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アゾレス諸島とは?9つの島が持つ個性と魅力の全貌

大西洋の真ん中に、ぽつり、ぽつりと浮かぶ緑の宝石。ヨーロッパの喧騒から遠く離れたその場所は、「大西洋の真珠」「ヨーロッパ最後の楽園」とも呼ばれ、旅慣れた人々を魅了してやみません。その名は、アゾレス諸島。ポルトガル領でありながら、本土とはまったく異なる独自の生態系と文化を育んできた、9つの火山島からなる群島です。

ヨーロッパと北米大陸のちょうど中間に位置し、かつては大航海時代の船乗りたちが嵐を避けるための重要な寄港地でした。しかし今、この島々は、手つかずの自然を求める旅人たちにとっての聖地となりつつあります。むせ返るような緑に覆われたカルデラ、地球の息吹をダイレクトに感じる温泉地帯、紺碧の海を悠然と泳ぐクジラの群れ。そして、それぞれの島が放つ、まったく異なる個性と色彩。

この記事では、まだ多くの日本人には知られていないアゾレス諸島の全貌を、9つの島の個性とともに解き明かしていきます。次の旅先を探しているあなたへ、あるいはまだ見ぬ絶景に心を焦がすあなたへ。アゾレス諸島という、地球が隠し持っていた宝物への扉を、一緒に開けてみませんか。

目次

アゾレス諸島への招待状

アゾレス諸島がこれほどまでに特別である理由は、その成り立ちと時間の流れにあります。火山活動によって誕生したこれらの島々は地質的に非常に若く、現在もなお地球の力強いエネルギーを感じ取ることができます。島々全体がユネスコのジオパークに指定されており、それぞれの地形はまさに生きた博物館のようです。

しかし、アゾレスの魅力は荒々しい自然だけにとどまりません。そこに暮らす人々は厳しい自然環境と調和しながら、独自の文化を育んできました。例えば、ピコ島では溶岩で造られた石垣が風からブドウを守り、世界遺産に登録されたワインが生み出されています。また、テルセイラ島のアングラ・ド・エロイズモはルネサンス時代の港町の面影を色濃く残し、こちらも世界遺産として知られています。各島にはそれぞれの歴史や生活の物語が息づいています。

さらに注目すべきは、アゾレス諸島が世界を牽引する「サステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」の先進地域であることです。自然環境への影響を極力抑えつつ、観光が地域の文化や経済に良い影響を与えることを目指す施策は高く評価されています。訪れる私たちも単なる消費者ではなく、この美しい島々の未来を守る一員としての自覚を持つことが大切です。これこそがこれからの旅の新たなスタンダードと言えるでしょう。

旅の準備と基本情報

アゾレス諸島への憧れがいよいよ膨らんできたところで、具体的な旅のプランを立ててみましょう。見知らぬ地への旅は、念入りな準備が成功の鍵を握ります。ここでは、アクセス方法から最適なシーズン、さらには快適な滞在に欠かせない持ち物まで、実践的な情報を詳しくご紹介します。

アゾレスへのアクセス – 空路と海路

日本からアゾレス諸島へ直行便は運航されていません。一般的にはヨーロッパの主要都市を経由して向かう方法が主流です。特にスムーズなのは、ポルトガルの首都リスボン、あるいは第二の都市ポルトを経由するルートです。過去にはTAPポルトガル航空が日本(成田)からリスボンへの直行便を運行していましたが、現在はヨーロッパ内の他都市を経由するケースが一般的となっています。

リスボンやポルトからは、アゾレス諸島の玄関口であるサン・ミゲル島ポンタ・デルガダ空港(PDL)やテルセイラ島ラジェス空港(TER)へ、TAPポルトガル航空やアゾレス・エアラインズ(Azores Airlines)が日々複数便を運航しています。飛行時間はおよそ2時間半程度です。航空券は各航空会社の公式サイトや、スカイスキャナーといった比較サイトで予約すると便利です。特に夏季のハイシーズンは混雑が激しいため、早めの予約をおすすめします。

