太陽が降り注ぐカリブ海に浮かぶ、時が止まったかのような島、キューバ。街を駆け抜けるクラシックカー、色鮮やかなコロニアル建築が並ぶ旧市街、そしてどこからともなく聞こえてくる陽気なサルサのリズム。ヘミングウェイが愛したモヒートの香り、革命の歴史を刻むゲバラの肖像、そして何よりも人々の温かい笑顔。キューバは、訪れる者の五感を揺さぶり、忘れられない記憶を心に刻み込む、唯一無二の魅力を持つ国です。
しかし、その独特の社会システムゆえに、キューバへの旅は他の国へ行くのとは少し勝手が違います。日本からの直行便はなく、入国には「ツーリストカード」という特別な許可証が必要。お金の事情やインターネット環境も特殊で、事前の情報収集と準備が旅の成否を大きく左右すると言っても過言ではありません。
この記事は、そんなキューバへの旅を夢見るあなたのための、完全ガイドです。複雑に思えるフライトルートの選び方から、ツーリストカードの確実な取得方法、入国審査の最新情報、そして現地で困らないためのお金や通信の知識まで。旅のプロが、あなたのキューバ旅行計画を具体的な「行動」へと変えるために、必要な情報を余すことなくお伝えします。さあ、この地図を眺めながら、心躍るカリブの島への旅の第一歩を踏み出しましょう。
旅の計画を具体化する上で、特に重要なキューバのツーリストカード取得方法については、こちらの詳細記事も合わせてご確認ください。
時が止まったカリブの楽園、キューバへの誘い

なぜ現在、多くの旅人がキューバに魅了されているのでしょうか。その理由は、キューバが持つ「時間の魔法」に他なりません。ハバナの旧市街を歩くと、まるで1950年代にタイムスリップしたかのような感覚に包まれます。手入れの行き届いたピンクやブルーのキャデラックが、スペイン植民地時代の壮麗な建造物の前をゆったりと走り抜けていきます。石畳の小道からは、カフェのざわめきと葉巻の香りが漂い、広場ではお年寄りがチェスを楽しみ、子どもたちの屈託のない笑い声が響いています。
世界がデジタル化の波で均質化していく中、キューバはその独特の文化や雰囲気を奇跡的に守り続けてきました。しかしながら、そのキューバも徐々に変化の時を迎えています。インターネットの普及が始まり、民間ビジネスが活気づき、新しい世代の価値観が芽生えつつあります。だからこそ、「昔ながらのキューバ」と「新しいキューバ」が交わるこの瞬間は、旅人にとって最も刺激的で貴重な体験が待っているタイミングと言えるでしょう。
このガイドは、そんな特別な旅を最高のものにするための航海図です。日本からキューバへ行く最適な方法や、旅行の必需品とも言えるツーリストカードの入手方法。また、旅行者が知っておくべき通貨のルールやインターネットの利用法、安全に旅をするための持ち物リストなど、キューバに到着するまでに必要な準備と、現地で賢く行動するための具体的かつ実践的な知識を詳しく解説します。読み終えた頃には、漠然としたキューバへの憧れが、しっかりとした旅の計画へと変わっていることでしょう。
日本からキューバへ!最適なフライトルートを探る
キューバ旅行を計画する際、最初で最大の課題となるのがフライトの確保です。残念ながら2024年現在、日本からキューバへの直行便は運航されていません。そのため、必ずどこかの国を経由して向かう必要があります。この「経由地の選定」が、旅の快適さやコスト、手間に大きく影響を及ぼす重要なポイントとなります。
直行便はなし!経由地の選択が旅のカギ
日本からキューバのハバナにあるホセ・マルティ国際空港(HAV)へ行く場合、主に以下の3つの経路が考えられます。
- メキシコ経由(カンクン、メキシコシティ)
- カナダ経由(トロント)
- ヨーロッパ経由(パリ、マドリード、アムステルダムなど)
それぞれのルートにはメリットとデメリットがあり、旅のスタイルや予算、時間に合わせて適切な選択をすることが求められます。ここで必ず覚えておきたい重要なルールがあります。それは「アメリカ経由は基本的に避けるべき」ということです。理由については後述しますが、まずは安全かつ確実な経路をご紹介します。
おすすめ経由ルートの詳細比較
メキシコ経由:最短かつリーズナブルな定番ルート
