カリブ海に浮かぶ情熱の島、キューバ。どこからともなく流れてくる陽気なサルサのリズム、街角に佇む色鮮やかなクラシックカー、そしてスペイン植民地時代の面影を色濃く残す美しい街並み。多くの旅人が、その独特な雰囲気に魅了され、時が止まったかのようなノスタルジックな世界へと誘われます。しかし、キューバの魅力はそれだけではありません。この国の文化と歴史を深く理解するためには、その「食」を体験することが不可欠なのです。
キューバ料理は、先住民の食文化をベースに、支配者であったスペイン、労働力として連れてこられたアフリカの人々、そして近隣のカリブ諸国の影響が複雑に絡み合い、長い年月をかけて育まれた、まさに「クレオール(混血)料理」の真骨頂。シンプルな食材を使いながらも、スパイスと愛情で驚くほど滋味深い味わいを生み出します。
この記事では、そんな魅力あふれるキューバグルメの世界を、心ゆくまで味わい尽くすための完全ガイドをお届けします。定番の国民食から、旅行者必見の人気レストラン、ヘミングウェイが愛したカクテル、そして旅の準備や現地での注意点まで。これを読めば、あなたのキューバ旅行が、忘れられない「味の記憶」で彩られることをお約束します。さあ、一緒に美味なるキューバへの旅に出かけましょう。
この旅をさらにスムーズにするために、キューバへのアクセス方法やビザ取得ガイドもぜひご一読ください。
キューバ料理の「今」を知る – パラダールと国営レストラン

キューバで食事を楽しむ際にまず押さえておきたいのが、レストランの種類です。主に個人経営の「パラダール」と、政府が運営する「国営レストラン」の二つに大別され、それぞれ特徴や魅力が大きく異なります。この違いを理解することが、より充実したキューバでの食体験の第一歩となるでしょう。
革命が育んだ美食の舞台「パラダール」
キューバの食文化を考えるうえで欠かせない存在となったのが「パラダール(Paladar)」です。スペイン語で「口蓋」や「味覚」を意味し、1990年代に誕生した個人経営のレストランを指します。それ以前はすべて国営のレストランのみでしたが、ソ連崩壊後の経済危機「ペリオド・エスペシアル(特別な時代)」を乗り切るため、政府が限定的に個人事業を認めたことで、パラダールが芽生えました。
発足当初は自宅の一部を改装し、家族経営で席数も12席までと厳しい制約がありました。しかし規制が徐々に緩和されるに連れて、パラダールは飛躍的に発展。シェフたちは創意工夫を凝らし、伝統的なキューバ料理に新しい解釈を加えたり、多様な国際的調理法を取り入れたりして、キューバのガストロノミーシーンを牽引する存在となったのです。
パラダールの魅力は、なんといってもその多彩さと高いクオリティにあります。植民地時代の邸宅を美しく改装した高級店から、祖母の味を受け継ぐ家庭的な食堂、モダンアートが飾られたスタイリッシュな空間まで実にバラエティ豊か。オーナーの個性やこだわりが細部にまで反映され、一軒ごとに独自のストーリーを持っています。料理は国営レストランに比べて食材の質が良く、盛り付けも洗練されていることが多いのも特徴です。
実際にできること:パラダールの予約方法
ハバナの人気パラダールは世界中の旅行者で賑わい、特に夕食時は予約なしでの入店が非常に困難です。旅行を満喫するためにも、事前の予約は必須と考えましょう。
- 公式サイトからの予約: 「La Guarida」や「San Cristóbal Paladar」などの有名店は自らのウェブサイトに予約フォームを用意しています。希望日時、人数、名前、連絡先(メールアドレスや滞在先の電話番号)を入力して送信し、予約確定の確認メールを受け取ります。特に人気店は、旅行の数週間前、場合によっては1ヶ月以上前から予約しておくのが望ましいです。
- メールで予約: ウェブサイトに予約フォームがない場合でも、メールアドレスが記載されていることがあります。簡単な英語またはスペイン語で予約希望を伝えてみましょう。