アゾレス諸島内の島間移動は、主に飛行機とフェリーの2つの手段があります。

  • 飛行機: 全9島に空港が設置されており、島間のフライトはほぼSATA Air Açoresが独占的に担当しています。特に東部・中部・西部の群島間の移動では飛行機が欠かせません。飛行時間は30分から1時間ほどと短いですが、天候によって影響を受けやすいのが特徴です。
  • フェリー: 中央群島の5島(テルセイラ、ピコ、ファイアル、サン・ジョルジェ、グラシオーザ)間や、フローレス島とコルヴォ島の間など、近距離の島々を移動する際にはフェリーが非常に便利です。フェリーはAtlanticolineが運航しており、公式サイトで時刻表の確認やチケットの購入が可能です。ただし、多くの路線は季節限定運航で、特に冬季は便数が大幅に減少、あるいは運休になることもあります。また、海況が悪化すると欠航するため、日程には十分な余裕をもたせることが重要です。

ベストシーズンと気候

アゾレス諸島を訪れるのに最も適した時期は、一般的に6月から9月の夏季です。この期間は天候が比較的安定し、気温も過ごしやすく、海水浴やハイキングに最適です。また、ホエールウォッチングで大型ヒゲクジラ類に出会える可能性も高まります。

しかし、春(4月・5月)は島々が花々で彩られ、秋(10月)は観光客が少なくなってゆったり旅を楽しめるという魅力もあります。冬(11月から3月)は雨が多く、海も荒れやすい一方で、温泉を満喫したり、緑がいっそう濃くなる島の自然美を味わったりするのに特別な季節でもあります。

アゾレスの気候を語る際に欠かせないのが、「一日に四季がある」と言われる独特の変わりやすさです。晴れていたと思ったら急に霧が立ち込め、雨が降ったかと思えば再び太陽が顔を出す、といった天候の変化が頻繁に起こります。標高や地形の違いによっても気候が大きく異なる点に注意が必要です。

旅の計画 – 訪問する島の選び方

9つすべての島を一度の旅行で訪れるのは、時間的にも体力的にも現実的ではありません。多くの旅行者は滞在日数に合わせて訪問する島を絞ります。島々は地理的に3つのグループに分かれているため、グループ単位で計画を立てるのが効率的です。

  • 東部群島 (Grupo Oriental): サン・ミゲル島、サンタ・マリア島
  • 中部群島 (Grupo Central): テルセイラ島、ピコ島、ファイアル島、サン・ジョルジェ島、グラシオーザ島
  • 西部群島 (Grupo Ocidental): フローレス島、コルヴォ島

例えば、1週間の滞在なら、最も見どころが豊富なサン・ミゲル島に滞在してじっくり楽しむのがおすすめです。10日から2週間程度の期間があれば、中部群島の「トライアングル」と称されるピコ島、ファイアル島、サン・ジョルジェ島をフェリーで巡るプランが理想的です。究極の自然を求める方には、西部群島のフローレス島とコルヴォ島を訪れる体験も格別でしょう。

持ち物と注意点 – 快適な滞在のために

アゾレスの特有の気候と自然環境に対応するため、持ち物は少し工夫が必要です。以下のリストは旅の快適さを大きく左右します。

【持ち物リスト】

  • 衣類:
  • 防水・防風性のアウター(必携): 突然の雨や強風に対応できる、ゴアテックスなどのジャケットが最適です。
  • フリースや薄手ダウン: 重ね着用として。高地や船上では夏でも肌寒いことがあります。
  • 速乾性のTシャツやシャツ: ハイキング時に汗をかいてもすぐ乾く素材が便利です。
  • トレッキングパンツ: 丈夫で動きやすいものを選びましょう。
  • 水着: 温泉や海に入る機会が多いため必須です。特にフルナス谷の温泉は鉄分を多く含み、色が変わる可能性があるため、濃い色で古くなってもよい水着を持参することをお勧めします。
  • 靴:
  • 防水性トレッキングシューズ(必須): 多くのハイキングコースはぬかるみやすいので、滑りにくく履き慣れた靴が最適です。
  • サンダル: 街歩きや海岸の岩場で重宝します。
  • その他:
  • 常備薬、酔い止め薬: 船やプロペラ機の移動が頻繁なため、船酔いしやすい方は必ず用意しましょう。
  • 国際運転免許証: 島内の移動にはレンタカーが便利なので、日本で事前に取得しておくことを推奨します。
  • 変換プラグ: ポルトガルではCタイプのプラグが使用されています。
  • モバイルバッテリー: 自然豊かな場所では充電環境が限られます。
  • カメラの防水対策用品: 防水ケースやレインカバーがあると安心です。
  • サングラス、日焼け止め、帽子: 夏の日差し対策に必須です。
  • 小型リュックサック: ハイキングや街歩きでアウターや水分、カメラなどを携帯するのに便利です。