日本からキューバへの旅で最も一般的に利用されるのがメキシコ経由のルートです。特にカリブ海のリゾート地カンクンは、ハバナ行きの便が多く地理的にも近いため非常に便利です。
- メリット:
- 日本からのトータルの飛行時間が比較的短い。
- カンクンやメキシコシティからハバナへの便数が豊富で、LCC(格安航空会社)の選択肢もありコストを抑えやすい。
- メキシコ観光をセットにして、マヤ遺跡巡りや美しいビーチも満喫できる。
- デメリット:
- 乗り継ぎ時間がぎりぎりの場合がある。
- 航空会社によっては荷物を通しでチェックインできず、一度メキシコで入国してから荷物を受け取り再度チェックインが必要となることがある。
- 航空券の探し方:効率的な検索方法
航空券を探す際は、スカイスキャナーやGoogleフライトのような比較サイトを活用するのがおすすめです。検索の際は「東京(TYO)→ハバナ(HAV)」の単純往復だけでなく、「複数都市検索」を使うと良いでしょう。
- 区間1:東京(成田・羽田)→メキシコシティ(MEX)またはカンクン(CUN)
- 区間2:メキシコシティ(MEX)またはカンクン(CUN)→ハバナ(HAV)
- 区間3:ハバナ(HAV)→メキシコシティ(MEX)またはカンクン(CUN)
- 区間4:メキシコシティ(MEX)またはカンクン(CUN)→東京(成田・羽田)
このように区間別に検索することで、日本⇔メキシコ間とメキシコ⇔キューバ間を異なる航空会社で組み合わせられ、より安価で接続の良いフライトを見つけやすくなります。例えば、日本からアエロメヒコ航空でメキシコシティへ飛び、そこからクバーナ航空やビバ・アエロバスでハバナへ向かう方法があります。
カナダ経由:安全でスムーズな選択肢
アメリカの複雑な規制を避けて、乗り継ぎ時のストレスを軽減したい方には、カナダ経由がおすすめです。特にエア・カナダを利用すれば、トロントでの乗り継ぎもスムーズなことが多いです。
- メリット:
- アメリカの入国審査で必要なESTAが不要。乗り継ぎだけでもESTAが必要なアメリカとは異なり、カナダは手続きが簡単。
- エア・カナダを利用すると、東京~トロント~ハバナ間を一括予約でき、荷物も最終目的地まで預けられることが多い。
- 乗り継ぎ時間に余裕があり、安心感がある。
- デメリット:
- メキシコ経由に比べて便数が少なく、料金が高めとなる傾向がある。
- 冬季(11月~3月ごろ)はトロントの悪天候(大雪など)による遅延や欠航リスクがある。
- カナダ渡航に必要な「eTA」について
カナダでの乗り継ぎでも、電子渡航認証「eTA(Electronic Travel Authorization)」の事前申請が必須です。申請はオンラインで簡単にでき、費用も数カナダドル程度と安価です。必ずカナダ政府の公式サイトから申請し、代行業者を利用すると余計な手数料が発生する恐れがあるため注意が必要です。承認は多くの場合数分で完了しますが、出発の数週間前には余裕をもって申請しておきましょう。
ヨーロッパ経由:周遊旅行にも最適
時間に余裕があり、ヨーロッパの都市観光も楽しみたい方にはヨーロッパ経由が魅力的な選択肢です。パリ、マドリード、アムステルダム、イスタンブールなどの主要ハブ空港から、ハバナへの直行便が利用できます。
- メリット:
- エールフランス、KLMオランダ航空、イベリア航空など大手航空会社が多く選べる。
- ヨーロッパの都市でストップオーバー(途中降機)を設定し、一度の旅で複数国を楽しめる。
- デメリット:
- 総飛行時間が非常に長くなる。
- 航空券の価格が他の経路より高くなりがち。
【重要】アメリカ経由は基本的に避けるべき理由と例外
さて、最も注意が必要なのがアメリカ経由のルートです。地図上ではアメリカを経由するのが最短のように思えるかもしれませんが、このルートは原則として避けるべきです。
理由は、アメリカがキューバに対して長年続けている経済制裁にあります。アメリカ政府はキューバを「テロ支援国家」に再指定しており、アメリカの法律によりキューバ渡航歴のある外国人は、ビザ免除プログラム(VWP)を利用したESTAでのアメリカ入国資格を失う可能性があると定めています。
- 具体的には何が起きるのか?