- ホテルやカサ・パルティクラル(民泊)経由での予約: 最も確実かつ手間のかからない方法の一つです。ホテルのコンシェルジュやカサのオーナーに依頼すれば、電話で予約を取ってくれます。現地での言語面に不安がある方には特におすすめです。いくつかの候補店を用意しておくとスムーズです。
予約時にドレスコードの有無を確認しておくと安心です。高級店では短パンやサンダルが禁止されている場合があります。男性は襟付きシャツと長ズボン、女性はワンピースなどスマートカジュアルを意識しておくと、多くの店で問題ありません。
伝統的かつ安定の「国営レストラン」
一方、国営レストラン(Restaurante Estatal)は、その名の通り政府が経営する飲食店です。革命以前から続く老舗や人気観光地に多く存在し、良くも悪くも「昔ながらのキューバ」の雰囲気を味わえます。
国営レストランのメニューはロパ・ビエハやアロス・コン・ポヨなど、シンプルで基本的なキューバ料理が中心です。パラダールのような創作性や独自性はあまり期待できませんが、その分価格が比較的手頃なのが魅力です。ただし、物資不足の影響を受けやすく、メニューにあっても品切れになることがパラダール以上に多い場合があります。
国営レストランは、キューバの社会主義体制を体感できる貴重な場でもあります。サービスは画一的で、良く言えば素朴、悪く言えば少々無愛想に感じることもあるでしょう。しかし、昔ながらのキューバを思い浮かべながら伝統料理を味わいたい方には検討する価値があります。
レストラン選びに迷ったら、まず評判の良いパラダールをいくつかピックアップし予約を試みることをおすすめします。そのうえで、昼食や軽食に国営レストランを利用するなど、双方を体験すればキューバの食文化をより深く理解できるはずです。
これだけは押さえたい!キューバの定番グルメ10選
さあ、ついにキューバの食卓を彩る主役たちの登場です。多様な文化が融合したキューバ料理は、素朴ながらも奥深い味わいが魅力。ここでは、キューバを訪れた際にぜひ味わっていただきたい、代表的な料理を厳選してご紹介します。
ロパ・ビエハ (Ropa Vieja) – キューバの国民的逸品
キューバ料理の王道、あるいは魂とも言える一皿が「ロパ・ビエハ」です。名前はスペイン語で「古い服」を意味し、不思議に思われるかもしれませんが、これは牛のバラ肉などをじっくり時間をかけて煮込み、ほろほろにほぐした見た目がまるで使い古した布のように見えることからつけられました。
トマトやピーマン、玉ねぎ、ニンニク、クミンなどのスパイスとともに煮込まれた牛肉は驚くほど柔らかく、繊維の一本一本に旨みがぎゅっと詰まっています。口に含むと、優しい酸味とスパイスの香りが広がり、思わずご飯が欲しくなる、どこか懐かしさを感じる味わいです。通常は白いご飯と黒豆の煮込み(フリホーレス・ネグロス)、揚げバナナ(トストーネス)とともに提供され、まさにキューバの定食らしい雰囲気を醸し出します。ほとんどのレストランで味わえる国民食の代表格で、店ごとに微妙に異なる味付けを楽しみながら、お気に入りの一皿を探すのも旅の楽しみの一つです。
アロス・コン・ポヨ (Arroz con Pollo) – 心に染みる家庭の味
「アロス・コン・ポヨ」はスペイン語で「鶏肉入りご飯」を指し、スペイン語圏で広く愛されている料理です。キューバ版は、サフランやビジョル(アナトーの種子から得られる天然着色料)で鮮やかに色付けされたご飯に、骨付きの鶏肉がゴロリと入っているのが特徴です。鶏肉の出汁をたっぷり吸ったご飯はしっとりとして芳醇な味わい。ピーマンやグリーンピースが彩りを添え、視覚的にも食欲をそそります。
この料理は誕生日や祝い事など、人が集まる場でよく作られる、まさにキューバの家庭の味。レストランで食べれば、まるで母親の手料理のように心温まる優しい味に包まれることでしょう。大皿で提供されることも多く、数人でシェアしながら楽しむのにぴったりです。
コングリ (Congrí) / モロス・イ・クリスティアーノス (Moros y Cristianos) – キューバ食卓必須の豆ご飯
