どこか懐かしくて、それでいて新しい。大航海時代の栄光を今に伝える石畳の街並み、郷愁を誘うファドの音色、そして太陽の恵みを一身に受けた豊かな食文化。ユーラシア大陸最西端の国、ポルトガルは、旅人の心を掴んで離さない魅力に満ち溢れています。
こんにちは、旅のプロライター、万里です。これまで世界中の鉄道に揺られ、数々の街角を歩いてきましたが、ポルトガルの持つ独特の空気感には、いつも特別な思いを抱かされます。あの、少しだけ物憂げで、けれど温かい人々の笑顔。リスボンの坂道をガタゴトと登る黄色いトラム、ポルトのドウロ川に架かるドン・ルイス1世橋の荘厳な姿。思い出すたびに、またあの場所へ帰りたくなるのです。
さて、そんな魅力的なポルトガルへの旅を計画するとき、多くの人が最初に悩むのが「いつ行くのが一番良いのか?」という問題でしょう。旅の満足度は、訪れる時期によって大きく左右されます。燦々と輝く太陽の下でビーチリゾートを満喫したいのか、過ごしやすい気候の中で世界遺産をじっくり巡りたいのか、それとも熱狂的な祭りに身を投じてみたいのか。あなたの「やりたいこと」によって、ベストシーズンはまったく違ってくるのです。
この記事では、単に「春と秋がおすすめです」というようなありきたりな答えで終わらせるつもりはありません。ポルトガルの地域ごとの気候を徹底的に解剖し、季節ごとに咲き誇るイベントの数々をカレンダー形式でご紹介。さらに、旅の目的別に最適なシーズンを提案し、それぞれの時期に合わせた服装や持ち物、予約のタイミングといった実践的な情報まで、私の知識と経験を総動員してお届けします。
この記事を読み終える頃には、あなたにとっての「ポルトガルのベストシーズン」が、きっと見つかっているはず。さあ、一緒に最高の旅を計画する冒険に出かけましょう。
ポルトガルの気候を徹底解説!地域ごとの違いと季節の特徴

ポルトガル一国といっても、その広い国土は南北に長く、地域ごとに気候が大きく異なります。そこで、旅の計画の基本となる気候について、北部・中部・南部・離島の4つのエリアに分けて詳しく解説します。服装選びのポイントもたっぷりご紹介しますので、参考にしてください。
北部(ポルト、ブラガ、ドウロ渓谷など)の気候
大西洋に面するポルトガル北部は海洋性気候の影響を強く受け、一年を通して湿度が比較的高いのが特徴です。特に冬は雨が多くなります。
- 春(4月~6月): 気温は徐々に上がりますが、朝晩はまだ肌寒さが残る時期です。平均気温は15℃前後から20℃くらいまで上昇します。天候が変わりやすく、晴れていても急に雨が降ることがあるため、薄手のジャケットやカーディガンに加え、折りたたみ傘を持ち歩くのがおすすめです。
- 夏(7月~8月): ポルトガルの他地域と比べると、北部の夏は非常に過ごしやすい気候です。最高気温が30℃を超えることは稀で、平均はおよそ25℃前後。日差しは強いものの、乾燥していて日陰に入ると心地よい風が吹きます。リスボンや南部の猛暑とは異なり、快適に観光できる季節です。ただし、内陸部のドウロ渓谷では気温が40℃近くまで上がることがあるため注意が必要です。
- 秋(9月~10月): 9月は夏の名残が感じられますが、10月に入ると一気に秋が深まります。雨の日が増え、気温も低下します。ドウロ渓谷のブドウ畑が黄金色に染まる美しい季節である一方、服装は春同様に重ね着が基本。防水性のあるアウターを持っていると安心です。
- 冬(11月~3月): 北部はポルトガルで最も雨が多い地域で、冬は特に湿った日々が続きます。気温は10℃前後まで下がり、場合によっては5℃近くになることもあります。雪はほとんど降りませんが、曇り空が続き冷たい雨が降る日が多いため、防水・防寒に優れた暖かいコートやマフラー、手袋は必携です。足元は濡れた石畳に対応できる防水で滑りにくい靴が望ましいでしょう。
