遥か太平洋の彼方、カナダ西海岸に横たわる巨大な島、バンクーバー島。手付かずの原生林が鬱蒼と茂り、荒々しいフィヨルドが海岸線を刻むこの場所は、まさに大自然の聖域です。都会の喧騒から逃れ、地球本来の姿に触れたいと願う旅人にとって、ここは約束の地と言えるでしょう。そして、この島の最大の魅力は、なんといってもその沖合に広がる生命の海。夏、栄養豊富な海流に乗って、地球上で最も雄大な生き物たちが集まってくるのです。そう、クジラです。ザトウクジラが豪快に宙を舞い、シャチの群れが知性あふれる狩りを見せる。その光景は、一度見たら一生忘れることのできない、魂を揺さぶる感動を与えてくれます。この記事は、単なる観光ガイドではありません。あなたがバンクーバー島で最高のホエールウォッチングを体験し、太平洋の巨獣たちと心を通わせるための、冒険の羅針盤となるものです。さあ、深呼吸をして、潮の香りと生命の躍動に満ちた旅へと、一緒に漕ぎ出しましょう。
この壮大な海の旅を終えた後も、カナダにはロッキー山脈の絶景が広がるバンフの定番スポットなど、訪れるべき魅力的な場所が数多く存在します。
なぜバンクーバー島なのか?太平洋の生命が集う奇跡の海域

世界各地にホエールウォッチングの名所は数多くありますが、なぜバンクーバー島が特別視されるのでしょうか。その理由は、この島の地理的特徴と、そこから生まれる驚くべき生物多様性にあります。
クジラたちの大動脈、セイリッシュ海
バンクーバー島と北米大陸の間に広がる内海は、セイリッシュ海(Salish Sea)と呼ばれています。この海域には無数の島々や入り組んだ湾、そして複雑に交差する水路が点在し、太平洋から流れ込む栄養豊富な海流が巡ることで、「生命のゆりかご」とも言える壮大な生態系を育んでいます。海底から湧き上がる湧昇流がプランクトンを大量発生させ、それを餌に小魚が集まります。さらにその小魚を追って、ニシンやサーモンなどの大型魚が集結し、食物連鎖の頂点に立つクジラやシャチにとっては、理想的な餌場となるのです。
春になると、繁殖地のメキシコ・バハ・カリフォルニアから北極海へ向かうコククジラたちが、この沿岸を北上していきます。そして夏季には、ザトウクジラがハワイやメキシコから何千キロも旅をしてこの海域へ集まり、豊かな餌で体力を回復させます。バンクーバー島周辺の海は、彼らにとって長い旅路の途中にある「サービスエリア」のような休息と補給の場となっているのです。
多彩な海の生き物たちとの出会い
バンクーバー島のホエールウォッチングが特に魅力的なのは、主役のクジラだけでなく、その周りを彩る多様な海洋生物が共存しているからです。ツアーに参加すれば、クジラの姿を待つ間も飽きることはありません。
- シャチ(オルカ): バンクーバー島周辺は、世界でもトップクラスにシャチの観察に適した場所です。主に魚を捕食する「レジデント・オルカ」の家族群れや、アザラシなどの海洋哺乳類を狙う「トランジェント・オルカ(別名:ビッグズ・キラーホエール)」といった異なる群れに出会えることがあります。彼らの社会的なやり取りや高度な狩猟技術を間近で観察できるのは、まさに圧巻の体験です。
- ザトウクジラ: 夏のシーズンを代表するザトウクジラは、体重約40トンの巨大な体を宙に舞わせる「ブリーチング」や、水面に尾びれを叩きつける「テールスラップ」などの迫力あるパフォーマンスで見る者を魅了します。尾びれの模様は個体ごとに異なり、研究者たちはそれを「指紋」のように用いて個体を識別しています。
- コククジラ: 「灰色のクジラ」とも呼ばれ、その特徴は体表に付着したフジツボやクジラジラミにあります。春の北上時期に沿岸付近でその姿が見られ、海底の泥ごと餌を吸い込む「ボトムフィーディング」という独特の採餌方法を用います。
- その他の海の仲間たち: クジラ以外にも、岩場で日光浴を楽しむアシカやアザラシの群れ、船のそばでジャンプするダンダラカマイルカの群れ、そして浮かぶ姿が愛らしいラッコも観察できます。空を見上げると、翼を広げると2メートルにもなるハクトウワシが悠然と舞っていることもあり、ホエールウォッチングツアーはこの豊かな生態系全体を体感できる貴重な冒険なのです。
バンクーバー島ホエールウォッチングのベストシーズンと出発地