キューバの食卓にはほぼ欠かせない豆ご飯ですが、大きく分けて二種類があり、混同されやすいものの厳密には異なります。
「コングリ」は赤いインゲン豆(または黒いインゲン豆)と米を、ベーコンやニンニク、各種スパイスとともに炊き込んだ料理です。豆の煮汁で炊くため、ご飯全体が赤茶色に染まり、豆の風味と豚肉の旨みが一粒一粒にしみ込んでいます。
一方「モロス・イ・クリスティアーノス」(ムーア人とキリスト教徒という意味)は、黒インゲン豆(ムーア人)と白米(キリスト教徒)を別々に調理し、食べる時に混ぜ合わせるか並べて供するスタイル。レコンキスタ(国土回復運動)の歴史的背景に由来する名前で、コングリよりも豆とご飯それぞれの風味が際立つのが特徴です。
どちらもキューバ料理の定番であり、肉料理や魚料理の付け合わせとして素朴で味わい深い存在感を発揮します。
ピカディージョ (Picadillo) – ご飯が進む甘辛そぼろ
牛ひき肉をトマトソースとともに煮込んだ「ピカディージョ」も、キューバで親しまれる家庭料理です。特徴的なのはレーズンとオリーブが加えられている点で、ひき肉の旨みとトマトの酸味に、レーズンの甘さとオリーブの塩味が絶妙なアクセントとなり、複雑で深みのある味わいを生み出しています。
白いご飯の上にたっぷりかけて食べるのが定番で、トルティーヤに巻いてタコス風にしたり、エンパナーダ(揚げパン)の具としても使え、幅広いアレンジが可能な万能料理です。子どもから大人まで世代を問わず好まれる、親しみやすい一品といえるでしょう。
ユカ・コン・モホ (Yuca con Mojo) – 爽やかな名脇役
「ユカ」とは、タピオカの原料にもなっているキャッサバ芋のこと。これをやわらかく茹でて、「モホ」と呼ばれるソースをかけたものが「ユカ・コン・モホ」です。モホソースは、ニンニク、オリーブオイル、ライム(またはビターオレンジ)ジュース、塩などを混ぜ合わせた、酸味と香りが爽快なソースです。
ほくほくとしたユカに、刺激的なモホソースが絡むことで、絶好の箸休め(またはフォーク休め)となります。脂ののった豚肉のローストなどと合わせると相性抜群。主役ではありませんが、この一皿があることで食卓全体がぐっと引き締まる、キューバ料理には欠かせない名脇役です。
トストーネス (Tostones) – やみつき必至の揚げバナナ
キューバをはじめカリブ海地域で広く楽しまれているスナックが「トストーネス」です。これは料理用の青いバナナ「プランテン」を使ったもので、輪切りにしたプランテンを一度揚げてから平たく潰し、再度揚げる「二度揚げ」が特徴です。
外はカリッと、中はほくほくした食感で、フライドポテトに似ています。軽く塩を振ってそのまま食べたり、にんにく風味のソースにつけたりといった食べ方が一般的。ビールのおつまみとしても、料理の添え物としても頼れる存在で、一度食べ始めると手が止まらなくなる美味しさです。
サンドイッチ・クバーノ (Sándwich Cubano) – 本場の味を堪能
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』で世界的に知られるようになったキューバンサンドイッチですが、実はそのルーツはキューバ本国よりも、キューバ移民が多いアメリカ・フロリダ州にあるとされています。
キューバで「サンドイッチ・クバーノ」を注文すると、ローストポーク、ハム、チーズ、ピクルスをキューバパンで挟み、プレスして焼いたフロリダスタイルのものが出ることもありますが、一般的にはシンプルなハム&チーズサンドや豚肉サンド(Pan con Lechon)が主流です。街角の軽食スタンド「ベンターナ」などで手軽に味わえ、地元の人々に愛されています。映画のようなサンドイッチを期待すると少し違うかもしれませんが、キューバの日常に溶け込む本場の味を楽しむのもまた一興です。
フリホーレス・ネグロス (Frijoles Negros) – 栄養豊富な黒豆スープ