【禁止事項・ルール】

  • 自然保護: アゾレスの豊かな自然は大切な資産です。ハイキングコースを外れたり、植物を採取したり、野生動物に餌を与えたりする行為は禁止されています。ゴミは必ず持ち帰りましょう。
  • ドローン飛行: ドローンの利用には厳しい規制があり、多くの自然保護区や空港周辺では飛行が禁止されています。使用を希望する場合は、必ずポルトガル航空当局(ANAC)の規制を確認し、必要な許可を取得してください。無許可飛行は高額な罰金の対象となる場合があります。

【トラブル時の対応】

アゾレス旅行でよくあるトラブルは、天候によるフライトやフェリーの欠航です。

  • 欠航時: 慌てず、搭乗予定の航空会社やフェリー会社のカウンターあるいはオフィスへ向かい、代替便や翌日の便への振替について相談しましょう。特にSATA Air Açoresは天候による運休に慣れているため、対応がスムーズです。
  • 旅程への影響: 欠航によって宿泊やツアーの変更・キャンセルが必要になる場合があります。予約時にはキャンセルポリシーを必ず確認しておきましょう。
  • 海外旅行保険: こうした緊急事態に備えて、航空機の遅延や欠航補償が付帯した海外旅行保険への加入を強くお勧めします。予想外の出費(宿泊費や交通費)をカバーできるケースが多いです。保険証券と緊急連絡先はすぐに取り出せる場所に保管してください。

9つの島の肖像 – 個性と魅力を巡る

アゾレス諸島の最大の魅力は、それぞれの9つの島が独自の表情を持っている点にあります。緑色、青色、紫色、灰色…島々は色彩で形容されるほど、その個性が際立っています。さあ、東の島々から西の果てまで、壮大なアイランドホッピングの旅に出かけましょう。

東部群島 – 始まりの島々

アゾレス諸島の東側に位置する2つの島。多くの旅行者が最初に訪れる群島の入り口です。

サン・ミゲル島 (São Miguel) – 緑の島

アゾレス諸島最大であり、最も人口の多い「緑の島」、サン・ミゲル。その名前どおり、島のどこを見渡しても生き生きとした濃い緑が目に飛び込んできます。島の中心都市ポンタ・デルガダは、アゾレスの政治経済の中心地で、歴史を感じさせる白壁の美しい街並みが広がっています。

この島に訪れたなら、まずはセテ・シダデス (Sete Cidades)を目指しましょう。巨大なカルデラの底に隣接しながらも色の違う二つの湖(ラゴア・アズール/青い湖とラゴア・ヴェルデ/緑の湖)が静かにたたずむ姿は、まさにアゾレスの象徴的な絶景です。展望台「ヴィスタ・ド・レイ(王の眺め)」から眺める風景は、まさに絵はがきから抜け出たかのよう。霧が出やすい場所のため、晴れた日を選んで訪れたいものです。

島の東部に位置するフルナス谷 (Vale das Furnas)も、サン・ミゲルの見どころのひとつ。いたるところから湯気が立ち上り、硫黄の香りが漂うこの地は、地球の鼓動を身近に感じられる場所です。ここで名物とされるのが、地熱を利用して調理される伝統料理「コジード・ダス・フルナス」。肉と野菜を大鍋に入れて地面に掘られた穴に埋め、6〜7時間かけてじっくりと蒸し焼きにします。ほろほろに柔らかくなった肉と、味わい深い野菜は格別の美味しさです。

