どこを切り取っても絵画のよう。急な坂道に寄り添うように立ち並ぶカラフルな家々、壁という壁を埋め尽くす情熱的なストリートアート、そして眼下に広がるのは、雄大な太平洋の青。チリの首都サンティアゴから西へ約120キロ、バスに揺られてたどり着く港町バルパライソは、訪れる者の心を一瞬で奪う魔法のような場所です。
その昔、ヨーロッパとアメリカ西海岸を結ぶ重要な中継港として栄華を極めたこの街は、パナマ運河の開通と共にその役割を終え、まるで時間が止まったかのようなノスタルジックな空気を纏うようになりました。しかし、その魂は決して色褪せることなく、今では「太平洋の宝石」と称えられ、2003年にはその歴史的な街並みがユネスコの世界遺産に登録されています。
この街の魅力は、目に映る色彩だけではありません。港町ならではの活気、潮の香り、そして何よりも、この土地で育まれた豊かな食文化にあります。太平洋の恵みを一身に受けた新鮮なシーフード、坂の街の日常に溶け込む素朴で美味しいストリートフード。その二つが織りなす絶妙なハーモニーこそ、バルパライソの旅を忘れられないものにしてくれるのです。
この記事では、迷宮のようなバルパライソの坂道を歩きながら、その心と胃袋を満たす美食の数々を巡る旅へとご案内します。市場の喧騒の中で味わう絶品シーフードから、アートな街角で頬張るストリートフードまで。さらには、この美食旅を120%楽しむための具体的な準備や移動方法、知っておきたい注意点まで、あなたの旅が最高のものになるための情報を詰め込みました。さあ、五感を研ぎ澄ませて、バルパライソの味を探しに出かけましょう。
この活気あふれる美食の街を満喫した後は、チリのもう一つの顔、太平洋に浮かぶ神秘の孤島、イースター島でモアイ像が語る古代の謎に触れる旅もおすすめです。
坂の迷宮都市、バルパライソへようこそ

バルパライソの街を歩いていると、自分が今どこにいるのか、また上っているのか下っているのか、時折見失ってしまうほど不思議な感覚に包まれます。この街は平地がほとんどなく、40を超える丘(セロ)が連なって成り立っています。その険しい斜面に人々は家を建て、道を整備しながら暮らしてきました。その結果として生まれたのが、迷路のように入り組んだ予測不能で唯一無二の景観なのです。
なぜ「太平洋の宝石」と称されるのか?
バルパライソが最も栄えたのは19世紀後半から20世紀初頭にかけての時代です。マゼラン海峡を越えてやってきた船乗りたちが、長い航海の疲れを癒やし、補給を行う重要な港として機能しました。世界中から富と人々が集まり、丘の上にはイギリスやドイツからの移民が建てたヨーロッパ風の趣ある邸宅が今も残っています。錆びたトタンの屋根、カラフルに彩られた木造住宅、石畳の細い路地。それぞれが街の輝かしい歴史と栄光を静かに伝えています。
しかし1914年のパナマ運河開通によって、バルパライソの運命は一変しました。船の往来が激減し、経済は低迷の時期を迎えます。ただ、その低迷が逆に、この港町の貴重な景観を現代に保つことに繋がったのです。2003年には、そのかけがえのない文化的価値が認められ、<a href=”https://whc.unesco.org/en/list/959/” target=”_blank” rel=”noopener”>バルパライソの海港都市の歴史的街並み
この街の風景を特別なものにしている最大の特徴は、何と言ってもその「色彩」です。海からの湿気や塩害で傷みやすい建物を保護するため、かつては船のペンキの余りを利用して家々を塗ったのが始まりとされています。赤、青、黄、緑と、多種多様な色が隣接する家々を彩り、青空と太平洋の美しい背景と相まって鮮やかなコントラストを生み出しています。
アートが息づく街角
バルパライソは、街全体が一つの巨大なキャンバスとなっています。建物の壁や階段、シャッターのすみずみまでグラフィティやミューラル(壁画)が描かれ、ただ歩くだけで数えきれないアート作品に出会うことができます。これらは単なる落書きではなく、社会的メッセージを込めたもの、チリの歴史や文化を表現したもの、純粋な美的表現など、多様な表現が街に活力を与えています。
