れる普遍的な現象である」というメッセージを伝えるために作り上げたものです。
入り口には「Nós ossos que aqui estamos, pelos vossos esperamos(我らここにいる骨は、汝らの骨を待っている)」という言葉が刻まれていて、訪れる人々に生と死について深い問いかけを投げかけます。不気味で恐怖心を抱くかもしれませんが、それ以上に、この場所は静謐で哲学的な空気に満ちています。極限の環境を旅してきた私にとっても、これほど直截に「死」というものを意識させられる体験は他にありませんでした。命の有限性と、今を生きることの尊さを、静かにしかし力強く語りかけてくれる場です。
アレンテージョ地方への小旅行
エヴォラは骸骨礼拝堂だけでなく、街全体が「エヴォラ歴史地区」として世界遺産に登録されています。
- アクセス方法: リスボンのセテ・リオスバスターミナルから高速バスを利用するのが最も便利で、便数も多いです。所要時間はおよそ1時間半程度。鉄道も使えますが、便数が少なく駅も町の中心から少し離れています。
- エヴォラの見どころ: 街の象徴であるローマ神殿跡(ディアナ神殿)、壮麗なカテドラル(大聖堂)、古代ローマ時代から続く水道橋など、観光スポットが豊富です。白壁に黄色い縁取りが特徴的な家々が立ち並ぶ街並みの散策も格別でしょう。
- 訪問時の注意: 骸骨礼拝堂は非常に神聖な場所です。大声での会話やふざけた行為は厳禁です。内部は比較的狭いため、ほかの訪問者への配慮も欠かさないようにしてください。また、フラッシュ撮影は禁止されています。静かに、この場所に眠る魂たちと対話するような気持ちで訪れてほしい場所です。
7. 空に咲くカラフルな奇跡 – アンブレラ・スカイ・プロジェクト(アゲダ)

夏限定の芸術イベント
ポルトガル中部の小さな町、アゲダ。普段は穏やかなこの場所が、夏になると世界中の注目を集める魅惑のスポットへと姿を変えます。それが「アンブレラ・スカイ・プロジェクト」です。
この企画は、毎年夏に開催されるアートフェスティバル「AgitÁgueda」の一部で、街のショッピングストリートの頭上に数千本のカラフルな傘が広がるインスタレーションです。青空を背景に浮かぶ色彩豊かな傘たちは、まるで夢の世界に迷い込んだかのような幻想的な光景を作り出します。太陽の光が傘の布を通して地面にカラフルな影を落とし、歩くだけで自然と笑顔になれる場所です。
このプロジェクトは、単なる「写真映え」スポットとして始まったわけではありません。強い夏の日差しを和らげる日よけとして、また街の商店街を活性化させる目的で生まれた、クリエイティブな取り組みなのです。毎年、傘のデザインや色彩が変わるため、リピーターも多く訪れます。夜になるとライトアップされ、昼間とは異なる幻想的な雰囲気を味わうことができます。
美しい写真を撮るためのポイント
この華やかな光景を体験し、最高の思い出を残すためのポイントをお伝えします。
- 開催期間の確認は必須: このイベントは常時開催されているわけではなく、通常は7月上旬から9月下旬までの期間限定です。ただし、年ごとに開催期間が変わることもあるため、訪問を計画する際は必ずAgitÁgueda公式サイトやSNSで最新情報を事前にチェックしてください。確認しないと、何もない通りだけを目にすることになってしまいます。
- アクセス方法: アゲダへは、ポルトやアヴェイロから鉄道でアクセスするのが一般的です。ポルトからの日帰り旅行も十分に可能です。また、アヴェイロは「ポルトガルのヴェネツィア」と称される美しい運河の街なので、アヴェイロとアゲダをセットで訪れるプランもおすすめです。