フルナスでは温泉も必見です。広大な植物園内にあるテラ・ノストラ公園の温泉プールは鉄分を多く含んだ茶褐色の湯が特徴的。また、ポサ・ダ・ドナ・ベイジャには異なる趣の露天風呂が複数あり、夜まで営業しているため、星空の下での入浴も楽しめます。

さらに、サン・ミゲル島はヨーロッパで唯一、商業的な茶畑とパイナップル農園が存在する島としても知られています。ゴレアナ紅茶園 (Chá Gorreana)は19世紀から伝統的な製法で茶を生産しており、工場見学や試飲も可能です。

サンタ・マリア島 (Santa Maria) – 太陽の島

アゾレス諸島の中で最も南に位置し、地質学的に最も古いのがサンタ・マリア島です。多くの島が火山性の黒い土壌なのに対し、この島には石灰岩層が見られ、その独特の景観を形成しています。晴天率が高いことから「太陽の島」と呼ばれています。

サンタ・マリア島の大きな特徴は、アゾレスでは希少な白砂のビーチ、プライア・フォルモーザ (Praia Formosa)。夏場には多くの海水浴客で賑わいます。また、バレイロ・ダ・ファンカ (Barreiro da Faneca)は「赤い砂漠」と称される地域で、むき出しの赤土が広がる光景はまるで異世界に迷い込んだようです。

化石の発見も知られており、他の島とは一線を画す独自の魅力を持つサンタ・マリア島。日帰りも可能ですが、ゆったりとした雰囲気を楽しみたいならぜひ一泊して滞在することをおすすめします。

中部群島 – アゾレスの中心地

5つの島が比較的近接して浮かぶ中部群島。歴史、文化、自然の多様性が豊かなエリアで、フェリー利用で効率よく巡ることができ、アイランドホッピングの醍醐味を味わえます。

テルセイラ島 (Terceira) – 紫の島

名前の通り「3番目に発見された島」であるテルセイラ。島の中心都市アングラ・ド・エロイズモ (Angra do Heroísmo)は、大航海時代にアフリカ、インド、アメリカからの船団が集う重要な港として栄えました。その歴史的価値と大地震からの復興を遂げた美しいルネサンス様式の街並みは、ユネスコ世界遺産にも登録されています。パステルカラーの建物が並ぶ石畳の道を歩けば、まるで時代をさかのぼったかのような感覚に包まれます。街のシンボルであるライラックの花の色から「紫の島」とも呼ばれています。

テルセイラ島の魅力は歴史的街並みだけではありません。島の内陸にあるアルガル・ド・カルヴァオン (Algar do Carvão)は、火山の噴火口跡に形成された珍しい洞窟。地上から約90メートルの階段を降りると、美しい地下湖が広がり、差し込む光が苔むした岩肌を照らす光景は神秘的そのものです。

また、テルセイラ島には「トウラダ・ア・コルダ (Tourada à corda)」という特有の闘牛文化が根付いています。ロープで繋がれた牛を街中で走らせるこの祭りは夏に各地で開催され、地元の熱気を肌で感じられます。

ピコ島 (Pico) – 灰色の島

中部群島のどの島からもその壮大な姿を望むことができる、ポルトガル最高峰のピコ山 (Pico, 2351m)。この休火山が島そのものであり、火山岩や溶岩に覆われた厳しい地形から「灰色の島」と呼ばれています。

多くの訪問者がピコ山登山を目的とし、往復6〜8時間かけて険しい道を登ります。山頂から見渡す雲海や中部群島の島々のパノラマは息を呑む美しさです。

【ピコ山登山の注意点】 ピコ山登山は本格的な登山であり、安易な行動は危険です。

  • 手続き: 登山口にある「山の家 (Casa da Montanha)」での登山登録が必須。ここでGPSトラッカーを借り、安全指導を受けます。悪天候時は入山禁止となることも。
  • ガイド: 登山経験の浅い方は必ず公認ガイドの同行を推奨します。ガイドは安全をサポートし、自然や歴史の解説も行います。予約が必要です。
  • 装備: トレッキングシューズ、防寒服、雨具、水分と食料、ヘッドライト(特に夜間登山時)は必携です。