もしESTAでアメリカに入国し、その後キューバに渡航すると、そのESTAが無効になることがあります。さらに将来的にESTAの申請が拒否され、アメリカへ渡航する際は必ず大使館で時間と費用のかかる観光ビザ(Bビザ)を取得しなければならなくなるリスクがあります。この制限は、キューバ旅行後も続く恐れがあるのです。
- 公式情報の確認を忘れずに
このルールは非常に厳格に適用される可能性があります。詳しくは在日米国大使館・領事館の公式サイトで必ず確認してください。軽率な判断が将来のアメリカ渡航に深刻な影響を及ぼすことを絶対に忘れてはいけません。
旅慣れた旅行者の中には「問題なかった」という事例もあるかもしれませんが、それは単に運が良かっただけとも言えます。ルールの変更や運用の厳格化はいつ起こっても不思議ではありません。あなたのパスポートにキューバの出入国スタンプが押された時点で、このリスクは現実のものとなります。安全かつ安心して旅を楽しむためにも、アメリカ経由は選択肢から除外することを強くおすすめします。
キューバ旅行の必須アイテム「ツーリストカード」完全ガイド

キューバ行きの航空券が確保できたら、次に最優先で取り組むべき課題は「ツーリストカード」の取得です。これがなければ、キューバに入国できません。
ツーリストカードとは?ビザとの違いについて
ツーリストカード(スペイン語では Tarjeta del Turista)は、観光目的でキューバに渡航する外国人に求められる滞在許可証の一種です。一般には「キューバビザ」と呼ばれることもありますが、パスポートに貼られる査証(ビザ)とは異なり、紙のカード形式で発行されます。
このカードは2枚つづりの紙でミシン目が入っており、入国審査時に半分が切り取られます。残った半券は出国時まで本人が保管しなくてはなりません。出国審査時にこの半券を提出するので、絶対に失くさないよう注意が必要です。有効期限は入国日から90日間で、現地でさらに90日間の延長が可能です。
ツーリストカードの取得方法
ツーリストカードの取得には主に3つの方法があります。それぞれ長所・短所があるため、ご自身の都合や予算に応じて選択しましょう。
在日キューバ共和国大使館で取得する
最も確実かつ公式な方法は、東京にあるキューバ大使館で申請することです。窓口で直接申請するか、郵送で手続きすることが可能です。
- 申請の流れ:大使館の場合
- 必要書類の準備
- ツーリストカード申請書: 大使館の公式サイトからダウンロードして記入。
- パスポートのコピー: 顔写真ページを見開きでコピー。有効残存期間が3ヶ月以上必要です。
- 証明写真(4.5cm×3.5cm): 1枚。申請書に貼り付けます。
- Eチケットまたは航空券予約確認書のコピー: キューバへの入出国便が明記されたもの。
- 海外旅行保険証券または付保証明書のコピー: 滞在期間中の死亡、傷害、疾病をカバーする保険である必要があります。
- 申請料金: 金額は変動するため、事前に大使館へ問い合わせるのがおすすめ。支払いは現金です。
- 大使館への申請方法
- 窓口申請: 必要書類と料金を持参し、領事部を訪問。受付時間は平日午前中に限られるケースが多いので、事前に確認しておきましょう。問題がなければ即日または数日内に発行されます。
- 郵送申請: 書類一式と申請料を現金書留で、大使館宛に送付。返送用にレターパックプラスも同封してください。郵送の場合は受け取りまで1〜2週間程度余裕を持つと安心です。
- 準備時のポイント
大使館のウェブサイト情報が古くなっている場合や、申請要件が急に変更されることもあります。申請前には必ず電話で最新の必要書類、料金、受付時間を確認しておくことが大切です。これが最も堅実な準備方法です。