最高の体験を得るためには、いつ、どこへ訪れるべきかを把握することが大切です。バンクーバー島のホエールウォッチングは、季節や場所によって出会えるクジラの種類や遭遇率に違いがあります。あなたの旅のスタイルに合わせたプランを立ててみましょう。
季節ごとのクジラの動向
バンクーバー島のホエールウォッチングシーズンは、主に春から秋まで続きます。
- 春(3月~5月): この時期の主な見どころは、北極海へ向けて北上するコククジラです。島の西側、特にトフィーノやユクルーレット周辺では、沿岸付近を移動する群れを観察する「パシフィック・リム・ホエール・フェスティバル」も開催されます。ザトウクジラも徐々に戻り始め、シャチは年間を通じて目撃されることがあります。肌寒さは残るものの、本格シーズンの始まりを告げる期待に満ちた季節です。
- 夏(6月~9月):ピークシーズン
間違いなくホエールウォッチングのベストシーズンです。ザトウクジラが最も活発に餌をとり、ブリーチングなどの迫力ある行動を見るチャンスが高まります。シャチの群れも頻繁に現れ、まさにクジラたちの饗宴が繰り広げられます。気候も安定し晴れの日が多いため、快適にクルーズを楽しめます。ただし、世界中から多くの観光客が集まるため、ツアーの予約は必須です。特に人気のツアー会社は数ヶ月前から満席になることがあるため、早めの計画が成功の秘訣です。
- 秋(10月~11月): ザトウクジラが冬の繁殖地へ南下を開始する時期です。夏ほどの数は期待できないかもしれませんが、出発前の最後の採餌行動を見ることができます。観光客が減少するため、より静かで落ち着いた環境で観察したい方におすすめです。天候は不安定なこともありますが、ドラマチックな空の下でのクジラ観察は格別の体験となるでしょう。
主な出発地とそれぞれの特徴
バンクーバー島は広大で、ホエールウォッチングツアーの発着港も複数あります。各地にはそれぞれ特色があるため、旅の目的や滞在場所に合わせて選ぶことをお勧めします。
ビクトリア(Victoria)
バンクーバー島の南端に位置する州都ビクトリアは、アクセスが良好でツアー会社も多く揃う最大の拠点です。ブリティッシュコロンビア州議事堂や美しい庭園など観光名所も充実しており、街歩きとホエールウォッチングの両方を楽しみたい旅行者に最適です。バンクーバー本土からのフェリーや水上飛行機で簡単にアクセスできるため、短期間の旅行者に便利。インナーハーバーから出航するツアーは、セイリッシュ海南部でザトウクジラやシャチを探すコースが主流で、初心者も気軽に参加できる最もポピュラーな選択肢です。
テレグラフコーブ(Telegraph Cove)
バンクーバー島北部に位置する、絵葉書のように美しい小さな港町です。かつての漁村の風情を色濃く残すこの地は、「オルカの聖地」として世界中のクジラ愛好家に憧れられています。ジョンストン海峡という狭い水道では、夏になるとレジデント・オルカのスーパーポッド(複数家族による大集団)が集まることでも知られています。ビクトリアに比べてアクセスはやや不便ですが、その分、より自然のままの本格的な体験を期待できます。静かな環境でじっくりシャチを観察したい方や、研究者の気分で楽しみたい方に特におすすめのスポットです。
トフィーノ&ユクルーレット(Tofino & Ucluelet)
島の西海岸に面し、太平洋に直接接するこの2都市は、荒々しくも美しい自然景観が広がるパシフィック・リム国立公園保護区の玄関口として知られています。外洋に面しているため、コククジラの回遊ルートに位置し、春のホエールウォッチングに最適なエリアです。夏にはザトウクジラも多く訪れます。サーフィンの名所としても有名で、アクティブな滞在を希望する方にぴったり。ビクトリアやナナイモから車で数時間かかりますが、壮大な原生林とワイルドな海岸線が織り成す絶景は、その時間をかける価値があります。
さあ、冒険へ!ホエールウォッチングツアー徹底準備ガイド

最高の体験は、入念な準備から始まります。ここでは、ツアー予約から当日の持ち物、守るべきルールまで、安心して冒険に臨むための具体的な手順をわかりやすくご紹介します。
ツアー会社の選び方と予約の流れ
バンクーバー島には多数のツアー会社があり、どれを選べば良いか迷うことも多いでしょう。以下のポイントを参考に、信頼できる会社を見極めてください。