中部(リスボン、コインブラ、オビドスなど)の気候
首都リスボンを含む中部は温暖な地中海性気候に属し、年間を通して過ごしやすい点が魅力です。観光の中心地としても非常に人気のエリアです。
- 春(4月~6月): まさにベストシーズンといえる時期で、平均気温は18℃から23℃程度。晴天の日が多くなり、街中には花が咲き誇り散策に最適です。日中は半袖でも過ごせますが、朝晩や日陰では肌寒さを感じることもあるため、軽い羽織ものを持参しましょう。特に5月は気候が安定し観光にぴったりです。
- 夏(7月~8月): 本格的な暑さが訪れ、最高気温は30℃を超え、場合によっては35℃以上になることもあります。強い日差しと石畳からの照り返しで体感温度はさらに高くなるため、帽子やサングラス、日焼け止めは欠かせません。こまめな水分補給で熱中症対策を徹底しましょう。湿度が低いため日陰は比較的涼しく感じられ、夜は薄手の長袖が役立ちます。
- 秋(9月~10月): 夏の猛暑が和らぎ、再び快適な季節となります。9月は夏服で十分ですが、10月になると朝晩にひんやりする日もあります。降水量は徐々に増えますが観光に支障はなく、春と並んで過ごしやすいベストシーズンの一つです。
- 冬(11月~3月): 北部ほどではありませんが雨が多い時期にあたります。平均気温は12℃前後で比較的温暖ですが、石造りの建物が多く暖房が十分でないこともあり室内は冷えることもあります。フリースや暖かい靴下を用意すれば快適に過ごせるでしょう。晴れ間がのぞくことも多く、人混みを避けてゆっくりと美術館などを巡るのに適した時期です。
南部(アルガルヴェ地方、エヴォラなど)の気候
「太陽の海岸」と称される南部アルガルヴェ地方は、ヨーロッパ各地からリゾート客が訪れる人気のリゾートエリア。典型的な地中海性気候で、年間を通じて晴天の日が多く温暖なのが大きな特徴です。
- 春(4月~6月): 海水浴にはまだ少し早いものの、気候は非常に快適です。アーモンドの花が咲き誇り、穏やかな陽気の中ハイキングやゴルフを楽しむのに最適。気温は20℃から25℃ほどで過ごしやすい季節です。
- 夏(7月~8月): ビーチリゾートのピークシーズンで、連日30℃以上の暑さが続きます。ただし海風が涼しく感じさせ、直射日光を避けることで快適に過ごせます。海水温も上昇し水遊びにぴったり。ヨーロッパ各地から多くの観光客が押し寄せ、ビーチや街は非常ににぎわいます。
- 秋(9月~10月): 9月いっぱいまではまだ海水浴が楽しめる暖かさが続きます。10月に入ると徐々に涼しくなるものの日中は依然として過ごしやすくなります。夏の喧騒が嘘のように静けさが戻り、ゆったりと過ごしたい人には理想的な季節です。
- 冬(11月~3月): オフシーズンですが、ヨーロッパ他地域に比べて非常に温暖です。平均気温は15℃前後で、晴れた日の日中はコートなしでも過ごせるほど。雨は降りますが一日中降り続くことは少なく、多くの北欧からの旅行者がゴルフなどのアクティビティを楽しみに長期滞在します。
マデイラ島・アゾレス諸島の気候
大西洋上に浮かぶこれらの島々は本土とは異なる亜熱帯性気候に属し、「常春の楽園」として知られています。
- マデイラ島: 年間を通じて気温の変動が少なく、冬でも平均16℃、夏でも22℃程度の温暖な気候です。いつ訪れても快適な気候のもと、ハイキングや美しい庭園の散策を楽しめます。
- アゾレス諸島: 「大西洋のハワイ」とも称される一方、天候は非常に変わりやすいのが特徴です。一日のうちに晴れ→霧雨といった変化が起こりやすく、まるで四季が同時に訪れるかのよう。年間を通じて温暖ですが、訪問には気候が比較的安定する夏(6月~9月)が最適です。