「フリホーレス・ネグロス」は、キューバの食生活を支える栄養豊富な黒豆スープです。玉ねぎ、ピーマン、ニンニク、クミンなどの香味野菜やスパイスとともに黒豆をとろりとするまで煮込み、濃厚でコクがありつつ豆本来の優しい甘みが感じられます。
このスープは、そのまま飲むというより、白いご飯にかけて食べるのがキューバ流。ご飯と混ぜることで見事な相性となり、肉がなくてもこれとご飯だけで立派な食事になるほど、キューバ人の心の味として親しまれています。
ランゴスタ (Langosta) – カリブ海の恵み
カリブ海に囲まれたキューバは、海の幸が豊富です。中でも観光客に人気なのが「ランゴスタ」、すなわち伊勢海老(ロブスター)です。かつては国営レストランのみで提供されていましたが、現在は多くのパラダール(個人経営のレストラン)で手軽に楽しめ、しかも日本と比べて驚くほど手頃な価格で味わえます。
調理法は多様ですが、特におすすめなのはシンプルなグリル(a la plancha)やニンニクとバターでソテーした(al ajillo)もので、素材の味を存分に堪能できます。また、トマトベースのピリ辛ソースで煮込んだ「エンチラーダ(Enchilada de Langosta)」も絶品です。ぷりぷりの身をかじれば、カリブ海の恵みを全身で感じることができるでしょう。
ランゴスタ注文時のポイント
ランゴスタはキューバ旅行の楽しみの一つですが、いくつか注意点があります。まず価格は時価(según mercado)で変動することが多いため、注文前に必ず確認しましょう。また、観光客向けの店では冷凍品を出す場合もあるので、可能なら注文前に実物を見せてもらうか、「¿Es fresca?(エス・フレスカ?/新鮮ですか?)」と尋ねると安心です。信頼できる評判のパラダールで注文するのが最も安全です。
フラン (Flan) – 濃厚でしっかり食感のキューバ風プリン
食事の締めくくりには、キューバの代表的デザート「フラン」をぜひ。日本のなめらかなプリンとは異なり、みっちりと詰まった濃厚でやや硬めの食感が特徴です。卵とコンデンスミルクをふんだんに使うため非常にリッチな甘さですが、ほろ苦いカラメルソースがその甘みを絶妙に引き締めます。多くのレストランのデザートメニューに必ずと言って良いほど並び、キューバの甘味文化を代表する逸品。食後にキューバンコーヒーとともに楽しめば、至福のひとときを味わえます。
ハバナを味わう!目的別おすすめレストランガイド

キューバグルメの魅力を理解したところで、次は実際にどこで食事を楽しむかを考えましょう。ここでは、首都ハバナにある数多くのレストランから、目的やシーンに応じて選べる名店を厳選してご紹介します。
予約が必須!ハバナ屈指のパラダール
特別な夜を演出したいなら、世界中のグルメたちが訪れる、ハバナを代表する最高級のパラダールへ。一生忘れられない食の体験があなたを待っています。ただし、これらの店は予約なしでは入店がほぼ不可能と言っても過言ではありません。
- La Guarida(ラ・グアリーダ)
ハバナで最も有名かつ予約が激しく取りにくいパラダールといえば、「ラ・グアリーダ」が間違いなく筆頭です。キューバ映画の名作『苺とチョコレート』の舞台となったアパートメント内にあり、ロケーションそのものがドラマチック。朽ちかけた建物の壮麗な大理石階段を上がると、まるで別世界が現れます。アンティーク家具やアートが並ぶ空間は、まるで映画のセットのようで、屋上のバーからのハバナの夕景は見惚れる美しさ。料理は伝統的なキューバ料理をモダンにアレンジした創作メニューが中心で、味わい、雰囲気、サービスのすべてが最高ランク。ハバナの夜を彩る特別な場所です。
予約方法の案内:La Guaridaの予約 La Guarida公式サイトではオンラインでの予約が可能です。ホームページの「RESERVATIONS」から希望日をカレンダーで選び、時間、人数、名前、メールアドレスなどを入力してください。非常に人気が高いので、旅行計画が決まったらできるだけ早く、理想は2~3か月前の予約をおすすめします。予約が取れたら、その日は少しフォーマルな装いで訪れましょう。ドレスコードはスマートカジュアルです。