- 安全性と実績: 長年にわたる運営実績があり、安全対策が徹底されている会社を選びましょう。公式ウェブサイトで船の設備や安全方針を確認できます。
- ガイドの専門知識: ツアーの質に大きく影響するのがガイドの専門性です。海洋生物学に精通したナチュラリストが同行するツアーなら、クジラの生態や行動について深い解説が受けられ、満足度が高まります。
- 環境への配慮: 持続可能な観光を実践する会社を選びましょう。例えば、「Whale Wise」プログラムに参加する会社は、クジラとの距離を安全に保つなど環境保護に努めています。
- 船の種類: ツアーには主に次の2種類の船があります。
- 大型クルーザー: 揺れが少なく、トイレや屋内キャビンも完備。家族連れや船酔いしやすい方も安心です。高い位置から広範囲を見渡せます。
- ゾディアックボート(高速ラバー・ボート): 水面に近い目線で、よりスリリングな体験が可能。海との一体感を味わいたいアドベンチャー好きにおすすめです。防寒・防水スーツの貸し出しが一般的です。
予約の流れ(オンライン予約がおすすめ)
- ステップ1:情報収集と比較
- ビクトリアなら「Prince of Whales」や「Eagle Wing Tours」、トフィーノなら「The Whale Centre」や「Jamie’s Whaling Station」など、出発地ごとの主要ツアー会社の公式サイトをチェックしましょう。
- ツアー時間、料金、船の種類、キャンセルポリシー、口コミを比較検討します。
- ステップ2:オンライン予約
- 多くのツアー会社は公式サイトにオンライン予約システムを設けています。希望日時と人数を指定し、クレジットカード情報を入力して予約を完了します。
- 7月~8月のピークシーズンは非常に混雑するため、日程が決まり次第、1~2ヶ月前までに早めに予約するのがおすすめです。早期予約割引がある場合もあります。
- ステップ3:予約確認メールの保存
- 予約完了後に届く確認メールには、集合場所の地図や時間、注意事項が記載されています。必ず内容を確認し、スマートフォンに保存するか印刷して当日持参しましょう。
冒険に備える持ち物リスト
海上は陸上よりも天候が変わりやすく、体感温度も低くなりがちです。快適に過ごすために、以下を参考に持ち物を準備してください。
- 服装(最重要ポイント!)
- レイヤリング(重ね着): 基本となるのは重ね着です。暖かい日でも海風は冷たいため、Tシャツの上にフリースやセーターを重ね、その上に防水・防風ジャケットを着用しましょう。脱ぎ着で温度調整が容易にできます。
- 長ズボン: ジーンズやハイキングパンツがおすすめ。ショートパンツは寒さを感じやすいので避けるのが無難です。
- 歩きやすく滑りにくい靴: スニーカーやデッキシューズなど濡れても問題なく、滑りにくい靴を選びましょう。ヒールのある靴は危険です。
- 小物類
- 帽子: 日差しよけと防寒を兼ねるもの。風で飛ばされにくいようあご紐付きが望ましいです。
- サングラス: 強い日差しや海面の反射光から目を守ります。偏光レンズなら水中の様子も見やすくおすすめです。
- 日焼け止め: 夏はもちろん曇りの日でも紫外線は強烈です。しっかり塗りましょう。
- 手袋: 春や秋のツアーでは指先の冷え対策に薄手の手袋が役立ちます。
- 撮影・観察用具
- カメラ: 望遠レンズがあれば遠くのクジラも鮮明に撮影可能。水しぶきの影響を考え、防水ケースやレンズ拭きシートを用意しましょう。予備バッテリーや空きメモリーカードも忘れずに。
- 双眼鏡: 潮吹きや岩場の海鳥観察に便利。持っていると観察が一層楽しくなります。
- その他
- 船酔い止め薬: 酔いやすい方は乗船30分~1時間前に服用しましょう。現地薬局でも購入可能です。
- 水分・軽食: ツアーは3時間以上かかる場合もあります。水やチョコレートなど小腹を満たすものがあると便利です。
- バックパック: 両手が自由になるリュックタイプのバッグが持ち運びに便利です。
大切にしたいルールとマナー
私たちは自然とそのすみかにお邪魔しているゲストです。クジラや海洋生物、環境に敬意を払って、以下のルールを守ってツアーを楽しみましょう。