中でも特に知られているのが、セロ・コンセプシオン(Cerro Concepción)やセロ・アレグレ(Cerro Alegre)という丘に広がる「シエロ・アビエルト(Museo a Cielo Abierto)」、すなわち「青空美術館」です。1990年代初めに、著名なチリ人アーティストたちがこの地の壁に作品を描いたことから始まり、現在では街の象徴的なスポットとなっています。地図を片手に作品を巡るのも面白いですが、あえて計画を立てず路地を気ままに歩きながら、偶然お気に入りのアートに出会う楽しみも格別です。
この街では、アートは美術館の中に収められるものではなく、人々の日常に溶け込みながら息づいています。カフェの壁やホステルの玄関、ランドリーのシャッターなど、日常の風景と融合したアートがバルパライソを他にない特別な場所にしています。
バルパライソの心臓部、港が育む絶品シーフード
色とりどりの丘の景色に心を奪われたら、次はお腹を満たす時間です。バルパライソの食文化の中心にあるのは、何と言っても目前に広がる太平洋の豊かな恵み。新鮮な魚介類を求めて、街の心臓部ともいえる市場や港周辺のレストランに足を運んでみましょう。潮の香りが、美味しい体験への期待感を一層高めてくれます。
潮風が誘う「メルカド・カルドナル(Mercado Cardonal)」
バルパライソの食文化を語るうえで欠かせないのが、街の中心に位置する「メルカド・カルドナル」です。緑色の鉄骨が特徴的なこの二階建ての市場は、地元の人々の生活の台所であるとともに、観光客にとっても食の宝庫。一歩踏み入れると、元気な掛け声や人々の活気にあふれ、新鮮な食材が醸し出す生命力に満ちた空気が迎えてくれます。
一階には八百屋や肉屋、乾物店などが並び、色鮮やかな野菜や果物が山盛りに積まれています。ただし、私たちの目的は魚介類。市場の奥へ進むと、氷の上に整然と並んだ魚たちに圧倒されることでしょう。銀色に輝くメルルーサ(タラの一種)、巨大なコングリオ(アナゴの一種)、真っ赤なロコ(チリアワビ)、そしてチリ名物のウニ(エリソ)、さらには日本ではあまり見かけないマチャス(マテ貝)やピウレ(ホヤの一種)など、多彩な種類に驚かされます。店主と交わされる会話を眺めているだけでも、この街の豊かな食文化が伝わってきます。
また、この市場の真骨頂は二階にあります。階段を上ると、「コメディア」と呼ばれる大衆食堂がひしめき合うフードコートが広がり、一階で売られている新鮮な魚介類をその場で調理してもらえます。観光向けに洗練されたレストランとは一味違う、地元の賑わいと活気あふれる環境の中で味わうシーフードは格別です。メニューはスペイン語がほとんどですが、指差しや簡単な英語だけでも十分注文可能。どの店も自慢の料理を提供しており、迷った場合は地元客で賑わう店を選ぶのが賢明です。
ここでぜひ試していただきたいのが、チリの家庭料理の代表「パステラ・デ・チョクロ(Pastela de Choclo)」。トウモロコシのペーストの下にひき肉や鶏肉、オリーブ、ゆで卵などが隠れているグラタン風の料理ですが、シーフード版(Mariscos)も抜群の美味しさです。さらに、後述する「カルディージョ・デ・コングリオ」も市場の食堂で味わえば、一層深い滋味を感じられるでしょう。
港町の定番料理!絶対に外せないシーフード
バルパライソのレストランや食堂のメニューには、魅力的なシーフード料理が豊富に揃っています。選ぶのに迷ったら、押さえておきたい定番をご紹介します。
- カルディージョ・デ・コングリオ(Caldillo de Congrio)
チリが誇る詩人、ノーベル文学賞受賞者パブロ・ネルーダが熱愛し、詩にも詠んだことで有名なスープ料理です。少し風変わりな見た目のコングリオ(アナゴ科の魚)を、玉ねぎ、ジャガイモ、にんじんなどと一緒にじっくり煮込んだ心温まる一品。クリームや牛乳を加えることもあり、濃厚でクリーミーなスープが冷えた体をやさしく包み込みます。特に海風が冷たい日には、このスープのありがたみが身に沁みます。ネルーダの詩を思い浮かべながら味わうのもまた格別です。
- マチャス・ア・ラ・パルメサナ(Machas a la parmesana)