このように、ポルトガルの気候は地域ごとに大きく異なります。目的地に合わせて最適な時期と服装を選ぶことが、快適な旅を過ごすための重要なポイントです。
目的別!あなたにぴったりのベストシーズンはこれだ
気候の概要が把握できたところで、次にあなたの「旅の目的」から最適なシーズンを見つけていきましょう。何を一番楽しみたいかによって、訪れるべき季節は異なってきます。
観光中心なら春(4月~6月)と秋(9月~10月)
もしリスボンやポルトの歴史ある街並みを散策し、世界遺産の修道院や宮殿をじっくり巡りたいなら、春か秋を強くおすすめします。
- 快適な気候: この時期は「暑すぎず寒すぎず」、観光にぴったりな気候が続きます。厳しい夏の強烈な日差しや冬の冷たい雨に悩まされることなく、快適に街歩きを堪能できます。特に坂道の多いリスボンでは、その過ごしやすさを実感できるでしょう。
- 適度な混雑度: 7月~8月の繁忙期に比べて観光客は少なめです。もちろん人気のスポットは多少混雑しますが、夏のピーク時のような過密状態は避けられます。ゆったりと自分のペースで名所を回りたい方には最適です。
- 美しい風景: 春はジャカランダの紫色の花がリスボンの街を鮮やかに彩り、公園や庭園には多彩な花々が咲き誇ります。一方、秋はドウロ渓谷のブドウ畑が黄金色に染まり、収穫祭の活気にあふれます。いずれの季節も、ポルトガルの最も美しい表情が見られる時期といえます。
【旅の計画:段取り】
この時期は世界中から観光客が集まる人気シーズンです。特にイースター(復活祭)の期間や6月の祝祭シーズンは混雑が激しくなります。航空券や人気ホテルは少なくとも旅行の3~4ヶ月前に予約を済ませることを強く推奨します。直前になると選択肢が限られるだけでなく、価格も高騰しやすいです。比較サイトで料金相場を確認しつつ、早めの行動が賢明です。
ビーチリゾートを満喫するなら夏(7月~8月)
ポルトガルの夏といえば、南部アルガルヴェ地方の美しいビーチが思い浮かびます。紺碧の空と海、切り立った崖に囲まれた黄金色の砂浜。完璧なリゾート気分を味わいたいなら、夏の訪問が最良の選択です。
- 最適な海水浴シーズン: 気温・水温が上がり、海水浴やマリンスポーツを存分に楽しむことができます。日照時間も長く、夜9時頃まで明るいので、一日を有効活用できます。ビーチでゆったり過ごし、夕暮れ後に街に繰り出して食事を楽しむといった贅沢な過ごし方が可能です。
- 活気ある雰囲気: ヨーロッパ各地からのバカンス客でリゾート地は最大の賑わいを見せます。ビーチ沿いのレストランやバーは深夜までにぎわい、祭りのような華やかさを体感できます。
- 多彩なイベント: 夏は各地で音楽フェスティバルや野外イベントが開催されます。旅の目的としてこうした催しに参加するのもおすすめです。
【旅の準備:持ち物と注意点】
夏の旅で必須なのは、しっかりとした日差し対策です。
- 持ち物例:
- SPF50+以上かつ汗や水に強い日焼け止め
- つばの広い帽子
- UVカット機能付きサングラス
- ラッシュガードや薄手のパーカー(日差し避けや冷房対策に)
- ビーチサンダルと歩きやすいサンダル
- 水着
特に日差しが最も強い12時~16時頃は無理に外での活動をせず、シエスタ(昼休憩)を取り入れて体調管理を心がけましょう。人気のビーチリゾート周辺のホテルやレストランは予約が取りにくいため、半年前から計画を始めるくらいの気持ちがベストです。
コストを抑えてゆったり旅を楽しむなら冬(11月~3月)
「混雑を避けたい」「旅費をできるだけ抑えたい」という人には、冬のポルトガルが最適です。オフシーズンとされる一方で、冬ならではの魅力がたくさんあります。