- クジラとの距離を守る: カナダの法律では、ほとんどのクジラに対して最低100メートルの距離保持が義務付けられています。特にシャチに関しては、ブリティッシュコロンビア州南部で400メートルの距離規制があります。これはクジラの自然な行動を妨げず、ストレスを軽減するためです。信頼できるツアー会社はカナダ漁業海洋省のガイドラインを遵守しています。船長の指示に必ず従いましょう。クジラが船に近づいてくることもありますが、その場合はエンジンを停止またはニュートラルにして静かに通過を待ちます。
- 船上の安全確保: 船が動いている間は必ず手すりにつかまるか着席しましょう。興奮して立ち上がったり、船縁に身を乗り出すのは非常に危険です。クルーの指示には必ず従ってください。
- ゴミは必ず持ち帰る: 海にゴミを捨てることは絶対に避けましょう。プラスチックごみは海洋生物に深刻な影響を与えます。自分の出したゴミは必ず港まで持ち帰りましょう。
- 静かに観察する: クジラが近づいたら大声や騒ぎは控え、静かな環境で呼吸や潮吹きの音に耳を傾けてください。それがより感動的で豊かな体験につながります。
- フラッシュ撮影の禁止: カメラのフラッシュは動物を驚かせる恐れがあるため、必ずオフに設定してください。
大洋の鼓動を感じる:ホエールウォッチング体験記
準備が整い、いよいよ出航の時が訪れました。ここでは、これからあなたが体験するであろう感動に満ちたツアーの一端を少しだけご紹介しましょう。
出港からクジラとの遭遇まで
港の集合場所に集まると、同じ船に乗り合わせる世界各国からの旅行者たちの期待に満ちた表情が見られます。受付が完了し、ライフジャケットを装着(もしくは置き場所を確認)した後、いよいよ乗船となります。船がゆっくりと港を離れると、カモメの鳴き声と潮の香りが周囲を包み込みます。
出航後、ガイドがマイクを手に取り、今日のツアーの流れや安全面に関する説明、またこの海域で観察できるかもしれない生き物について、ユーモラスに解説してくれます。その話に耳を傾けるうちに、バンクーバー島の美しい海岸線は徐々に遠ざかっていきます。
船は沖合へと進み、周囲には360度見渡す限りの海が広がります。ガイドや船長は双眼鏡を手に、鋭い眼差しで水平線を注視しています。「あそこ!9時の方向に潮吹きだ!」と誰かが声を上げると、船内の空気は一気に引き締まります。乗客全員がその方向をじっと見つめると、遠くの水面に白い霧のような潮吹きが高く上がっているのが確認できました。ついに、主役の登場です。
荘厳なる巨獣、ザトウクジラの舞
船はゆっくりと、しかし確実にその潮吹きが上がった方角へと向かいます。エンジン音が静まると、船は波に身を任せるように漂い始めます。周囲は静寂に包まれ、聞こえてくるのは風と波の音、そして息をのむ乗客たちの気配だけです。
すると、目前で「プシューッ!」という力強い呼吸音が響きわたります。巨大な黒い背中が水面に現れ、ゆっくりとアーチ状に湾曲して再び海中へと沈んでいきました。これはザトウクジラ。その圧倒的な大きさと存在感に、誰もが言葉を失います。
一頭かと思いきや、別の場所からも潮吹きが上がり、数頭のグループで行動している様子が分かります。しばらくすると、一頭が巨大な胸びれを水面に持ち上げ、まるで挨拶をするかのように力強く水を打ちつけました(ペックスラップ)。そして、瞬間は突然訪れます。
船から少し離れたところで、約40トンとも言われる巨体がゆったりとしたスローモーションのように海面から飛び出しました。これがブリーチングです。水しぶきは何十メートルもの高さに達し、巨大な体が水面に叩きつけられる轟音が遅れて響き渡ります。それはまさに生命力の爆発。理屈を超えた圧倒的な光景に、ただただ感動せざるを得ません。船上には歓声と拍手が湧き起こります。最後に、巨大な尾びれを優雅に掲げて深海へと潜りゆく姿を見せてくれました。尾びれの裏側に刻まれた模様は、二つとして同じものはありません。私たちは確かに「あの」クジラに出会ったのです。
知性の狩人、シャチ(オルカ)の群れ
ザトウクジラの感動に浸っていると、無線から「トランジェントのポッドを発見」との連絡が入りました。船長は即座に進路を変え、新たな目的地へと舵を切ります。