ピコ島のもう一つの象徴は、強風からブドウ樹を守るために黒い溶岩石で築かれた石垣のブドウ畑。パッチワークのように島を覆い、独特の文化的景観で世界遺産に登録されています。このブドウを使ったワインはミネラル豊富で力強い味わい。ワイナリー訪問で試飲を楽しむのもおすすめです。

かつて捕鯨基地として栄えた歴史を背景に、現在はホエールウォッチングの名所としても知られています。

ファイアル島 (Faial) – 青の島

ピコ島の西隣に位置し、その名のとおり島中に咲き誇るアジサイの青色で「青の島」と親しまれています。

島の中心地オルタ (Horta) 港は、大西洋横断のヨット乗りにとって古くから重要な寄港地で、今も世界中から訪れるヨットでマリーナは賑わっています。船乗りたちは航海の安全を祈り、防波堤に自分の船の絵を描き残す伝統があり、壁画が延々と続く様子はまるで屋外美術館のようです。

オルタ港の人気スポットのひとつに、100年以上の歴史を持つ伝説のバー「Peter Café Sport」があります。ここは船乗りたちの情報交換や憩いの場であり、店内に飾られる世界中のヨットクラブの旗が独特の雰囲気を醸し出しています。ジントニックを片手に、海を越えてきた船乗りたちの物語に思いを馳せるのもまた一興です。

ファイアル島の必見スポットは、1957〜58年の海底噴火によって生まれたカペリニョス火山 (Vulcão dos Capelinhos)。荒涼とした黒い火山灰の大地と朽ちかけた灯台は、自然の圧倒的パワーを物語っています。併設のビジターセンターで噴火の詳細な記録を学べます。

サン・ジョルジェ島 (São Jorge) – 褐色の島

ピコ島とテルセイラ島の間に細長く横たわるサン・ジョルジェ島。標高1000メートル級の山々が島の背骨を形成し、その両側は険しい断崖絶壁が海へと落ちています。崖の土の色から「褐色の島」と呼ばれています。

この島の特徴は「ファジャン (Fajã)」という地形。崖崩れや溶岩流によって岸辺にできた小さな平地で、かつては外界との交通が遮断され、ファジャンごとに独自の文化やコミュニティが育まれました。特にファジャン・ダ・カルデイラ・デ・サント・クリスト (Fajã da Caldeira de Santo Cristo)は、美しい潟で知られ、ハイカーの憧れの地です。車で行けず、数時間のトレッキングが必要な秘境と言える場所です。

また、サン・ジョルジェ島はグルメの面でも見逃せません。豊かな牧場で育った牛のミルクから作る「ケイジョ・デ・サン・ジョルジェ (Queijo de São Jorge)」は、ポルトガルを代表するチーズの一つで、濃厚で熟成された味わいとピリッとしたスパイシーさが特徴。ワインとの相性も抜群です。さらにヨーロッパでは珍しいコーヒー産地であり、ファジャンで栽培される希少なコーヒーも楽しめます。

グラシオーザ島 (Graciosa) – 白い島

中部群島の北に浮かぶグラシオーザ島は、その名が示す通り穏やかで牧歌的な景観が広がります。起伏が穏やかで、点在する白い家々や風車から「白い島」とも呼ばれています。島全体がユネスコの生物圏保護区に指定されており、自然と人の営みが調和しています。

この島の見どころは、巨大な洞窟フルナ・ド・エンショフレ (Furna do Enxofre)。内部には硫黄泉の湖があり、頂部の大きな穴から差し込む光が湖面を神秘的に演出します。特に正午前後の太陽が真上に来る時間帯は最も美しさが際立ちます。

グラシオーザ島は派手な観光地ではありませんが、静かな時間を過ごし、島の日常にゆったりと触れたい旅人にとって最高の隠れ家となるでしょう。

西部群島 – 絶海の孤島

ヨーロッパ大陸から最も遠く、北米大陸に最も近い位置にある2つの島。特に自然が豊かでワイルドな魅力があふれています。

フローレス島 (Flores) – 花の島

「花の島」と名付けられたフローレス島は、その名の通り一年中多彩な花々に彩られています。特に夏のアジサイは圧巻で、島全体を青く染め上げます。豊かな降雨が生み出す豊富な水は無数の滝となって緑の渓谷を流れ、この上なく美しい風景をつくりだしています。