- 抜群のコストパフォーマンス: 航空券やホテル代が夏に比べて大幅に安価になります。同じ予算でグレードの高いホテルに泊まったり、滞在日数を延ばすことも可能です。
- 落ち着いた観光地: 夏は長蛇の列ができる世界遺産「ジェロニモス修道院」や「ベレンの塔」も、冬なら比較的スムーズに訪問できます。静かな回廊を独り占めするという贅沢な体験も夢ではありません。
- 冬ならではの楽しみ:
- クリスマスマーケット: 11月下旬からリスボンやポルト、中世の城壁都市オビドスなどで美しいクリスマスマーケットが開催されます。イルミネーションに輝く街を散策しながら、ホットワイン(ヴィーニョ・ケンテ)を楽しむのは格別です。
- グルメ体験: 冬はポルトガル料理が一層美味しく感じられる季節です。体を芯から温めるスープ「カルド・ヴェルデ」や煮込み料理「コジード・ア・ポルトゲーザ」など、冬に味わいたい名物料理が豊富に揃います。街角には香ばしい焼き栗(カスタニャス・アサーダス)の屋台も現れます。
- ファド鑑賞: 雨の夜、リスボンのアルファマ地区にあるファドハウスの扉を開けると、哀愁漂う歌声とポルトガルギターの音色が冬の夜にしっとり染み渡ります。
【旅の準備:留意点】
冬の旅で気をつけたいのは天候です。特に北部は雨が多いため、防水性の高いアウターや靴は必携です。また、地方の小さな観光施設やレストランは冬季休業していることがあるため、事前に営業状況を確認しておくと安心です。最新情報は各施設の公式サイトでチェックするのが確実です。
ポルトガルを彩るイベントカレンダー!旅の目的になる熱狂の祭り

ポルトガルは信仰深いカトリックの国であると同時に、祭りを心から楽しむ明るく陽気な国民が暮らしています。そんな熱気あふれるイベントに合わせて旅の計画を立ててみてはいかがでしょう。きっと忘れがたい思い出となることでしょう。
春を迎える祝祭
- セマナ・サンタ(聖週間 / 3月~4月): 復活祭前の1週間、ポルトガル全土でキリストの受難を記念する荘厳な行事が行われます。中でも北部の古都ブラガの松明行列は特に有名で、紫の衣をまとった人々が静かに進む様子は非常に厳かな雰囲気です。この時期は国内からの観光客も多いため、特にブラガの宿泊施設は早めの予約が必須です。
- リスボン・フィッシュ&フレーバーズ(4月頃): 首都リスボンで開催されるシーフード好きにはたまらないグルメイベント。有名シェフによるクッキングショーや新鮮な魚介を使った屋台が並び、ポルトガルの豊かな海の恵みを存分に味わえます。
- 花祭り(マデイラ島 / 5月頃): 「大西洋の真珠」と称されるマデイラ島で、最も華やかになる祭典です。島に自生する美しい花々で飾られた巨大な山車がフンシャルの町を練り歩く様は、圧巻の光景。世界各地から観光客が集まる、島最大のイベントの一つです。
夏の熱狂シーズン!サントス・ポピュラーレス(民衆の聖人祭)
6月はポルトガル全土が活気に溢れ、「民衆の聖人祭」と称される各地の守護聖人を祝う祭典が連夜繰り広げられます。
- リスボンの聖アントニオ祭(6月12日~13日): ハイライトはリスボン。縁結びの聖人として知られる聖アントニオを祝い、街全体にイワシの炭火焼の香ばしい煙と匂いが漂います。アルファマ地区など旧市街の広場や路地にはテーブルが並び、地元民も観光客も一緒にビールやワインを片手にイワシを楽しみ、歌い踊ります。12日の夜には各地区が競い合う豪華な衣装のパレード、「マルシャス・ポピュラーレス」がリベルダーデ大通りで開催され、熱気が最高潮に達します。
【旅のポイント:聖人祭を安心して楽しむために】