しばらく移動を続けると、水面を切り裂くように泳ぐ、黒く鋭い背びれの連なりが見えてきました。そこにいたのはシャチです。オスの背びれは2メートルにも達し、その威風堂々たる姿が印象的です。彼らは数頭の家族単位からなる「ポッド」と呼ばれる群れで行動しており、その一糸乱れぬ泳ぎは彼らの強い絆を物語っています。
ガイドは、これは主にアザラシなどを狩るトランジェント・オルカの群れであると教えてくれます。獲物に気づかれないよう静かに、しかし効率的に連携しながら移動しているのです。時折、水面から頭を出して周囲の様子をうかがう「スパイホッピング」と呼ばれる行動も見せてくれます。その黒く大きな瞳には、明らかに人並み以上の知性が宿っているように感じられます。
狩りの光景はなかなか目にすることはできませんが、その存在感と統率のとれた動きからは、海の生態系の頂点に君臨する存在であることがひしひしと伝わってきます。私たちはここで、野生が紡ぐ壮大なドラマの最前列の観客となっているのです。
万が一の事態に備えて

自然を相手にするアクティビティには予測できないトラブルがつきものですが、事前に対応法を把握しておけば慌てずに行動できます。
悪天候によるツアー中止について
安全を最優先に考えます。強風や高波、濃霧などの状況で船長が航行の安全が確保できないと判断した場合、ツアーは中止となります。
- ツアー会社からの連絡: ツアー中止の決定は、通常ツアー開始の数時間前か前日に行われます。予約時に登録したメールアドレスや電話番号へ連絡が入るため、必ず確認できるように準備しておきましょう。
- 代替案について: ツアーが中止された場合、多くの会社が以下のような選択肢を用意しています。
- 別日に振り替え: 滞在期間に余裕があれば、翌日以降のツアーに変更できることが多いです。
- 全額返金: 振り替えが難しい場合は、支払った料金の全額返金が行われます。
- バウチャー発行: 将来(一般的に1年〜数年以内)利用できる乗船バウチャーを提供する会社もあります。
- 自己判断は避ける: 天候が悪そうだからといって自己判断でキャンセルすると、通常のキャンセル料がかかることが多いため、必ずツアー会社からの正式な中止通知を待ちましょう。心配な時は、積極的に問い合わせて確認するのが望ましいです。
クジラに会えなかった場合の「ホエールギャランティー」とは
ホエールウォッチングは野生動物を対象としているため、100%の遭遇を保証することはできません。しかしバンクーバー島のツアー会社は非常に高い遭遇率を誇り、夏季には95%以上とも言われています。
それでも万が一クジラ(主にシャチやザトウクジラ)に出会えなかった場合に備えて、多くの会社で「ホエールギャランティー(クジラ保証)」という制度が設けられています。
- 保証の内容: この制度では「クジラに会えなかった場合、無料で再度ツアーに参加できる」という権利が与えられます。多くの場合、この権利は「生涯にわたり有効」で、何年後でも使用可能です。つまり、「今回は見られなくても、再びバンクーバー島を訪れる理由になる」と前向きに捉えられる素晴らしい保障です。
- 注意点: この保証は料金の返金ではなく、あくまで「再乗船の権利」であることにご注意ください。また、保証の対象となるクジラの種類(例:ザトウクジラまたはシャチ限定など)は会社により異なるため、予約時に詳細を確認することをおすすめします。
船酔いした時の対処法
楽しいツアーを船酔いで台無しにしないためのポイントです。
- 事前の準備:
- 前夜は十分な睡眠をとる。
- 乗船前は脂っこい食事やアルコールを避け、軽い食事を心がける。
- 酔い止め薬は説明書に従い、乗船の30分〜1時間前に服用する。生姜(ジンジャー)も酔い止め効果があると言われています。
- 船上での対策:
- 気分が悪くなったら、なるべく遠くの動かないもの(水平線など)をぼんやり眺める。
- スマホや本など近くの一点を見るのは避ける。
- 新鮮な空気が吸える屋外デッキに出るのがおすすめです。
- 船の中央や後方は比較的揺れが少ないとされています。
- 無理せず、遠慮なくクルーに助けを求めてください。船酔い対策に慣れているスタッフが多く、多くの場合エチケット袋の提供や酔い覚ましのアドバイスをしてくれます。
ホエールウォッチングだけじゃない!バンクーバー島のさらなる魅力