旅行代理店を利用して取得する
時間がない、手続きが面倒という場合は、旅行代理店に取得を代行してもらうのが便利です。
- メリット:
- 書類作成や大使館への訪問・郵送手続きをすべて任せられる。
- 書類不備のリスクを減らせるので安心感がある。
- デメリット:
- 代理店手数料が数千円〜1万円程度上乗せされることが多い。
JTBやHISなどの大手旅行代理店や、キューバ旅行に特化した旅行会社で対応しています。航空券の手配時に同時に申し込むとスムーズです。
経由地の空港で取得する
メキシコやカナダ経由の場合、その空港でツーリストカードを購入できることがあります。急にキューバ行きを決めた人や、時間がない場合に便利な選択肢です。
- メリット:
- 日本で事前申請が不要。
- その場で即入手可能。
- デメリット:
- 航空会社によっては取り扱いがない場合があるため、確実ではない。
- 日本や大使館での購入に比べて価格が割高になることが多い。
- 購入に時間がかかる可能性がある(混雑時)。
- 英語またはスペイン語での対応が必要になる。
- 購入例(経由地)
- メキシコ・カンクン空港: チェックインカウンター付近や搭乗ゲート周辺にカード販売の専用デスクが設置されていることが多いです。航空会社スタッフに「Where can I buy a Cuban tourist card?」と聞くと案内してもらえます。支払いは米ドルかメキシコペソで行います。
- カナダ・トロント空港: エア・カナダ利用時は搭乗ゲートで販売されたり、機内配布されることもあります。チェックイン時にスタッフに必ず確認してください。
経由地で取得予定の方は、事前に利用航空会社の公式サイトかカスタマーサービスで最新情報を必ず確認しましょう。取得できなかった場合、キューバ行きの便に搭乗できなくなるリスクがあります。
ツーリストカード取得での注意事項
- 記入ミスは絶対NG!
ツーリストカードはボールペンで大文字のブロック体で記入します。最も重要なのは「一文字も間違えないこと」です。修正液や修正テープは使用不可で、ミスがあればカードを買い直す必要があり、非常に高額な無駄遣いになってしまいます。記入時はパスポートを手元に置き、一文字ずつ慎重に書き写してください。特に、氏名の綴り、パスポート番号、生年月日を丁寧に確認しましょう。
- 紛失防止の管理方法
受け取り後のカードはパスポートと同等に重要な書類です。パスポートの顔写真ページにクリップで留めるなどして、バラバラにならないよう保管してください。入国時に切り取られた半券は出国まで必ず保管してください。
- トラブル時の対応:紛失した場合
万が一キューバ滞在中にツーリストカードの半券を紛失すると、出国が極めて困難になります。直ちにハバナの移民局(Inmigración y Extranjería)へ行き、再発行手続きをしなければなりませんが、手間も時間もかかり、スペイン語での対応が必要です。場合によっては出国便に乗り遅れるリスクもあります。紛失は絶対に避けるという強い意識を持って管理してください。
入国審査と税関:スムーズに通過するための知識とルール
フライトとツーリストカードの準備が整い、いよいよキューバへの旅が始まります。ホセ・マルティ国際空港に到着すると、最後の関門となる入国審査と税関が控えています。ここをスムーズに通過するためには、事前に済ませておくべき手続きや知っておくべきルールがいくつかあります。
D’Viajeros(ディビアヘロス)の事前登録は必ず行うこと!