シンプルながら多くの人を魅了する絶品料理。細長いマテ貝のマチャスに、パルメザンチーズとバター(白ワインが加えられることも)をのせてオーブンで香ばしく焼き上げます。熱々を口にすると、貝の旨みと塩気、チーズの香ばしさ、バターのコクが一体となって口いっぱいに広がります。前菜として、キリッと冷えたチリ産白ワイン(ソーヴィニヨン・ブランなど)と合わせるのがおすすめです。あまりの美味しさに思わずお代わりしたくなる逸品です。
- セビーチェ(Ceviche)
中南米で広く親しまれる魚介のマリネ料理ですが、チリ風セビーチェも負けず劣らずの味わいです。新鮮な白身魚(メルルーサやコルビーナなど)の角切りを、たっぷりのレモン汁、刻んだ玉ねぎ、コリアンダー、唐辛子で和えたさっぱりとした一品。ペルーの複雑なスパイス使いとは異なり、チリ版は素材の味をストレートに楽しむシンプルなスタイル。前菜にはもちろん、軽めのランチとしてもぴったりです。鮮度が命の料理ゆえ、信頼できる店で注文しましょう。
- エンパナーダ・デ・マリスコス(Empanada de mariscos)
チリの国民食とも言われるエンパナーダは、具材を生地で包み焼くか揚げる料理。肉やチーズが定番ですが、港町バルパライソならシーフード入りがおすすめです。エビやイカ、貝類がたっぷり詰まった熱々のエンパナーダは、手軽に楽しめるご馳走。揚げたてを頬張ると、サクサクの生地の中から魚介の旨味がじゅわっと広がります。街角の専門店やパン屋さんで気軽に買えるので、散策のお供にも最適です。
おすすめのシーフードレストラン紹介
バルパライソには、カジュアルな食堂から特別な日のための高級レストランまで、多彩なシーフード店が揃っています。ここでは雰囲気が異なる数軒をピックアップします。
セロ・コンセプシオンやセロ・アレグレの丘の上には、美しい景色を眺めながら食事ができるレストランが点在しています。「Restaurant La Concepción」や「Portofino Restaurant」などはその代表格。眼下に広がる港とカラフルな街並みが、料理の味をさらに引き立ててくれます。雰囲気も抜群で、特別なディナーにぴったり。ただし価格はやや高めなので、訪れる際は少しフォーマルな装いが望ましいでしょう。人気店は予約が推奨され、多くの店舗は公式サイトや電話で予約可能。スペイン語に自信がない場合は、ホテルのコンシェルジュにお願いするのも便利です。
一方で、より地元の雰囲気を味わいたいなら、港の近くやメルカド・カルドナル周辺がおすすめ。観光向けの華やかさは控えめですが、その代わりリーズナブルでボリューム満点、漁師たちに愛される豪快な料理に出会えます。
実践ポイント:レストランでのマナー チリのレストランでは、会計時に合計金額の約10%が「プロピナ(propina)」として提示されることが多く、これはサービス料(チップ)の目安です。必須ではありませんが、満足したサービスには支払うのが通例です。クレジットカード払い時にプロピナを加算するか、現金でテーブルに置くかを選べます。良いサービスを受けた際は、感謝の気持ちを表すのを忘れずに。
坂道を彩る、魅惑のストリートフード巡り

豪華なシーフードディナーも魅力的ですが、バルパライソの真の魅力を味わうなら、地元の人々に混ざってストリートフードを楽しむ体験が欠かせません。坂の多い街を歩き回り、少しお腹が空いたときに気軽にエネルギー補給できる安価で美味しい料理は、この街の生活そのものです。色鮮やかなアートが広がる街並みを背景に、熱々のストリートフードを頬張るひとときは、旅の素晴らしい思い出のひとつとなるでしょう。
小腹が空いたらこれ!手軽で美味しいバルパライソの味覚
バルパライソのいたるところの路地や広場には、食欲をそそる香りを漂わせる屋台や小さなお店が並んでいます。見かけたらぜひ試してほしい、定番のストリートフードをご紹介します。
- チョリパン(Choripán)
「チョリソー(Chorizo)」と「パン(Pan)」を合わせた名前通り、炭火で香ばしく焼いたジューシーなチョリソーをシンプルなパンにはさんだサンドイッチです。シンプルながらもその美味しさには秘密があります。カギとなるのはテーブルに置かれている「ペブレ(Pebre)」というチリの定番サルサ。刻んだトマト、玉ねぎ、コリアンダー、にんにく、唐辛子をオイルとビネガーで合わせたもので、好みの量をのせていただくのがチリ流。ピリッとした辛さと爽やかな酸味が、チョリソーの脂の旨みを一層引き立てます。一本で満腹感も満足感も得られる、逸品のB級グルメです。