クジラとの出会いはもちろん感動的ですが、バンクーバー島の魅力はそれだけに留まりません。ぜひ滞在を延ばして、この島の豊かな自然と文化にじっくり触れてみてください。
世界遺産級の原生林を散策する
バンクーバー島には、太古の時代から続く温帯雨林が広がっています。特にトフィーノやユクルーレット周辺にあるパシフィック・リム国立公園保護区では、樹齢数百年を超える巨大なベイスギやダグラスファーの森を歩くことができます。苔に覆われた木々、シダが生い茂る林床、そして差し込むやわらかな木漏れ日。まるで別世界に迷い込んだかのような神秘的な空間は、心をリフレッシュさせてくれます。「ワイルド・パシフィック・トレイル」や「レインフォレスト・トレイル」といった整備された遊歩道を歩けば、安心して原生林の息吹を感じられます。陸地の自然も、この島の大きな魅力のひとつです。実際に、陸地からクジラを観察できるスポットをまとめたThe Whale Trailのような取り組みもあり、海と陸のつながりを実感させてくれます。
ブッチャート・ガーデンで心安らぐ時間を
ビクトリアの近郊に位置する「ブッチャート・ガーデン」は、世界各地から訪れる人々を魅了する花の楽園です。かつての石灰石採掘場跡を、100年以上もの年月をかけて美しい庭園へと生まれ変わらせました。沈床園(サンクンガーデン)、ローズガーデン、日本庭園など、異なるテーマを持つ庭園が広がり、四季折々の色鮮やかな花々が咲き誇ります。雄大な自然の中でのホエールウォッチングを楽しんだ後、人工的に作り上げられた繊細な美の世界に浸るのも格別です。
美食の島を堪能する
豊かな海と肥沃な大地に恵まれたバンクーバー島は、食の宝庫でもあります。ビクトリアのフィッシャーマンズワーフでは、気軽にフィッシュ&チップスや新鮮なカキを味わうことができます。また、島全体で水揚げされるサーモンは格別で、グリルやスモークなど多彩な調理法で楽しめます。近年では、地元の食材を活かしたファーム・トゥ・テーブルのレストランやユニークなクラフトビールの醸造所、ワイナリーも増え続けており、美食家たちを魅了しています。大自然を満喫した後は、島の恵みを心ゆくまで味わい尽くしましょう。
地球と生命への敬意:持続可能なホエールウォッチングのために

私たちが体験する感動的なホエールウォッチングは、健全な海洋環境があって初めて成立します。旅行者としての一人ひとりが、その環境保護に関わる一員であるという自覚を持つことが、この素晴らしい体験を未来へと受け継いでいくために不可欠です。
エコツーリズムの理念
ホエールウォッチングツアーへの参加は、単なる娯楽ではありません。それは野生動物の生態を学び、自然保護の大切さを直接感じられる「生きた教室」と言えます。ツアー選びの際には、利益のみを追求するのではなく、環境保護や地域社会への貢献に真剣に取り組む事業者を選ぶことが大切です。
例えば、Ocean Wiseのような団体は、クジラや海洋生物への影響をできるだけ抑えるための指針「Whale Wise」を策定し、それを守る事業者を認証しています。ウェブサイトなどでこうした認定を確認することは、責任ある旅行者としてできる具体的な行動の一つでしょう。また、ツアー料金の一部をクジラの保護や研究活動に寄付するプログラムを導入している会社もあります。私たちの支払いが、この美しい海を守る力になるのです。
私たちにできること
この壮大な冒険の終わりは、新たな始まりでもあります。バンクーバー島で感じた感動を、ぜひあなたの日常に持ち帰ってください。クジラたちが直面しているプラスチック汚染や気候変動といった課題に目を向け、日々の暮らしの中でプラスチックごみを減らし、エネルギー消費を控えるなどの小さな行動を積み重ねること。それこそが、太平洋の巨大な生き物たちへの最大の敬意であり、恩返しとなるでしょう。
バンクーバー島でのホエールウォッチングは、人生観を変えるほどの感動を与えてくれます。それは、地球という惑星がいかに奇跡的で、尊い生命に満ちているかを教えてくれるからです。波間から現れる巨大な眼差しと視線が交わる瞬間、きっとあなたは、私たち人間もまた、この壮大な自然の一部であることを思い出すでしょう。さあ、準備は整いましたか?太平洋があなたを待っています。