リスボンは祭り期間中、まさに街がパーティー会場に変わります。楽しさと共に以下の点に注意しましょう。
- 宿泊の確保は最優先事項: 半年前、場合によっては1年前から予約する心構えが必要です。特に旧市街の宿はすぐに満室になります。
- スリや置き引きの警戒: 人混みでの犯罪が多発するため、リュックは前に抱える、貴重品は分散保管、高価なアクセサリーの着用は控えるなど、十分に対策しましょう。
- 服装の工夫: イワシの煙や匂いが衣服にしみつくため、汚れてもよいラフな服装が基本です。靴はつま先が隠れていて混雑に耐えられるものを選びましょう。
- ポルトの聖ジョアン祭(6月23日~24日): リスボンに匹敵する盛り上がりを見せるのがポルトの聖ジョアン祭。特徴的なのはプラスチック製のハンマー(マルテリーニョ)で、人々はすれ違うたびにお互いの頭をやさしくポコポコ叩き合います。初めは驚きますが、すぐにその独特の文化に魅了されることでしょう。また、ニンニクの花(アホ・ポロ)を顔にかざして幸運を祈る風習もあります。夜にはドウロ川に数多くのランタンが放たれ、盛大な花火が打ち上げられる幻想的な光景も見逃せません。
秋の収穫と文化の息吹
- ドウロ川渓谷ワイン収穫祭(9月~10月): 世界遺産にも登録されているドウロ川上流のワイン産地。秋になると、ポートワインの原料となるブドウの収穫(ヴィンディーマ)が始まります。多くのワイナリー(キンタ)では収穫体験や伝統的な足踏みでのブドウ搾り見学ツアーを実施。黄金色の棚田が広がる景色は息をのむ美しさです。鉄道好きなら、ポルトのサン・ベント駅からドウロ線に乗り、車窓からこの壮麗な風景を楽しむ旅もおすすめです。
- オビドス国際チョコレートフェスティバル(例年春開催/時期は要確認): 「谷間の真珠」とも称される城壁に囲まれた美しい村オビドスで催される甘い祭典。巨大なチョコレートの彫刻が展示され、多彩なチョコレートスイーツも楽しめます。開催時期に変動があるため、ポルトガル政府観光局公式サイトで最新情報をチェックしてから訪問計画を立てましょう。
冬のイルミネーションと穏やかなひととき
- クリスマスマーケット(11月下旬~12月): ヨーロッパの冬の風物詩であるクリスマスマーケットは、ポルトガルでも見られます。リスボンのロシオ広場やポルトのバターリャ広場が有名です。規模はドイツなどに比べ控えめですが、ポルトガル独特の素朴で温かみある雰囲気が魅力となっています。
- 大晦日の花火: 新年の瞬間、ポルトガル各地で豪華な花火が打ち上げられます。特にマデイラ島フンシャルの花火はギネス世界記録に認定されるほどの規模で、世界中から多くの人々が訪れます。リスボンのコメルシオ広場やポルトのドウロ川沿いも人気のカウントダウンスポットです。
これらの催しは旅をより一層魅力的に彩るでしょう。ただし、人気イベント期間中は交通機関や宿泊施設が大変混雑し、料金も高騰しがちです。訪れたい祭りがある場合は、早めに計画を立てて予約を済ませることが、成功の秘訣となります。
旅行のプロが教える!シーズン別・ポルトガル旅の準備と注意点
ここまでお読みいただき、ポルトガル旅行のイメージがかなり具体的になってきたのではないでしょうか。最後に、旅のプロの視点から、より快適で安全な旅を実現するための具体的な準備と、万が一のトラブル時の対応法についてご案内いたします。
服装と持ち物リスト【完全版】
ポルトガル旅行の服装の基本は「重ね着(レイヤリング)」と「歩きやすい靴」です。このポイントを踏まえ、季節別の持ち物をチェックしてみましょう。
- 通年で必要なアイテム:
- 歩きやすい靴: 最も重要な持ち物です。ポルトガルの街中には石畳(カルサーダ)が多く、坂道もよくあります。ヒールの靴は石畳の隙間に挟まる危険があり、すぐに傷みやすいです。クッション性に優れたスニーカーやウォーキングシューズを必ず用意してください。