フローレス島を象徴する光景は、ポソ・リベイラ・ド・フェレイロ (Poço da Ribeira do Ferreiro)。苔むす巨大な一枚岩の壁を20本以上の細い滝が絹糸のようになめらかに流れ落ち、下部の湖に注ぐ姿はまさにファンタジー映画の世界です。

島中央部には7つのカルデラ湖が点在し、それぞれに異なる表情を見せます。ユネスコの生物圏保護区にも登録されており、ハイキングやキャニオニングなどのアウトドアアクティビティに最適な場所です。

コルヴォ島 (Corvo) – 黒い島

アゾレス諸島で最も小さく、最北に位置するのがコルヴォ島。人口は約400人で、フローレス島からフェリーでアクセスできます。島全体がひとつの巨大なカルデラから成り、その中心にあるカルデイラオン (Caldeirão)が最大の見どころです。

直径2キロを超えるカルデラ底には複数の小さな湖と牧草地が広がり、まるでミニチュアの箱庭のよう。展望台から眺める景色は、地球創造の神秘を感じさせます。

コルヴォ島にはホテルがほとんどなく訪れる観光客も限られていますが、助け合いながら暮らす強い共同体と自然への敬意が今も息づいています。ヨーロッパ最西端に浮かぶこの小さな島への旅は、心に残る特別な体験となるでしょう。

アゾレス諸島でしかできない体験

9つの島々の個性を理解したところで、次にアゾレス諸島ならではの体験に注目してみましょう。この群島は、単に景色を眺めるだけでなく、五感を通じて自然と深く触れ合うのにふさわしい舞台を提供しています。

大西洋の巨獣と遭遇する – ホエール&ドルフィンウォッチング

アゾレス諸島は、世界有数のホエール&ドルフィンウォッチングの名所として知られています。理由は周囲海域が非常に栄養豊富で、定住種や回遊種を合わせて20種以上のクジラやイルカが観察されているためです。

一年中観察できるマッコウクジラをはじめ、春から初夏にかけてはシロナガスクジラやナガスクジラなど地球最大の動物が餌を求めてやってきます。また、イルカの群れがボートと並走する光景もよく見られます。

ツアーはサン・ミゲル島、ピコ島、ファイアル島などを拠点に多数催行されています。中には元捕鯨船員が「ヴィジア」と呼ばれる見張り役を務めるツアー会社もあり、その遭遇率の高さで評判です。

【ウォッチングツアーのポイント】

  • 予約について: 特に繁忙期は満席になることが多いため、事前予約が推奨されます。公式サイトや現地のツアーデスクで手配しましょう。
  • 守るべきルール: 動物にストレスを与えないよう、接近距離やエンジン音の管理など厳しい規則が設けられています。船上では必ずガイドの指示に従ってください。
  • トラブル対策: 野生動物相手のため、必ずしも遭遇が保証されるわけではありません。多くのツアーでは、クジラが見られなかった場合に別日の無料再参加を認める保証制度や、悪天候による中止時の返金・振替にも対応しています。予約時に確認しておくと安心です。
  • 持ち物・服装: 船上は陸上よりも気温が低く感じられるため、夏でも上着を1枚持参することをおすすめします。船酔いしやすい方は酔い止めを用意しましょう。

地球の息吹を体感する – 火山と温泉

火山島群であるアゾレスは「歩くジオパーク」と呼ばれ、多彩なハイキングコースが整備されています。初心者から上級者まで、自分の体力や経験に合うコースが見つかります。セテ・シダデスのカルデラ沿いを歩くルート、サン・ジョルジェ島のファジャンへ向かう断崖絶壁の道、さらにはピコ山頂を目指す本格登山など、火山が作り出す壮大な地形と雄大な景色を楽しめます。