- Doña Eutimia(ドーニャ・エウティミア)
ハバナ旧市街の中心、カテドラル広場近くの小道にあるパラダールで、伝統的なキューバ家庭料理を味わいたい方にぴったり。看板料理のロパ・ビエハは「ハバナで一番美味しい」と評される逸品で、濃厚かつ深い味わいが一度食べたら忘れられません。アットホームで活気あふれる雰囲気も魅力的で、常に多くの客で賑わう人気店。こちらも予約はマストです。テラス席からは広場の喧騒を感じながら食事が楽しめる特等席となっています。
絶景を楽しむ!屋上テラス席のあるレストラン
キューバの爽やかな風を感じながら絶景とともに食事したい方に、ハバナには屋上テラス席を備えた魅力的なレストランが多数あります。
- El Cocinero(エル・コシネーロ)
新市街ベダード地区に位置する、巨大なレンガの煙突が一目でわかるレストラン。かつての食用油工場をリノベーションしたユニークな空間で、特に屋上テラス席が大人気。モダンでスタイリッシュな雰囲気の中、タパススタイルの創作料理や美味しいカクテルを楽しめます。また隣接するアートスペース「Fábrica de Arte Cubano (FAC)」は夜になるとハバナの若者やアーティストが集まるトレンドスポット。食後にFACでアートや音楽に触れ合うことで、最先端のハバナカルチャーを満喫できる最高のプランとなります。
- La Moneda Cubana(ラ・モネダ・クバーナ)
ハバナ旧市街の港近くにあり、テラス席からはカバニャ要塞や湾の絶景を一望できます。観光の合間にも立ち寄りやすい立地が魅力。伝統的なキューバ料理やシーフードが中心で、のんびりとランチやディナーを楽しむのに最適です。夕暮れ時には、対岸の要塞で毎晩21時に行われる「大砲の儀式」を遠くに眺めながら、ロマンチックな時間を過ごせます。
ローカルな気分で!手頃で美味しいストリートフード&食堂
キューバの暮らしに触れたいなら、観光客向けのレストランだけでなく、地元の人々が利用する食堂や軽食スタンドにもぜひ足を運んでみましょう。
- ベンターナ(Ventana)
「窓」を意味するベンターナは、その名の通り、民家の窓からピザやサンドイッチ、ジュースなどを販売する小さな窓口スタイルの軽食スタンド。街のあちこちで見つけられ、小腹が空いた時にぴったりです。驚くほどリーズナブルな価格で、手作りの素朴な味を楽しめます。特にキューバ風ピザは、厚めの生地にシンプルな具材が乗っており、地元で大人気。言葉が通じなくても、指差しやジェスチャーで気軽に注文できます。
- 食堂(Comedor)
より本格的な食事を安価に済ませたい場合は、地元の人が通う「コメドール」と呼ばれる食堂を探してみてください。メニューは日替わりの定食(Plato del día)が数種類のみで選択肢は限られますが、ご飯、豆、肉料理、サラダなどがセットになっており、数百円程度で味わえます。まさにキューバ庶民の味で、観光客向けの店とは異なる、リアルな食文化に触れられる貴重な体験です。
ローカルフードを楽しむ際のポイント
地元の店で食事をするのは旅の醍醐味ですが、いくつかの注意点があります。まず支払いは基本的に現金、しかも現地通貨のキューバ・ペソ(CUP)のみなので、少額紙幣を用意しておきましょう。また衛生面が気になる方は、ウェットティッシュや手指消毒ジェルを持参すると安心です。水道水は飲用に適さないため、必ずボトル入りの飲み物を注文するか持ち込んでください。火がしっかり通った料理を選ぶことも、体調を守る上で大切なポイントです。
キューバの魂!ラム酒とカクテルを巡る旅
キューバの食文化を語る上で、ラム酒の存在は欠かせません。サトウキビを原料とするこの蒸留酒は、キューバの歴史や経済、そして人々の暮らしと深く結びついています。食事の席で、またはバーで一杯、キューバの精神を象徴するラム酒と、その魅力溢れるカクテルの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