現在、キューバに入国するすべての旅行者(キューバ国民も含む)は、オンライン事前申告フォーム「D’Viajeros」への登録が義務となっています。このシステムは、税関、入国管理、保健衛生関連の情報を一括で申告するためのものです。
- 登録の手順:D’Viajerosへの事前登録
- 登録開始時期: 出発の72時間前から登録が可能です。あまり早く登録することはできないので注意しましょう。
- 公式サイトにアクセス: D’Viajeros公式サイトにアクセスしてください。対応言語はスペイン語、英語、フランス語などがあります。
- 必要情報を入力: パスポート情報、フライト詳細、滞在先(最初に宿泊するホテル名や住所)、税関申告、健康状態など、フォームの指示に従って正確に入力しましょう。
- QRコードの取得: すべての情報を入力し終えると、QRコードが発行されます。このQRコードはキューバ入国時に必須です。
- 保存の徹底: 発行されたQRコードの画面をスクリーンショットで保存し、スマートフォンに保存してください。PDFでダウンロードも可能です。空港のWi-Fiは不安定な場合が多いため、オフラインで提示できるように準備しておくことが非常に重要です。チェックインカウンターや入国審査時に提示を求められることがあります。
海外旅行保険への加入が義務付けられています
キューバでは、外国からの観光客に対し海外旅行保険への加入を義務付けています。入国審査時に保険加入の証明を求められることがあります。
- 必要書類の準備:英文付保証明書を用意する
保険会社へ連絡し、英文の付保証明書(Certificate of Insurance)を発行してもらいましょう。多くの保険会社は無料で発行してくれます。この証明書には、氏名、保険期間、補償内容が英語で記載されています。クレジットカード付帯の海外旅行保険を利用する場合も同様に、カード会社や保険会社に頼んで必ず英文の証明書を取得してください。 もし証明書を持参せず、入国審査官に要求された場合は、空港でキューバ国営の保険に強制加入させられる恐れがあります。余計な費用や手間を避けるためにも、必ず事前に準備しておきましょう。
持ち込み禁止・制限品について
キューバの税関では、他国同様に持ち込みが禁止・制限されている品目があります。問題を避けるため、荷造りの段階から以下の点に注意してください。
- 主な禁止品目
- ドローン: 個人所有のドローンの持ち込みは厳禁です。発見された場合は没収されます。
- GPS単体機器: スマートフォン内蔵のGPSは問題ありませんが、登山用などの単独GPSデバイスは持ち込み制限される場合があります。
- トランシーバーや衛星電話
- ポルノグラフィとみなされる出版物や映像資料
- 麻薬、銃器、爆発物
- 制限がかかるもの・注意点
- 生鮮食品: 肉製品や果物、野菜の持ち込みは厳重に制限されています。
- 医薬品: 個人使用の常備薬は問題ありませんが、大量持ち込みや特別な処方薬は、英語表記の医師の処方箋や診断書を用意しておくと安心です。
- 現金: 5,000米ドル相当額以上の外貨を持ち込む際は、税関への申告が必要です。
- 持ち出し禁止品
キューバを出国する際にも注意が必要な品目があります。
- サンゴや特定の貝殻類: 黒サンゴ製品やウミガメの甲羅(べっ甲)製品は持ち出し禁止です。
- 文化財や骨董品: 正式な許可なしに骨董品や芸術品を持ち出すことはできません。購入時は必ず公式の輸出許可証を取得してください。
- キューバ・ペソ(CUP): 基本的に国内通貨を国外に持ち出すことは禁止されています。
これらの規制は、キューバの自然環境や文化遺産の保護、そして国の安全確保を目的としています。知らずに違反してしまうと、トラブルになる場合もあるため、必ず事前に内容を確認し、ルールを守って楽しい旅をお楽しみください。
キューバのお金事情:二重通貨廃止後のリアルと両替ガイド

キューバ旅行で多くの旅行者が戸惑うのは、その独特な通貨事情です。かつては外国人向けの兌換ペソ(CUC)と国民向けの人民ペソ(CUP)という二重通貨制度が存在していましたが、2021年にこの制度は廃止されました。現在はCUPに一本化されているものの、旅行者が知っておくべき特有のルールがいくつかあります。
通貨はキューバ・ペソ(CUP)に統一
現時点でキューバの公式通貨はキューバ・ペソ(CUP)のみです。レストランでの食事代、タクシー料金、市場での買い物やお土産の購入など、現地での支払いはすべて基本的にこのCUPで行います。紙幣と硬貨があり、紙幣には革命の英雄たちの肖像が描かれているのが特徴です。
日本円からの両替は不可!準備すべき通貨は?