- パスポート、航空券(eチケットの控え)、海外旅行保険証: コピーやスマホに撮った写真も携帯しておくと安心です。
- クレジットカード: VISAかMastercardが広く使われています。複数枚持っておくと、万一の際に心強いです。
- 現金(ユーロ): 小規模な個人商店や市場、チップ支払いなど現金が必要な場面もまだ多いです。
- 変換プラグ(Cタイプ): 日本の電化製品を使用する場合は必須です。
- モバイルバッテリー: 地図アプリや写真撮影でスマホのバッテリーは意外と早く減ります。
- エコバッグ: ポルトガルでもレジ袋は有料のことが多いので持参をおすすめします。
- 春・秋(ショルダーシーズン)の服装・持ち物:
- 長袖Tシャツやブラウス
- カーディガンやフリースなど体温調節しやすい羽織りもの
- 薄手のジャケットやトレンチコート(防水機能があるとより安心)
- 動きやすいジーンズやチノパン
- 折りたたみ傘
- 夏(ハイシーズン)の服装・持ち物:
- 半袖Tシャツやワンピースなど通気性の良い服装
- リネン素材の長袖シャツ(日よけや冷房対策に重宝)
- ショートパンツやスカート
- 水着やビーチサンダル(リゾート地へ行く場合)
- 日焼け止め、帽子、サングラス
- 冬(オフシーズン)の服装・持ち物:
- ヒートテックなどの高機能なインナー
- セーターやフリース
- 防水・防風性のある暖かいコートやダウンジャケット
- マフラー、手袋、ニット帽
- 暖かい靴下と滑りにくい防水靴
- 室内用の羽織りもの(ホテルの部屋が寒いことがあります)
旅の予約はいつがベスト?
予約のタイミングは旅行費用や満足度に大きな影響を与えます。
- ハイシーズン(7月~8月、イースター、6月の聖人祭期間):
- 航空券: 半年前から1年前の予約が理想的です。遅くとも半年前までには確保しましょう。
- 宿泊施設: 人気のエリアやイベント開催地は特に人気が高まるため、こちらも半年前から動き出すのが望ましいです。
- ショルダーシーズン(春・秋):
- 航空券・宿泊施設: 3~4ヶ月前から予約を始めると、価格と選択肢のバランスが良好です。
- オフシーズン(冬):
- 航空券・宿泊施設: 比較的直前でも予約可能ですが、お得なプランを狙うなら2~3ヶ月前からチェックを始めるのが良いでしょう。ただし、クリスマスや年末年始は早めの予約が必要です。
予約時には、航空会社の公式サイトだけでなく複数の予約サイトを比較検討するのが基本です。また、ポルトガル鉄道(CP)が運行する長距離列車(アルファ・ペンドゥラールなど)は、公式サイトで早めに予約すると割引が適用されることも多いので、移動計画が決まったら早めの購入をおすすめします。
万が一のトラブルに備えて。対処法のポイント
どんなに準備をしても予期できないトラブルは起こり得ます。慌てないためにも対処法をあらかじめ押さえておきましょう。
- フライトの遅延・欠航:
- まずは航空会社のカウンターや専用アプリで状況を確認し、指示に従いましょう。代替便や宿泊の手配について相談をしてください。
- 遅延や欠航による追加費用(食事代や宿泊費など)は、海外旅行保険で補償される場合があります。領収書は必ず保管しましょう。航空会社や利用形態によっては補償が受けられることもあります。
- 盗難・紛失(パスポート、財布など):
- クレジットカード: 速やかにカード会社の緊急連絡先に電話しカードを停止してもらいます。連絡先は事前にメモしておくと安心です。