- 撮影のポイント: 見事な写真を撮るなら、晴れた日の昼間が最適です。太陽光が傘を透かし色鮮やかな影が地面に映り出されます。カラフルな影と一緒に撮影するのも趣があります。スマートフォンでも十分綺麗に撮れますが、広角レンズがあると、傘の広がりや通りの奥行きをよりダイナミックに収められます。人が少ない写真を狙うなら、早朝の時間帯がおすすめです。
8. 海が創りし自然の聖堂 – ベナジル洞窟(アルガルヴェ地方)
天井から光が降り注ぐ神秘のビーチ
ポルトガル最南端、輝く太陽に包まれたアルガルヴェ地方。美しいビーチが連なるこの海岸沿いには、自然が創り出した奇跡の景観があります。それが、ベナジル洞窟です。
長い年月をかけた波の浸食により形作られたこの海食洞窟は、内部に小さな砂浜を抱え、その天井には「天の窓」と呼ばれる大きな穴が開いています。そこから差し込む太陽光が、ターコイズブルーの海面を照らし出し、洞窟全体を神秘的な輝きで満たす様子は、まるで自然が造り上げた大聖堂のよう。その圧倒的な美しさには言葉を失うほどです。
この光景を写真や映像で目にしたことがある人も多いでしょう。しかし、実際にその場に立つと、壮大なスケールと光の美しさに心を奪われます。波が打ち寄せる音だけが響く静かな空間で、自然の形づくる芸術を身体で味わう時間は、かけがえのない特別な体験となるはずです。
洞窟へのアクセス方法
この神秘的な洞窟には陸路でのアクセスができません。必ず海からの方法で向かう必要があり、いくつかの選択肢があります。
- 移動手段の比較:
- ボートツアー: 最も手軽で一般的な手段です。近隣のビーチ(プライア・デ・ベナジル、ポルティマン、アルブフェイラなど)から多くのツアーが出航しています。洞窟内部へ入ることはできますが、ほとんどのツアーでは安全面の理由から、洞窟内のビーチへの上陸は禁止されています。
- カヤックやSUP(スタンドアップパドルボード): 洞窟内のビーチに上陸を希望するなら、この方法が最適です。自分のペースで探検でき、ゆっくり滞在することも可能です。体力に自信がない方も、ガイド付きツアーを利用すれば安心でしょう。
- 自力で泳ぐ: 最寄りのプライア・デ・ベナジルから泳いで洞窟へ向かうことも技術的には可能ですが、潮の流れが速く、また多くの船が通るため、非常に危険であり、絶対に避けるべきです。
- ツアー予約と注意点: 特に夏のハイシーズンはツアーがすぐ満席になるため、オンラインでの事前予約を強くおすすめします。天候によっては催行中止となる場合もあるため、予約時に悪天候によるキャンセル時の返金規定や日程変更の可否を必ず確認してください。万が一ツアーが中止になった際は、陸上からでも絶景を楽しめる「プライア・ダ・マリーニャ」などの有名なビーチを訪れるプランを用意しておくと良いでしょう。
- 持ち物リスト: 海に出るため、防水対策は欠かせません。貴重品や電子機器を収納できる防水バッグやスマートフォン用防水ケースを必ず用意してください。日差しが強いため、日焼け止め、帽子、サングラスも忘れずに持参しましょう。船酔いが心配な方は、事前に酔い止め薬を服用するのが安心です。
9. 雲上の楽園を歩く – レヴァダ・ウォーク(マデイラ島)

「大西洋の真珠」が誇る灌漑水路
ポルトガル本土の南西約1000キロメートルに位置するマデイラ島は、「大西洋の真珠」と称される、亜熱帯の自然が豊かに広がる楽園です。この島の隅々まで網の目のように張り巡らされているのが「レヴァダ」と呼ばれる灌漑水路です。山間部に降った雨水を島全体に行き渡らせるために築かれたこの水路網は、その総延長が2000キロメートルを超え、現在では世界中のハイカーたちを惹きつける絶景トレイルとして評価されています。
レヴァダ・ウォークの魅力はその多彩さにあります。照葉樹の深い森を進むルート、断崖のすぐ脇を通るスリル満点の道、美しい滝や湖を巡るコースなど、初心者から上級者まで各自のレベルに合わせて楽しめるのが特徴です。