ここが最重要ポイントです。キューバでは日本円(JPY)の両替ができません。また、日本国内の空港でキューバ・ペソに両替することも不可能です。そのため、キューバへの渡航時には、外貨を現金で事前に用意して持参しなければなりません。
- おすすめ通貨:ユーロ(EUR)が最も有利
キューバで最も良いレートで換金できるのはユーロ(EUR)です。カナダドル(CAD)も比較的良好なレートで両替できます。 一方で米ドル(USD)の取り扱いには注意が必要です。両替自体は可能ですが、アメリカの経済制裁に対抗するため、両替時に約10%の特別な課税(手数料)がかかることがあります(このルールは頻繁に変更されるため、最新の情報を必ず確認してください)。そのため、日本から持参する現金はユーロが最も賢明な選択であり、旅行費用を計算した上でやや多めにユーロ現金を用意しておくと安心です。
どこで両替する?CADECA(両替所)の利用方法
キューバで外貨をCUPに交換できるのは、CADECA(カデカ)と呼ばれる国営の外国為替両替所です。空港や主要ホテル、市内中心部などに設置されています。
- 両替の流れと注意事項
- パスポートの提示が必須: 両替時にはパスポートの提示が求められます。
- 空港での両替: ハバナ空港到着後、まずは市内までのタクシー代や当座の資金として最低限必要な分を両替しておくのが良いでしょう。ただし、空港内のCADECAは非常に混雑し、長蛇の列が日常的にできています。1時間以上待つことも覚悟してください。
- 市内のCADECA: 市街地にも複数のCADECAがありますが、ここも混雑していることが多いです。ホテルのフロントで両替も可能ですが、レートはやや悪めになる傾向があります。
- 闇両替は絶対に避ける: 街中で「Change money?」と声をかけてくる非公式の闇両替業者は、見かけは良いレートに見えても偽札をつかまされたり、金額を誤魔化されたりするリスクが非常に高いため、利用は厳禁です。
- トラブル防止のポイント:その場で丁寧に確認を
両替後は必ず目の前で紙幣を一枚ずつ数えましょう。これは失礼ではなく、お互いのための重要な確認作業です。カウンターを離れてから不足を申し出ても対応してもらえない場合がほとんどです。
クレジットカードとデビットカードの利用状況
キューバではクレジットカードの利用範囲が非常に限られています。基本的には現金主義と考えてください。
- 使える場所: 一部の高級ホテル、国営の高級レストランや土産物店のみでの利用が主です。一般的な食堂(パラダール)や商店、タクシーでは使用できません。
- 対応カードブランド: VISAやMastercardは一部利用可能ですが、アメリカの金融機関が発行したカード(American Express、Diners Clubなど)や、アメリカ系提携銀行発行のVISA/Mastercardは利用不可の場合が多いです。日本で発行されたカードでも、提携先がアメリカの銀行であるケースは事前にカード会社に問い合わせ確認することをおすすめします。
- ATMの利用: ATMは主要都市に設置されていますが、故障や現金切れ、カードが使えないトラブルが頻発しているため、ATMキャッシングに頼った資金計画は非常にリスクが高いです。
- 結論:現金を多めに持参することが肝心
キューバ旅行ではクレジットカードは「非常時のバックアップ」と捉え、滞在に必要な資金の大部分をユーロ現金で持ち込むことを強く推奨します。
キューバのインターネット事情と通信手段の確保
デジタルデトックスの旅もキューバの魅力の一つですが、地図を確認したり次の目的地を調べたりするために、最低限のインターネット接続は確保したいところです。キューバのネット環境は世界的に見ても特殊であり、日本のようにいつでもどこでも快適に繋がるわけではありません。
Wi-Fiは「公園」で利用するのが基本
キューバでインターネットを利用する際、最も一般的なのは国営通信会社のETECSA(エテクサ)が提供している公共Wi-Fiスポットを利用することです。これらのスポットは主に都市の公園や広場に設置されています。もし公園などで多くの人がスマートフォンを操作している様子を見かけたら、そこがWi-Fiスポットのサインです。