- ソパイピージャス(Sopaipillas)
かぼちゃを練り込んだ小麦粉生地を薄い円盤状に伸ばして揚げたもので、外はサクサク、中はもちもちの食感が特徴です。チリ全土で親しまれるおやつで、特に寒い日や雨の日に恋しくなると言われています。食べ方は二種類。一つは屋台で揚げたてのソパイピージャスに、「ペブレ」やマスタード、ケチャップなど好みのソースをかけて味わう塩味系。もう一つは「ソパイピージャス・パサダス(Sopaipillas pasadas)」と呼ばれ、黒糖に似た甘いシロップ「チャンカカ」で煮込んだデザート系です。どちらも素朴で心温まる味わいです。
- コンプレト(Completo)
チリ人に愛されるチリ風ホットドッグがコンプレトです。「コンプリート(完全)」の名の通り、パンにソーセージをはさんだ上にたっぷりのトッピングがのせられます。その中でも定番は「イタリアーノ(Italiano)」。刻んだトマト(赤)、マッシュしたアボカド(緑)、マヨネーズ(白)がイタリア国旗のカラーを連想させることから名付けられました。アボカドのクリーミーさとトマトの酸味、マヨネーズのコクが絶妙に絡み合い、ジャンクながらクセになる味わいです。食べるときは口の周りが汚れてしまいますが、それも旅の醍醐味。大胆にかぶりつきましょう。
甘い誘惑—チリの伝統的スイーツ
美味しい食事の締めくくりには、甘いものを楽しみたいですね。チリには素朴でどこか懐かしい風味のスイーツがたくさんあります。
- アルファホーレス(Alfajores)
南米各地で親しまれている伝統菓子ですが、チリのアルファホーレスも絶品です。ほろほろと口の中で崩れるクッキー生地に、濃厚なキャラメルクリーム「ドゥルセ・デ・レチェ(Dulce de leche)」を挟み、周りにココナッツをまぶしたりチョコレートコーティングを施したりしています。コーヒーとの相性は抜群で、菓子店やカフェはもちろん、スーパーマーケットでも手軽に買えるためお土産にもぴったりです。
- モーテ・コン・ウエシージョ(Mote con huesillo)
夏のバルパライソの街角で、大きなガラス容器の中に琥珀色の飲み物を売る屋台をよく見かけます。これが「モーテ・コン・ウエシージョ」。乾燥桃(ウエシージョ)を戻して甘く煮たシロップに、茹でた麦(モーテ)が入った、チリの夏の風物詩的なノンアルコール飲料です。甘いシロップを飲みながらスプーンですくった麦や桃を食べるデザート感覚で、独特の食感とやさしい自然な甘みが、歩き疲れた体をほっと癒します。
ストリートフードを楽しむためのポイントと注意事項
手軽で美味しいストリートフードですが、より安心して楽しむためにはいくつか注意したい点があります。
読者が実践できること:安全に味わうために
- 衛生面に注意を払う: チリの衛生状況は全般的に良好ですが、不安な方は地元の人で賑わう活気ある屋台を選ぶのがおすすめです。沢山の人がいる店は食材の回転も早く、新鮮な可能性が高いです。また、注文後にその場で調理し、十分に火が通ったものを選ぶとより安全です。
- 現金を用意する: 屋台や小さな個人商店ではクレジットカードが使えないことが多いので、ストリートフードを楽しむときは少額のチリ・ペソ現金を必ず準備しましょう。お釣りがスムーズに渡せるよう、小額紙幣や硬貨を持っていると便利です。
- スリや置き引きへの警戒を怠らない: 人が多く集まる場所では、常にスリや置き引きのリスクがあります。食事に夢中になるあまり油断せず、バッグは体の前でしっかり抱え、貴重品はポケットに入れず確実に管理しましょう。テーブルにスマートフォンを置いたままにするのも避けてください。周囲に注意を払うことがトラブル回避の最善策です。
バルパライソ美食旅を120%楽しむための実践ガイド