僕はこれまでアマゾンのジャングルを歩いた経験がありますが、マデイラの自然はまた別の感動をもたらしてくれました。霧に包まれた幻想的な森、足元に広がる雲海、そしてどこまでも続く緑のじゅうたんのような景観。まるで天空の楽園を散策しているかのような気分になれます。都会の喧騒から離れ、水のせせらぎと鳥のさえずりだけが響く環境で歩む時間は、まさに最高の心身のリフレッシュとなるでしょう。
安全にトレッキングを楽しむために
比較的気軽に楽しめるコースも多いレヴァダ・ウォークですが、相手は大自然であることを忘れてはなりません。充分な準備と慎重な心構えが欠かせません。
- 必須の準備
- 靴: 滑りにくく、足に馴染んだトレッキングシューズを必ず用意しましょう。道は濡れていたりぬかるんでいる箇所が頻繁にあります。
- 服装: 山の天候は急変しやすいため、晴れていても突然の雨や霧、気温の変化に対応できる重ね着ができる服装が必要です。また、防水・防風性のあるレインウェアも必須です。
- 持ち物: 十分な水分、行動食(チョコレートやナッツ等)、トンネルのあるコースに備えてヘッドランプ、スマートフォン用の予備バッテリー、簡単な応急処置セットをザックに入れておきましょう。
- ガイドの利用: 初心者や複雑な道が続く上級者向けのコースに挑戦する際は、現地ガイドが案内するツアーへの参加を強くおすすめします。安全面の確保はもちろん、マデイラの植物や歴史についても深い知識を得られる貴重な機会となります。
- 天候確認と慎重な計画: 出発前には必ず天気予報をチェックし、無理のない計画を立ててください。天候が悪化しそうなときは、勇気を持って引き返す判断も大切です。また、島内の観光案内所で各コースの最新情報(通行止めなど)を確認することも忘れずに行いましょう。
10. 大西洋に浮かぶ奇跡の絶景 – セテ・シダデス湖(アソーレス諸島)
青と緑の輝きを放つカルデラ湖
ポルトガル本土をさらに西へ進むと、大西洋の中央に位置する9つの島々から成るアソーレス諸島が現れます。ヨーロッパの最後の秘境とも称されるこの地では、火山活動により形成された壮大な自然がほぼ手つかずのまま残されています。
その中で最大の島、サン・ミゲル島に広がるのが、息をのむほど美しいセテ・シダデス湖です。巨大なカルデラ(火口)内部に隣接して二つの湖が広がり、その一方は青く澄み(ラゴア・アズール)、もう一方は緑色に輝いています(ラゴア・ヴェルデ)。伝説では引き裂かれた王女と羊飼いの涙の色とも言われますが、科学的には水深や水中の植物の反射による違いとされています。
この神秘的な光景を最も鮮やかに望めるのが、「ヴィスタ・ド・レイ(王の眺め)」という展望台です。ここから見下ろす二つの湖と、カルデラのアウトラインを彩る緑豊かな稜線との鮮やかな対比は、まさに絶景です。これまでに見てきた数多の景色のなかでも、間違いなく心に残る感動的な風景のひとつでした。
アソーレス諸島での冒険
アソーレス諸島はまだ日本人にはあまり馴染みが薄いかもしれませんが、冒険心旺盛な旅人にとっては理想的な旅先です。
- アクセスと移動手段: ポルトガル本土のリスボンやポルトから飛行機で約2時間半。サン・ミゲル島が主要な玄関口となっています。島内の公共交通機関は限られているため、自由に島を巡るにはレンタカーの利用が必須です。国際運転免許証の準備を忘れずに。
- 多様なアクティビティ: セテ・シダデス湖周辺では、湖畔のハイキングやカヌー・カヤックを楽しめます。サン・ミゲル島は火山活動の恩恵として天然温泉も点在し、旅の疲れを癒すのに最適です。さらに、ホエールウォッチングやドルフィンスイムも人気のアクティビティです。