ラム酒の代表格「ハバナ・クラブ」
キューバを象徴するラム酒ブランドといえば、誰もが知る「ハバナ・クラブ(Havana Club)」。1878年の創立以来、キューバ革命後に国有化され、現在では世界的に親しまれるラム酒の代名詞となっています。熟成年数によって多彩なラインナップが揃い、カクテルのベースに最適な3年熟成の「Añejo 3 Años」から、ストレートでじっくり楽しめる7年熟成の「Añejo 7 Años」、さらには長期熟成されたプレミアムラムまで、その表現の幅は実に豊かです。
ハバナ旧市街には「ハバナ・クラブ・ラム博物館(Museo del Ron Havana Club)」があり、ラム酒の製造過程や歴史について学べます。サトウキビの圧搾から蒸留、樽熟成、瓶詰めまでの一連の工程を、リアルな展示で見学でき、ツアーの最後にはテイスティングも楽しめます。お土産ショップも充実しており、ここでしか手に入らない限定ボトルに出会えるかもしれません。
実際にできること:博物館の見学
ラム博物館はガイド付きツアーでの見学が基本です。スペイン語と英語によるツアーが定期的に行われているので、入口でスケジュールを確認しチケットを購入しましょう。混雑することもあるため、余裕を持って訪れるのがおすすめです。詳細なツアースケジュールや料金は公式サイトで確認可能ですが、キューバのサイトはアクセスが不安定なこともあるため、現地で直接問い合わせるのが確実です。
ヘミングウェイが愛した伝説のカクテル
キューバとラム酒を語る際、文豪アーネスト・ヘミングウェイの影響は欠かせません。彼はハバナに20年以上暮らし、この街のバーで数々の名作構想を練ったと言われています。彼がこよなく愛した2つのカクテルと、その誕生の地となった伝説的なバーは、今なお世界中からの訪問者で賑わいを見せています。
- モヒート(Mojito)@ラ・ボデギータ・デル・メディオ
「我がモヒートはボデギータにて(My Mojito in La Bodeguita)」とヘミングウェイが壁に記したとされる「ラ・ボデギータ・デル・メディオ(La Bodeguita del Medio)」。カテドラル広場近くに佇むこの小さなバーは、モヒート発祥の地として非常に有名です。ミントの葉を潰し、ラム、ライムジュース、砂糖、ソーダ水を加えた爽やかなカクテルは、キューバの暑さにぴったり。店内は世界中からのサインや落書きに彩られ、陽気な生演奏が響き渡り常に活気に溢れています。カウンターで立ち飲みするのがこの店のスタイルで、伝説の地で本場のモヒートを味わう体験は特別です。
- ダイキリ(Daiquiri)@エル・フロリディータ
「我がダイキリはフロリディータにて(My Daiquiri in El Floridita)」。旧市街のメインストリート、オビスポ通りに面した「エル・フロリディータ(El Floridita)」は、フローズン・ダイキリ発祥の地として知られています。ラム、ライムジュース、砂糖、マラスキーノ(チェリーリキュール)をクラッシュドアイスとともにミキサーにかけた滑らかなカクテルは、ヘミングウェイが好んだ砂糖抜きでダブルラムの「パパ・ドブレ」でも有名です。店内は赤いベルベットで統一されたクラシカルでエレガントな雰囲気。カウンターの一角にはヘミングウェイの等身大ブロンズ像が置かれ、訪れる人々を温かく迎えています。
実際にできること:有名バーでの振る舞い方
これらのバーは非常に人気の観光スポットでもあるため、常に混雑しています。入店したらまず、席やカウンターの空きを探しましょう。バーテンダーは多忙ですが、目が合った際に手を挙げるなどして注文の意思を伝えます。支払いはカクテルと引き換えが原則です。チップは必須ではありませんが、良いサービスを受けた際にはお釣りの一部をカウンターに置くとスマートです。
カクテル以外のキューバの飲み物事情