また火山の恵みといえば温泉。サン・ミゲル島のフルナス谷には、テラ・ノストラ公園やポサ・ダ・ドナ・ベイジャなど、豊かな温泉施設が点在しています。

特に注目したいのが、サン・ミゲル島西端のポンタ・ダ・フェラリア (Ponta da Ferraria)です。ここでは岩の裂け目から湧き出る温泉が直接海へと流れ込み、干潮時に天然の海中温泉を楽しめます。冷たい海水と温かい温泉が混ざり合う独特の感覚は、忘れがたい体験となるでしょう。訪れる際は潮見表のチェックをお忘れなく。

アゾレスの味覚を満喫する

旅の醍醐味の一つは、その地の食文化に触れること。アゾレス諸島は、豊かな海と大地が生み出した独特な食材が豊富です。

  • シーフード: 大西洋の新鮮な魚介類は欠かせません。特に「ラパス (Lapas)」と呼ばれるカサガイの一種をニンニクとバターでグリルした名物料理はアゾレスを代表します。マグロ、タチウオ、メカジキも絶品です。
  • コジード・ダス・フルナス: 地熱を利用したサン・ミゲル島の伝統料理で、訪れたらぜひ味わいたい一品です。
  • チーズ: サン・ジョルジェ島のチーズがよく知られていますが、各島で個性豊かなチーズが作られており、フレッシュなものから熟成タイプまで食べ比べが楽しめます。
  • 肉料理: 広大な牧草地でストレスフリーに育てられたアゾレスの牛肉は質が高いことで評判です。テルセイラ島の名物「アルカトラ (Alcatra)」は、赤ワインとスパイスでじっくり煮込んだ深い味わいの料理です。
  • ワインとリキュール: ミネラル豊富なピコ島の白ワインはシーフードにぴったり。また、パッションフルーツやパイナップルを使ったリキュールも人気の食後酒です。
  • 紅茶とコーヒー: ヨーロッパで唯一紅茶の産地であるサン・ミゲル島と、希少なコーヒーが作られるサン・ジョルジェ島。お土産にも最適です。

サステナブル・ツーリズムを実感する

アゾレス諸島は、世界で初めて「持続可能な観光地」として認定された群島です。訪れる私たち観光客もその一員として、責任ある行動を心がけたいものです。

地元の人が営む小規模な宿泊施設やレストランを利用する、環境を考慮したエコツアーに参加する、地元産品を購入するといった行動はすべて、アゾレスの美しい自然と文化を守り、未来に引き継ぐための重要なステップです。アゾレス公式観光サイトVisit Azoresでは、サステナビリティに関する取り組みや認定事業者の情報が紹介されています。旅の計画の際にぜひご覧ください。

心に残る、アゾレスという物語

大西洋を越えて吹く風、足元から伝わる大地の温もり、そして目の前に広がる壮大な緑と青の自然。そのアゾレス諸島を巡る旅は、ただの観光旅行ではありません。私たちが暮らす地球がいかにダイナミックで美しく、そしてかけがえのない存在であるかを改めて感じさせてくれる、壮大な物語の体験なのです。

9つの島々は、それぞれが個性豊かな兄弟のように異なる魅力を放ちながらも、どこかで深いつながりを持っています。ある島では大地の荒々しいエネルギーに圧倒され、また別の島ではそこで暮らす人々の穏やかな営みに心が癒される。その対比こそ、アゾレス諸島の絶え間ない魅力なのかもしれません。

普段は時刻表を片手に鉄道の旅を好む私ですが、鉄道のないこの島々をレンタカーや徒歩で自由に巡る旅は、時間の流れ方がまったく異なることを教えてくれました。次にどの曲がり角を曲がるのか、この先にどんな景色が広がっているのか。予想できない自然との対話は、旅の原点を思い起こさせてくれます。

もしあなたが日常の喧騒から離れて心からリフレッシュできる場所を求めているなら。もしまだ誰も知らない地球の絶景に出会いたいと願うなら。その答えは大西洋の真ん中で、静かにあなたを迎えています。アゾレス諸島という忘れがたい物語のページを、今度はあなた自身の手で開いてみてください。

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