- ベストシーズンと天候情報: ベストシーズンは気候が安定する夏(6月~9月)ですが、アソーレスは「一日に四季がある」と言われるほど天候が変わりやすい地域です。特にセテ・シダデス湖周辺では霧が発生しやすく、展望台に足を運んでも景色が見えないことも少なくありません。こまめに天気予報をチェックし、スケジュールには柔軟性を持たせることが、この地を楽しむポイントです。晴れ間を見つけたらすぐに行動できるよう、素早い決断力が求められます。
ポルトガルの旅を、忘れられない体験にするために

ここまでで10箇所の魅力的なスポットをご紹介してきましたが、最後に、あなたのポルトガル旅行をより充実させ、スムーズに楽しむためのポイントをいくつかお伝えします。
移動を快適にする交通パスの活用
リスボンやポルトといった主要都市を効率よく観光するには、交通パスが大変便利です。
- リスボンカード: 市内のメトロ、バス、トラム、ケーブルカーが乗り放題のほか、ジェロニモス修道院やベレンの塔などの多くの観光名所への入場が無料または割引になります。さらに、シントラやカスカイスへの電車も無料で利用できるため、活動範囲が広い方にとって非常にお得です。24時間、48時間、72時間の各種券があり、ご自身の滞在期間や訪れたい場所を考慮して、費用対効果を検討してみてください。
- ポルトカード: リスボンカードと同様に、市内の公共交通機関が乗り放題になり、多数の施設で割引が適用されます。空港からの移動を含むかどうかで価格が異なるため、旅行プランに合わせて選択しましょう。
ポルトガルの食文化を満喫しよう
ポルトガル旅行の楽しみは観光だけでなく、素朴で美味しい料理を味わうことも大きな醍醐味です。
- パステル・デ・ナタ(エッグタルト): 発祥の地ベレンはもちろん、街中のカフェやパステラリア(パン屋)でも美味しいナタが楽しめます。お店ごとに微妙に味わいが異なるため、自分だけのお気に入りを探しながら「ナタ巡り」をしてみるのもおすすめです。
- 市場(メルカド)を訪ねる: 地元の活気を感じたいなら、市場を訪れるのが最適です。リスボンのリベイラ市場(タイムアウトマーケット)のように、フードコートが併設されていて、有名店の味を手軽に堪能できる場所もあります。新鮮な魚介や果物、チーズなどを見ているだけでワクワクしますよ。
- タスカ(大衆食堂)を体験: 観光客向けのレストランも良いですが、地元の人々が日常的に通う「タスカ」の扉を叩いてみましょう。シンプルなメニューながら、家庭的で心のこもったポルトガル料理をリーズナブルな価格で味わえます。少し勇気がいるかもしれませんが、その経験こそが旅の醍醐味を一層深めてくれます。
安全とコミュニケーションのポイント
ポルトガルはヨーロッパの中でも比較的治安が良い国ですが、基本的な注意は怠らないようにしましょう。特にリスボンやポルトの観光地ではスリや置き引きが発生しているので、貴重品の管理は十分に行い、人混みでは特に警戒を怠らないようにしてください。
そして最後に、簡単なポルトガル語のフレーズを覚えていくことをおすすめします。
- Olá(オラ): こんにちは
- Bom dia / Boa tarde / Boa noite(ボン・ディーア / ボア・タルデ / ボア・ノイテ): おはよう / こんにちは / こんばんは
- Obrigado / Obrigada(オブリガード / オブリガーダ): ありがとう(男性が使う場合 / 女性が使う場合)
- Por favor(ポル・ファヴォール): お願いします / どうぞ
- Desculpe(デスクルプ): すみません
これらのシンプルな言葉でも、現地の人たちとの距離がぐっと縮まります。私自身もシャイな性格ですが、勇気を出して「オブリガード」と伝えた際に返ってきた笑顔は、今でも忘れられません。
ポルトガルの旅は、きっとあなたの心に深く刻まれる忘れがたい思い出になるはずです。このガイドが、素晴らしい冒険への第一歩となれば幸いです。では、準備は整いましたか?最高の旅へ出発しましょう!