バルパライソの美食の魅力を堪能したところで、ここからはあなたの旅をよりスムーズかつ快適にするための実用的な情報をご紹介します。アクセス方法や市内の移動手段、準備すべき持ち物、安全対策まで、これを読めば安心してグルメ旅へ出かけられることでしょう。
バルパライソへのアクセスと市内移動のポイント
多くの旅行者は、チリの首都サンティアゴを起点にバルパライソへ向かいます。サンティアゴからのアクセスはシンプルかつ便利です。
- サンティアゴからのアクセス
もっとも一般的かつ便利なのは長距離バスの利用です。サンティアゴ市内の「ターミナル・アメダ(Terminal Alameda)」や「ターミナル・サン・ボルハ(Terminal San Borja)」から、5分から15分間隔でバルパライソ行きのバスが出ています。所要時間はおおよそ1時間30分から2時間です。 読者が実践できるポイント:バスチケットの買い方 チケットは当日、各バス会社の窓口で購入可能です。「Un pasaje para Valparaíso, por favor.(ウン・パサヘ・パラ・バルパライソ、ポル・ファボール)」と伝えれば通じます。主要なバス会社には「TurBus」や「Pullman Bus」などがあり、料金やサービスに大きな違いはありません。週末や祝日は混雑するため、オンラインで予約しておくことをおすすめします。座席は快適で、リクライニング可能なシートがほとんどです。
- バルパライソ市内の移動手段
バルパライソは独特な地形のため、移動方法にも特徴があります。
- アセンソール(Ascensor): この街の象徴であるケーブルカー「アセンソール」は、急な丘の斜面と下の平地を結びます。19世紀後半から市民の足として親しまれ、現在も十数基が稼働中。木造の箱がガタガタと音を立てて登り降りする様子は貴重な体験で、乗車料金も数百ペソ程度と非常に安価。特にセロ・コンセプシオンやセロ・アレグレといった人気スポットへのアクセスに便利です。
- ミクロ(Micro)とコレクティーボ(Colectivo): 地元の人々に愛用されているのが、路線バスのミクロと、黒い車体に黄色い屋根が特徴の乗り合いタクシー「コレクティーボ」です。ミクロは路線が複雑で観光客にはややハードルが高いかもしれませんが、コレクティーボは決まったルートを走り、タクシーよりもリーズナブル。目的地がルート上であれば、手を挙げるだけでいつでも停まってくれます。
- 徒歩移動: バルパライソの本当の魅力を味わうなら、やはり歩いて街を巡るのが最適です。地図にも載っていない狭い路地、美しい壁画、絶景が広がる展望スポットなど、偶然の発見を楽しみつつ、迷子になることさえ旅の醍醐味と言えます。ただし石畳や坂道が多いため、歩きやすい靴が必須です(詳細は後述)。
旅の準備と持ち物チェックリスト
快適かつ安全な旅を実現するためには、事前の準備が欠かせません。バルパライソの気候と街の特性を踏まえた持ち物リストを参考にしてください。
読者が実践できるポイント:持ち物と服装の確認を
- 服装のポイント:
- 歩きやすい靴: バルパライソは石畳の道や急な坂道、手入れが行き届いていない階段が多いため、馴染んだスニーカーやトレッキングシューズなどが必須。ヒールのある靴は怪我のリスクが高いので避けましょう。
- 重ね着できる服: 海沿い特有の変わりやすい天気や冷たい風の影響から、日中は暖かくても朝晩や日陰は肌寒く感じることが多いです。Tシャツやシャツの上にフリースやウインドブレーカーなど、脱ぎ着しやすい羽織りものを必ず用意しましょう。
- ドレスコード: 街歩きには特別な服装の決まりはありませんが、高級な丘上のレストランでのディナーを予定する場合は、男性は襟付きシャツやジャケット、女性はワンピースなど少しフォーマルな服を用意すると良いでしょう。
- 必携アイテム:
- 日焼け対策グッズ: 強い日差しを防ぐため、日焼け止め、サングラス、帽子は必ず持参してください。
- 現金(チリ・ペソ): ストリートフードや市場、小規模店ではカードが使えないことが多いため、適度な現金を携帯することが重要です。
- モバイルバッテリー: 地図アプリを頻繁に使用したり、写真撮影を楽しんだりするとスマホの電池が早く減ります。予備のバッテリーがあると安心です。