- ビール(Cerveza): キューバにはいくつかの国産ビールがあります。特に人気なのが、すっきりとした飲み口の「クリスタル(Cristal)」と、ややコクのある味わいが特徴の「ブカネロ(Bucanero)」です。どちらもキューバの炎天下で飲むと格別の美味しさを感じられます。
- コーヒー(Café): キューバのコーヒーは深煎りの豆をエスプレッソで抽出し、カップ底に砂糖をたっぷり入れてから淹れるのが特徴。この「カフェ・クバーノ」は強い苦味と濃厚な甘みが絶妙に調和し、眠気覚ましにもぴったりの一杯です。
- ソフトドリンク: サトウキビの搾り汁「グァラポ(Guarapo)」は天然の優しい甘さが体に染み渡るキューバならではの飲み物。また、キューバ版コーラの「トゥコラ(TuKola)」も、一度味わってみる価値があります。
旅行者が知っておくべきキューバの食事情と注意点

キューバでのグルメ旅を心ゆくまで楽しむためには、この国特有の事情を理解し、あらかじめしっかりと準備をしておくことが大切です。ここでは、旅行者が遭遇しやすい現実的な問題点と、その対策について詳しくご紹介します。
H3: 通貨と支払いについて – CUPとクレジットカード
キューバの通貨事情は近年大きな変化を遂げました。以前存在していた外国人向けの兌換ペソ(CUC)は廃止され、現在はキューバ・ペソ(CUP)という現地通貨に統一されています。
- 基本は現金支払い: パラダールやレストランでの支払いは、原則として現金(CUP)のみ対応しています。わずかな高級ホテルや国営の土産物店ではクレジットカードが使えることもありますが、アメリカ系カード(American ExpressやDiners Clubなど)は利用不可です。また、通信環境の不安定さからカード決済ができない場合も頻繁にあります。旅行中は常に十分な現金を携帯することが必要です。
- 両替に関する準備: 日本円からCUPへの直接両替はほぼ不可能です。日本からはユーロ(EUR)かカナダドル(CAD)を現金で持参するのがおすすめです。米ドル(USD)も両替はできますが、両替時に手数料が上乗せされることが多く、他通貨より割高になるケースがあります。両替は空港、市内の両替所「カデカ(CADECA)」、またはホテルで可能ですが、為替レートは場所によって異なります。
- ATMはあまり頼れない: 街中にATMは存在しますが、台数が少なく現金切れや故障が頻発しています。加えて、外国発行のカードが使えないことも多いため、ATMでのキャッシングに過度に依存しないほうが賢明です。必要な現金は日本から持ち込むのが安全です。キューバの経済状況や政策は変動しやすいため、渡航前には外務省 海外安全ホームページなどで最新情報を確認することをお勧めします。
H3: 衛生管理と水について
キューバの衛生環境は他の発展途上国に比べると比較的良好ですが、日本と同じ感覚で過ごすと予期せぬ体調不良につながる可能性があります。
- 水道水は飲用不可: キューバの水道水は飲料として適していません。必ず密封されたペットボトルの水を購入して飲むようにしましょう。レストランでも、提供される水はボトル入りを頼むのが安心です。
- 氷にも注意が必要: 氷も水道水から作られている可能性があるため、敏感な方は注意が必要です。特にローカルな店では、注文の際に「氷なし(sin hielo / シン・イエロ)」と伝えるのが安全です。高級ホテルや外国人向けレストランでは通常、浄水した水で氷が作られているので過度に心配する必要はありません。
- 持ち物リストに加えるべきアイテム: 胃腸薬(整腸剤や下痢止めなど)は必ず持参してください。また、食事前や屋台での食事時に便利なウェットティッシュや手指消毒ジェルも携帯すると重宝します。
H3: チップの習慣とマナー
キューバではチップの習慣が根強く、多くのサービス業従事者にとって重要な収入源となっています。