- 利用の流れ:NAUTAカードの購入と使い方
- ETECSAの窓口を探す: Wi-Fi接続には、プリペイドカードの「NAUTA(ナウタ)カード」を購入する必要があります。こちらはETECSAの営業所で販売されており、青い看板が目印。ただし、購入には長い列になることも多く、パスポートの提示が求められます。
- カードの種類: 使用時間別に1時間、5時間など様々なタイプがあります。料金は変動しますが、1時間あたり約1ドル相当が目安です。
- カード情報の確認: カード裏面には銀色のスクラッチ部分があり、削るとログインID(Usuario)とパスワード(Contraseña)が表示されます。
- Wi-Fiスポットで接続: 公園などのWi-Fiエリアに行き、スマートフォンのWi-Fi設定画面で「WIFI_ETECSA」というネットワークを選択。接続すると自動的にログイン画面が開きます。
- ログイン: カードのIDとパスワードを入力し接続。接続成功後は利用時間のカウントダウンが始まります。
- ログアウトを忘れずに: 利用後は必ずブラウザで「1.1.1.1」にアクセスし、ログアウト画面を表示。その後「Cerrar Sesión(セッションを閉じる)」をタップしてください。ログアウトを怠ると、離れた後も時間が消費され続けてしまいます。
ホテルやカサ・パルティクラルのWi-Fi状況
最近では、多くのホテルやカサ・パルティクラル(民泊)で独自のWi-Fiサービスを導入していますが、これもETECSAの回線を利用しているため、利用にNAUTAカードが必要な場合や、ホテル独自の高額な料金設定となっていることがあります。速度も遅く安定しないケースが多いため、チェックイン時にWi-Fiの利用方法と料金を必ず確認することをおすすめします。
SIMカードの入手は可能か?
旅行者向けのSIMカードも登場し、以前よりキューバでの通信手段が確保しやすくなりました。
- 利用方法:旅行者向けSIM「Cubacel Tur SIM」
空港内のETECSAカウンターや市内のオフィスで、旅行者向けSIMカードを購入可能です。プランはデータ容量と有効期間が設定されており、公園に足を運ばなくてもネット接続ができるため非常に便利です。ただし、在庫切れや購入に時間を要することもあります。 また、事前にオンラインで注文し、ハバナの空港で受け取るサービスもあるため、渡航前に調べておくのも良いでしょう。
- 渡航前の準備:オフライン環境の整備
キューバの通信環境は依然として不安定です。ネットが繋がらない状況を想定し、渡航前にオフラインで使える地図アプリ(Maps.meやGoogle Mapsのオフライン機能)や、翻訳アプリ(オフライン辞書を事前にダウンロード)をスマートフォンに入れておくことが、快適な旅を過ごすうえで非常に重要です。
安全に旅するための服装と持ち物リスト

キューバは比較的治安の良い国とされていますが、異国の地であるという事実は変わりません。快適で安全な旅を実現するために、現地の気候に合った服装と、キューバ独自の事情を踏まえた持ち物リストを用意しておきましょう。
キューバの気候と適した服装
キューバは一年を通じて温暖な亜熱帯気候で、主に乾季と雨季の二つに分かれます。
- 乾季(11月~4月): 過ごしやすく、旅行に最適な時期です。日中は日差しが強い一方で、朝晩には肌寒さを感じることもあるため、Tシャツやワンピースの夏服に加え、薄手の長袖シャツやカーディガン、パーカーを一枚持って行くと重宝します。
- 雨季(5月~10月): 湿度と気温が高くなります。特に午後はスコールのような激しい雨が降ることが多いため、折りたたみ傘や撥水加工されたウインドブレーカーがあると便利です。また、ハリケーンシーズンでもあるため、天気予報には十分注意してください。
- 服装のルールとマナー
キューバの服装は基本的にカジュアルで自由ですが、高級レストランやクラシックバレエ、キャバレー「トロピカーナ」などではスマートカジュアルが求められることがあります。男性は襟付きシャツと長ズボン、女性はワンピースなどを用意すると安心です。タンクトップや短パン、ビーチサンダルでは入店を断られる場合もあります。また、教会訪問時には肩や膝を隠す服装がマナーとなっています。 ハバナの旧市街は石畳が多く、舗装の劣る場所も多いため、ヒールのある靴は避け、歩きやすいスニーカーやサンダルを履くことをおすすめします。