- 海外旅行保険: 病気やけが、盗難など予期せぬトラブルに備え、必ず加入しましょう。保険証や緊急連絡先はすぐに取り出せる場所に携帯してください。
安全に楽しく過ごすためのポイント
バルパライソは魅力的な観光地ですが、軽犯罪のリスクもあるため基本的な注意が必要です。適切な注意を払うことで、安全に旅を満喫できます。
読者が実践できるポイント:トラブルを避けるための心構え
- 治安に関する注意点:
- 危険なエリアの回避: 人気の観光地であるセロ・コンセプシオンやセロ・アレグレは日中は比較的安全ですが、夜間や人通りの少ない路地裏の一人歩きは避けましょう。港湾地区や丘の上からはずれた地域も、日中であっても注意が必要です。ホテルスタッフなどに事前に安全なエリアと避けるべき場所を確認しておくと安心です。
- 貴重品の管理徹底: スリや置き引きから身を守るため、パスポートや多額の現金はホテルのセーフティボックスに預け、手元には必要最低限の現金を分散して持ち歩きましょう。リュックは前に抱える、ファスナー付きのバッグを選ぶなど工夫が効果的です。高価なアクセサリーや時計は外しておくのが安全です。
- トラブル発生時の対処法:
- 盗難に遭った場合: パスポートやクレジットカードを紛失した際は、まず最寄りの警察署(Carabineros)で盗難証明書(Constancia)を発行してもらいます。その後、カード会社に連絡してカードを停止し、パスポート再発行の際は在チリ日本国大使館に速やかに相談してください。
- 公式情報の活用: 渡航前には必ず「外務省 海外安全ホームページ」で最新情報を確認しましょう。また、「たびレジ」に登録すれば、緊急時に日本大使館から重要なお知らせを受け取れます。
バルパライソの食文化をより深く味わうために
バルパライソのグルメを楽しむだけでなく、地域の食文化をじっくり体験する方法もあります。
- チリワインとの絶妙なペアリング: チリは世界的に知られるワインの名産地であり、バルパライソの近郊には上質な白ワインの産地カサブランカ・ヴァレーがあります。特に、ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネは冷涼な気候が生んだ逸品。新鮮なシーフードと地元の白ワインの組み合わせは格別です。レストランでソムリエにおすすめを尋ねたり、ワイナリーツアーに参加してチリワインの奥深さを味わうのも、旅の素敵な思い出になるでしょう。
- 料理教室やフードツアーの参加: 地元の食文化をより深く理解するために、料理教室に参加するのもおすすめです。市場で一緒に食材選びをした後、セビーチェやエンパナーダの作り方を習えば、自宅でもバルパライソの味を再現できます。また、地元ガイドによるフードツアーでは、観光客には知られていない隠れた名店や料理にまつわるストーリーを知ることができ、充実した体験が得られます。
潮風と色彩の記憶、バルパライソの食が心に刻むもの

旅の終わりに、バルパライソの丘の上から夕日に染まる港を見渡すと、この街で出会ったさまざまな味わいが鮮やかに蘇ってきます。
市場のざわめきの中で味わった、魚介の旨味がぎゅっと詰まったスープ。路地裏のアートを背景に頬張った、熱々でジューシーなチョリパン。太平洋を望むレストランで、地元の白ワインとともに楽しんだマチャス・ア・ラ・パルメサナの香ばしさ。
バルパライソでの食事は、単なる空腹を満たすだけの行為ではありませんでした。それは、この街が歩んできた歴史を味わうことであり、急な坂道をたくましく暮らす人々の日常に触れること、そして壁に描かれたアートのように情熱的で鮮やかな文化を体感することでした。
潮の香りとともに刻まれるシーフードの深い味わい。陽気なラテンのリズムが聞こえてきそうなストリートフードの楽しさ。そのふたつが、この街の紛れもない素顔なのです。
この街を離れるとき、あなたの心には、バルパライソという名の決して色あせることのない鮮やかな一枚の絵が描かれていることでしょう。その絵の中には、きっと忘れられない美味しい記憶が温かな光を放っています。
さあ、次はあなたの番です。歩きやすい靴と尽きることのない好奇心を携えて、この唯一無二の港町へ。色彩と潮風、そして最高の美食が、あなたを待っています。