- レストランでのチップ: 会計額の約10%が目安です。サービスが良かったと感じた場合は、通常より多めに渡すと喜ばれます。サービス料(servicio)がレシートに含まれることもありますが、その場合でも少額のチップをテーブルに置いておくのが一般的なマナーです。
- その他のチップ: ホテルのポーターやベッドメイキングをするスタッフ、タクシー運転手、トイレの管理人、ストリートミュージシャンなど、多くの場面でチップを求められます。常に少額のCUP紙幣を用意しておくとスムーズです。
H3: 食材不足とメニューの現状
キューバは慢性的な物資不足に直面していることを、旅行者は理解しておく必要があります。これは食事の場面にも深く影響しています。
- 「No hay(ノ・アイ)」という表現: レストランで料理を注文しようとすると、「今日はそれはありません(No hay / ノ・アイ)」と言われることが頻繁にあります。これは単なる店の怠慢ではなく、現地で食材が入手できていないという日常的な事情です。
- トラブル時の上手な対応法: これに対しがっかりしたり腹を立てたりするのは避けましょう。キューバの現実の一部として受け入れることが大切です。そんな時には、「では今日のおすすめは何ですか?(¿Qué recomienda hoy? / ケ・レコミエンダ・オイ?)」と尋ねてみてください。店員がその日のおすすめ料理を教えてくれるはずです。思わぬ美味しい発見があるかもしれません。この「No hay」を経験すること自体が、キューバという国をより深く理解する一つの旅の体験となるのです。
キューバ料理を日本で体験する
キューバ旅行の思い出に浸りたい時や、訪問前に現地の味を予習したい時には、日本国内でキューバの風を感じてみるのはいかがでしょうか。
H3: おうちでチャレンジ!簡単キューバ料理レシピ
キューバの味を自宅で楽しみたいなら、まずはカクテル作りから始めてみましょう。
- 手軽に作れるモヒート:
グラスにミントの葉を10枚ほど入れ、砂糖をティースプーン2杯加えます。ライムの半分を絞り、スプーンの背などで軽く押して香りを引き出します。その上にホワイトラム45mlを注ぎ、たっぷりのクラッシュアイスを加えます。最後にソーダ水を注ぎ、さっと混ぜれば完成です。ミントとライムの爽やかな香りが、まるでハバナの夜の空気を感じさせてくれることでしょう。
H3: 日本にあるキューバンレストラン
幸運なことに、日本国内には本格的なキューバ料理や音楽を楽しめるレストランやバーが複数あります。東京の下北沢、代官山、六本木といったエリアには、キューバの雰囲気を忠実に再現したお店があり、ロパ・ビエハやコングリ、そして美味しいモヒートが楽しめます。インターネットで「キューバ料理 東京」などと検索すれば、きっと近くに小さなキューバを見つけられるでしょう。ライブ演奏のあるお店を選べば、より一層現地の臨場感を味わえます。
キューバの食文化が旅を何倍も豊かにする

キューバの旅は、単なる観光地巡りに留まりません。五感を通じて歴史や文化を体感する、濃密なタイムトリップと言えるでしょう。そして、その旅の核となるのが「食」なのです。
パラダールの食卓で交わされるオーナー家族との心温まる会話。街角のベンターナで買ったピザをほおばりながら、クラシックカーの列を眺めるひととき。エル・フロリディータのカウンターで、ヘミングウェイの面影を感じつつ味わう一杯のダイキリ。これら一つひとつの味わいが、ハバナの美しい街並みや陽気な人々の笑顔とともに、あなたの心に深く鮮やかに刻まれることでしょう。
物資が豊かとは言えない環境の中でも、人々は知恵と工夫を凝らし、多くの愛情を込めて日々の食卓を彩っています。キューバ料理の根底に息づくのは、そうした彼らのたくましさと、人生を謳歌する明るい精神なのかもしれません。
この記事でご紹介した情報が、あなたのキューバ旅行をより深く、より美味しく、そして忘れがたい体験へと導く一助となれば幸いです。さあ、準備は万端。キューバの太陽のもとで、最高のグルメ体験があなたを待っています。Buon Provecho!(ボナペティ!)