必ず持参したい持ち物リスト
キューバは物資不足が起こりやすい国です。現地で何でも手に入るという考えは通用しにくく、日本で簡単に購入できるものも現地では入手が難しい場合があります。基本的に身の回りの必需品はすべて日本から持参する心構えが重要です。
- 必需品リスト
- パスポートと各種書類:
- パスポート(残存期間3ヶ月以上)
- ツーリストカード
- 航空券(Eチケット)控え
- 海外旅行保険の英文証明書
- D’Viajeros登録後のQRコード(スクリーンショット保存)
- パスポートやカード類のコピー、予備の証明写真(紛失時に備えて)
- 現金:
- ユーロ現金(滞在費と予備資金として十分な額)
- 衛生用品:
- トイレットペーパー・ポケットティッシュ: 公共トイレや飲食店には設置されていないことが多いため、携帯必須です。
- ウェットティッシュ・除菌ジェル: 手洗い場が少ないため、特に食事前に役立ちます。
- 常備薬: 胃腸薬、頭痛薬、酔い止めなど、普段飲み慣れた薬を持参してください。
- 虫除けスプレー・かゆみ止め: 蚊が多い地域なので必須アイテムです。
- 日焼け止め・サングラス・帽子: カリブの強い日差しから身を守るために必要です。
- 生理用品: 現地では質の良いものが手に入りにくいため、女性は必ず持っていきましょう。
- 電子機器関連:
- モバイルバッテリー: 停電が起きやすいため、大容量のものを用意すると安心です。
- 変換プラグ: 日本と同じAタイプが主流ですが、稀にCタイプもあるため、マルチタイプのものがあると便利です。
- カメラやスマートフォンの充電器
あると便利な持ち物
- お土産や謝礼品: 滞在先の家の方や親切にしてくれた現地の人に渡せる日本のお菓子や文房具(特にボールペンが喜ばれます)は、交流のきっかけになります。
- 洗濯用品: 長期滞在の場合、小分けの洗剤や洗濯ロープ、洗濯ばさみがあると役立ちます。
- エコバッグ: 現地でレジ袋が用意されないことが多いため、買い物時に便利です。
- 懐中電灯(ヘッドライト): 停電時や街灯の少ない夜間の移動時に安全確保ができます。
- 基礎的なスペイン語の会話帳: 現地では英語が通じにくい場面も多いため、「こんにちは(Hola)」「ありがとう(Gracias)」などの簡単なフレーズを覚えていくと、旅の楽しさが格段にアップします。
キューバ旅行を計画するあなたへ贈る最後のメッセージ
ここまで読み進めたあなたは、キューバ旅行の具体的なイメージが掴め、旅の計画を始める準備ができたことでしょう。フライトの検索方法、ツーリストカードの申請、現地でのお金の使い方など、一つひとつの手順は、他の国に比べてやや手間がかかる場合もあります。
キューバの旅は、スムーズに進むパッケージツアーとは異なり、すべてが順調に運ぶとは限りません。インターネットは不安定で、バスは定刻に来ないこともあります。欲しい商品が手に入らなかったり、突然停電に見舞われることも珍しくありません。
しかし、その不便さや予想外の出来事こそが、キューバの奥深い魅力の一端です。計画通りにいかない状況に落ち込むのではなく、そのトラブルを笑い飛ばし、目の前の出来事を楽しむ余裕を持つことが、キューバ旅行を心から満喫するための最大のコツと言えるでしょう。
クラシックカーのエンジン音、葉巻の煙がゆったり漂う昼下がり、魂を揺さぶるソン・クバーノのメロディ、そしてどんな困難にも負けず明るさを失わない地元の人々の笑顔。キューバには、効率や便利さと引き換えに私たちがどこかに置き忘れてきた、人間らしい温かさと豊かな時間が流れています。
変わりゆくキューバで、今この瞬間にしか出会えない風景があなたを待っています。ぜひこのガイドを手に取り、あなただけの特別な物語を見つけに旅に出てください。この旅が人生の忘れられない一ページとなることを心より願っています。最新情報はキューバ観光省公式サイトなども併せてご確認のうえ、万全の準備でお出かけください。どうぞ良い旅を!¡Buen viaje!