- パスポート: 現地警察で盗難/紛失届(ポリスレポート)を発行してもらい、その後、最寄りの日本国大使館または領事館で再発行手続きまたは「帰国のための渡航書」を申請します。写真や戸籍謄本(または抄本)のコピーがあると手続きがスムーズです。
- 警察への届け出: 盗難に遭った場合は警察への届け出とポリスレポートの入手が必須です。これは保険請求や再発行手続きに必要になります。
- 体調不良・ケガ:
- 海外旅行保険に加入していれば、日本語対応してくれる提携医療機関の紹介やキャッシュレス治療を受けられます。保険会社のサポートデスク連絡先はすぐに取り出せるようにしておきましょう。
- 軽度の症状であれば薬局(Farmácia)で薬剤師に相談することもできます。
トラブルに備え、必ず渡航前に海外旅行保険に加入しておくことを強くおすすめします。また、安全情報や緊急連絡先は在ポルトガル日本国大使館の公式サイトで最新情報をチェックしてください。
万里が選ぶ、季節ごとの「とっておき」体験

数々の旅を経てきた私、万里が独自の視点で選んだ、季節ごとのおすすめの過ごし方をご紹介します。ガイドブックにはあまり載っていないかもしれませんが、ポルトガルの真髄に触れるような体験です。
- 春のおすすめ:アレンテージョ地方で、地平線まで続く花の絨毯をドライブ
リスボンの東に広がるアレンテージョ地方は、ポルトガルの豊かな穀倉地帯です。春になると、コルク樫が点々と立つ緩やかな丘陵が、野生のポピーやルピナスの花で彩られます。レンタカーを借りて、地図も持たず気の赴くままにドライブするひとときは、何ものにも代えがたい贅沢です。城壁に囲まれたエヴォラやモンサラーシュなどの美しい村々に立ち寄り、沈みゆく夕日を地平線の彼方に眺めてみてください。
- 夏のおすすめ:アゾレス諸島で、クジラと泳ぎ火山の恵みを味わう
本土を離れ、大西洋の真ん中に浮かぶアゾレス諸島へ足を運んでみましょう。ここはマッコウクジラやイルカが回遊する、ほとんど手つかずの自然が残る楽園です。ホエールウォッチングツアーに参加すれば、巨大なクジラが潮を吹き上げる感動的な瞬間に出会えるかもしれません。旅の締めくくりは、フルナス渓谷の天然温泉プール。火山の地熱で温められた鉄分豊富なオレンジ色の湯に浸かれば、旅の疲れも一気に癒されるでしょう。
- 秋のおすすめ:ドウロ川のほとりで、ポートワイン誕生の瞬間を感じる
秋風が吹き始める時期になると、私はいつもドウロ川の景色を見たくなります。ポルトからローカル線に揺られて、黄金色に染まるブドウ畑が連なる渓谷へ向かいましょう。小さなワイナリー(キンタ)を訪ね、当主の情熱を聞きながら、収穫したばかりのブドウの甘い香りに包まれます。夕暮れ時、テラスでヴィンテージ・ポートを手に静かに流れる川面を眺める。これこそが、大人の旅の醍醐味だと私は感じます。
- 冬のおすすめ:リスボンの夜、迷い込んだ酒場でファドに心震わせる
冷たい雨が石畳を濡らす冬の夜は、傘を手にアルファマ地区の迷路のような路地を歩いてみてください。どこからか切なくも美しいギターの音色と、魂を揺さぶる歌声が聞こえてくるはずです。それがファドの響き。ふらりと小さな酒場(タスカ)に入り、地元の年配の方々と肩を並べてグラスを傾ける。言葉がわからなくても構いません。サウダーデ(郷愁)を歌うその声は、なぜか心の奥底に触れ、思わず涙がこぼれることもあるでしょう。そんな夜は、きっとあなたの大切な宝物になります。
ポルトガルという国は、訪れる季節ごとにまったく異なる表情を見せてくれます。本記事が、あなたの心に響く「最高の季節」を見つける手助けとなれば幸いです。
さあ、準備は整いましたか? あなただけの物語を求めて、ユーラシア大陸西端の地へ。素晴らしい旅があなたを待っています。

